アトラ・ハシス

第三回リアクション

『微笑み、見えて』

川岸満里亜

 降り積もる雪のように
 純白の、この世界のように
 人の心も真っ白であればいいのにね

 色の中にさらされて
 交じり合った色は全て
 最後には、黒くなってしまうの?

 降り積もる雪のように
 冷たく、融けやすい雪のように
 人の心は冷たくはないはずだから
 人の心は簡単には溶けないはずだから

 幾多の色が混じっても
 きっと、塗り替えることもできるよね

*        *        *

 きちんと、食事は摂っている。
 食べ物も持ってきた。
 服も沢山着てきた。
 もう、倒れたりはしない。

 マール・ティアウォーターは、タウラス・ルワールのハウスキーパーを始めてからも、連日、シャオ・フェイティンの元を訪れていた。
 警備の必要性を誰よりも感じていた彼女は、彼の協力をどうしても勝ち得たかった。
 彼女の細い腕の中には、木で編まれたカゴがある。その中には、焼きたてのふっくらとしたビスケットが。
「朝ごはん用にビスケット焼いたの。お願い聞いてくれたら、これあげる」
 香ばしい匂いが漂う。
 シャオは見るからに料理が大雑把そうであり、ここに来てから文化的な食事など、ろくに食べてはいないだろうと思えた。 
「これだけじゃないよ、これからもわたしの分はシャオに全部上げる。そ、それでも足りないなら……おじ……シャッ……シャオが言う事何でも聞く」
 追い払うように振り上げたシャオの手を掴んで、マールは必死に言葉を続けた。
「シャオ、いつも助けてくれて良い人だもん。面倒だって言うけど、ちゃんとテントまでいつも運んでくれるもん。本当に酷い人は、わたしを遠巻きにしているだけの村の人の方なんだもん。シャオはちゃんとお願いすれば聞いてくれるもん。それにね……シャオはずっと村の外で1人で生活してたでしょ? ずっと、すごいなーって思っていたの。わたしが頑張ってやれない事でもシャオは何でもない事みたいに出来るでしょ? だから……そっ……尊敬しているんだよ。
 お願い……」
 哀願とも言える顔で、シャオを真剣に見るマールに対し、その日、シャオはついに根負けしたのだった。
「……警備は保留だ。俺にも都合がある。とりあえず、今の連中でもなんとかなる程度の提案はしておいてやるから、当面はそれで我慢しろ」
「当面は……当面はってことは、いずれ引き受けてくれるの!? それなら、隊の方は当面、いいよ。わたし、島の村に行こうと思うの。その道のりの護衛だけ、頼めないかな?」
 シャオの言葉に、マールの表情が一気に明るくなる。シャオは自分の失言に気付き、一人苦笑する。
「護衛か……」
 差し出されたビスケットに今気付いたように、シャオの手がそれに伸びた。
「……そのしつこさと、こいつに免じて引き受けよう。どうせ、何度か行き来する予定もある」
 無造作ともいえる仕草で、一つ、摘まんで口に運ぶ。
「あ、ありがとう!」
 ほら、やっぱり聞いてくれた。
 ビスケット食べたかったんだ。また、作ってあげないと。
 ビスケットのカゴをマールはぎゅっと抱きしめた。
 シャオはやっぱり良い人だ。
 カゴを抱えたまま、マールは嬉しそうに、微笑んだ。
「……ただし、条件がある。原住民の集落の中で、もし俺を見かけても、今のこの格好をしている時意外は見知らぬ他人だと思い、一切無視しろ。破れば、契約はその場で破棄だ。いいな?」
「分かった。約束するよ。シャオにも、シャオの事情があるのよね」
 はい。
 と、マールはビスケットのカゴをシャオに渡した。
 これは、約束の印。
 出かけ用に、お弁当も作るから、と。
 わたしのお願いを聞いてくれた、あなたに。
 また、美味しいものを作って、あげるから。
「約束するよ」
 ふわりと微笑んだ。
 心を籠めて……。

 先日、タウラス・ルワールは、レイニ・アルザラから幾つか叱責を受け、選択を迫られた。
 数日考えた末の素直な気持ちを、タウラスはレイニに告げる。
 まずは信頼に関して。
 レイニは、自分への信頼が足りないとタウラスを責めた。
 しかし、信頼とは求めるものではなく、培うものだ。
 それは彼女自身も解ってはいたのだろうが……。
 タウラスは、レイニが思うように自分もレイニからの信頼を得ているとは思っていなかった事、そう思っていた相手に、信頼が足りないと言われ戸惑ったことを正直に話した。
 その上で、信頼には信頼で返す気はある、と告げる。
 また、村長について。
 レイニは会議での発言どおり、望んで村長に立候補したわけではない。
 王政を望んだのは、自分も頼れる存在が欲しかったからだと。自分の行う政治に対して、上から判断を下してくれる絶対的存在が欲しかったせいだと、タウラスに話して聞かせた。そして、自分を長とし、互いに信頼しあい、村を率いるのか、それとも、タウラスがタウラスの方針で村を率いるのか、その選択を迫った。
「自分にしか出来ないことではなく、自分でも出来る事として補佐の立場を望みました。出来る事ををしろと仰るのなら、このままの立場であなたを補佐することしか思いつきません」
 タウラスはそれに対して、現状維持を望んだ。
 タウラスには大切な存在がある。
 会議で漏らしてしまった、主と故郷への想い。主への思いを隠したまま村のためだけに尽くせば、自分はいつか壊れるだろうと危惧している。だからこそ一歩引いた位置でなければ村に関れないという考えは変わらない。
 そういう自分が一人で村を率いるのは誰のためにもならないはず。そんな思いから出た結論だった。
「そう……」
 レイニの返事には、喜びも、悲しみの感情も含まれていなかった。
「無理なことを言ってごめんなさい」
 レイニのその言葉に、タウラスは微かな失望の響きを感じ取った。僅かに心が離れたような、隙間を吹き抜ける風を感じた。
「レイニ殿も私も、脆さを秘めています。今のまま協力し合うほうが村のためにはなるでしょう。互いに支え合うというよりは、どちらかが壊れた際の保険に近い気もしますけれど……。もちろん、どちらも壊れないように支えるのが一番だとも思っています」
「私は、自分一人であれば、いくらでも強く生きれると思ってる。どんな逆境でも耐え、乗り越える自信もある。……だけど、皆私のように強い心ではいられないから。皆が脆い心を持っていることは、理解しているのよ。だから、たまに怖くなる。私は耐えられても、皆は耐えられるのか、と。何かが起きた時に、私は皆の心を救ってあげられるのか、って。その心を壊さずに助けてあげられるのかってね。
 そして今、あなたの答えを聞いて、あなたの脆さも少し理解した。ごめんね、タウラス。私はあなたを解ってなかった。あなたはいつも、村の事に一生懸命で、村を一番に考えてくれている人だと、そして、そうあってほしいと、勝手に思い込んでいた。あなたには、あなたの大切なものがある。それがあなたを支えているのね」
 微笑んだその顔に、いつものような力は感じられなかった。
「仕事のパートナーとして、数ヶ月経つけれど、思えば私達、お互いのこと、何も良く知らないのよね。それでも、私は同じ村を率いる者として、あなたの事を一番に信頼しているから……」
 だから、自分を信頼しろ、とまではレイニはもう言わなかった。
 ただ、「時間が出来たのなら、一緒にお酒でも飲もうか」とレイニは言い、タウラスは頷いた。
 しかし、書類の山に囲まれて生活する彼等には、それは当分先の話になりそうだ。

 執務室から出たタウラスは、役場棟の前で、シャオ・フェイティンの姿を見つける。
 黙って通り過ぎようとするシャオを呼び止める。
「先ほど、マール殿から聞いたのですが、警備隊の件、引き受けて下さるそうですね?」
「……何れ、な」
 苦虫を噛み潰したような顔で、シャオが答える。
「具体的な案など、ご教授いただけますか? 私はそちら方面には疎いですから」
 タウラスの言葉に、腕を組み、シャオは考えだす。
 タウラスから、現在の警備隊の人員について聞く。仮隊長として、風魔法使いであり、護衛の経験のあるフッツを置くつもりであるという事。そして、村の状況。住人について一通り考えに絡めた後、以下の案を打ち出した。
・当面は当番制。
・警備隊の端に客分的に自分の名を入れるだけ入れておく。
・見回りは、必ず二人〜三人で定期的に行う。
・有事の際はフッツ経由で自分へ報告が届くのならば、対処も可能。
 また、犯罪や侵入といった行為を行いやすそうだと思われるポイントをシャオがピックアップし、数種類の順路表を作っておき、それをランダムに当日配布する方針も打ち出す。もっとも、これを実行できるのは、自分が専任できるようになってからだが。
「わかりました。さすがシャオ殿です。そのように、フッツ殿に指示いたします」
 タウラスの言葉に頷いて、シャオは役場棟へと消える。
 彼がこの場所を訪れるなど、珍しいこともあるものだと思いながら、タウラスは自分の職務の為、役場棟を後にした。

 翌日。マール・ティアウォーターと、シャオ・フェイティンは、門の外にいた。
 マールの胸を、可愛らしい桜貝のペンダントが飾っている。マールの想いが届くように、御守り代わりにと、出発前、シオン・ポウロニアが彼女の首に掛けたものだった。
 綿のような雪の上には、動物の足跡一つ、なかった。
 マールは、お土産と、シャオへのお礼、お昼用。そして、タウラスの食事にと、ビスケットを大量に焼いてきた。 
 タウラスと、発言力のある人として、オリンにも話を通した。
 タウラスは黙認。オリンは支持してくれた。オリンから受け取った地図が手の中にある。最近、子供達と作成をしているらしい。
 レイニには、止められることは分かっていたので、秘密にした。あの人は何も分かっていない。
 きちんと掃除も洗濯も済ませ、タウラスへはビスケットの他シチューも作ってきた。
 すぐには帰って来れないかもしれないから、それだけでは足りないだろうという気持ちもあった。押し寄せる女の子達の事も気になった。
 振り返って、タウラスの部屋を見た。
 少しの間だから、頑張ってね、タウラス――。
「行くぞ」
 素っ気無く歩き出すシャオの背を追う。
 いくら素っ気無くても、分かってる。
 自分に何かがあったのなら、この人は必ず振り返って手を差し伸べてくれる、と。

 二人の足跡が、同じ方向へと、刻まれていく。
 今はまだ、二人だけの足跡が。

*        *        *

 黒髪の理知的な男性が、不安気に自分を見つめる青い瞳の少女の手を、そっと取った。
 彼女の細い指に、自ら加工したエメラルドの指輪を、通す。
 目を見開いて自分を見る少女に、「君が心身共に大人になるまで、これは二人だけの秘密だ」と伝え、少女の頭を優しく撫でた。
「ありがとう」
 と、
「先生、大好き……」
 と、少女は泣いた。
 ずっと独りで哀しみに耐えてきた心が決壊する、それは大海原を小舟で漂うような不安。
 今、彼女の心を繋ぎとめねば、きっと遠い何処かへと消えてしまうかもしれない。だから、彼女の想いを受け容れよう、深く疵付いた彼女の心を優しく包み込もう。
 彼女が自分を愛してくれたから――。

 授業を始める前、高等科の教師であるオリン・ギフトは、生徒達に目を瞑らせた。
 そして、彼等の心に響くよう、ゆっくりと、暖かなトーンで語った。
「洪水で私たちは大切なものを沢山失いました。家族のいる人は幸せです。温もりを信じて生きていけるから。別れの云えた人は少し幸せです。思い出を糧に生きていけるから。
 ――私は家族も別れの言葉も失いました。それでも、君たちに幸せになってもらいたいと思います。何一つないけれど、此処に集った君たちを家族だと思っているから。だから考えて下さい。家族を失った人がどんな想いで別れたのかを、そしてほんの少しでもいいから優しさを分けてあげてください」
 『私は家族も別れの言葉も失った』という言葉が、子供達の心に沁みた。
 皆、一様に同じように感じたわけではないけれど、オリンの悲しさを感じ取った。そして、自分達が大切に想われていることを。
 完全に信じることはできずとも。彼がそうあろうとしてくれているということが、語られた言葉から子供達に伝わっていった。
 生徒の目を開かせ、オリンは用紙を皆に配った。
 彼等の気持ちを知り、相手への想いを今一度考えさせるために、まずは素直な気持ちを作文にするよう、促した。
 作文を回収した後、絵を描かせる。あえて、ルルナ・ケイジとバリが組むよう仕向け、互いの絵を描くよう指示した。
 しかし……。
「先生……僕、ルルナさんは描けません」
 皆の前で、バリは言ったのだった。
 オリンが理由を尋ねると、バリはこう答えた。
「……先生が僕を疑っているような、気持ちじゃなくて。ルルナさんの赤い髪を見てると、思い出すんです。死んだ人々を。頭から血を流して死んでいった人々が……家族が想い浮かぶんです。だから、見れませんっ」
 ルルナを深く傷つける言葉だった。しかし、バリの表情は頑なであり、その真剣な顔に悪意は感じられなかった。
 彼女への苛めではなく、それは彼にとって本当なのだろう。本当に、彼女の存在が彼の心の傷を深く、どこまでも深く、抉っていくのだろう……。
「先生! 私、ルルナちゃんを描きたいですー!」
 静まり返った教室に、女性との声が響いた。最年長のアリンだった。
「バリ君、私と交換しよっ」
 アリンがバリの手を引いて、席を交換した。
 オリンはそれを許した。心の傷と、確執は一朝一夕埋まるほど、簡単ではないのだから。少しずつ、少しずつ歩み寄らせる他ないのだと。
 アリンと交換をしたバリは、シオン・ポウロウニアと組むことになった。
「よろしくな!」
 と笑うシオンに、少しだけ気まずそうに、「おう」とバリは答えたのだった。
 実はこの二人、双方顔や身体に打撲跡がある。
 シオンは自分で処置をしたのだが、バリの方は医者であるオリンの世話になっており、オリンも二人の間に何があったのかは、ある程度わかっていた。
 シオンはバリを呼び出し、挑発したのだ。心を爆発させるよう、誘った。自分が相手になり、やり合うことで、彼のやり切れない想いを曝け出させて、バリ自身に思い知らせようと。バリとシオンは激しく殴りあった。シオンからすれば、魔法を使えば簡単に倒せる相手であったにも係わらず、あえて素手戦った。
 バリも、今までも喧嘩は何度も経験してきた。しかし、今回のように激しくぶつかり合ったのは初めてだった。
 けれども、終わってみれば、不思議と怒りが湧いてこない。
 やっぱり、相手がコイツだから、かな。とバリは感じる。
 コイツも自分と同じ、一人だから。
 絵を描きながら、シオンはバリにだけ聞こえる声で、語りかける。
「お前、結局は自分が間違ってるって分かってんだろ。ばっかだなぁ。頭いいくせに分かんねぇのかよ。なぁ、今のお前見たら、兄ちゃん何て言うだろうな。あん時、お前の家族お前に笑いかけながら船降りてっただろ? お前はそれを、自分の辛さを押し込めて笑った家族を誇らしいって思わないか? 思うなら、お前はそれに答えるべきじゃねぇの? 大切なのはさ、死んでった家族に恥ずかしくないように生きる事じゃねぇのか?」
「……シオンは、そうやって生きてるのか?」
「んー、まあ、俺とお前じゃ、境遇が違いすぎるからな、一概にはそう言えねーけど」
 言ってにこっと笑うシオンにつられ、バリの顔にも僅かに笑みが浮かぶ。
「あのさ、俺……自分が間違ってるとは、やっぱり思いたくないんだ。だけど、恥ずかしくないように生きるっていうのはわかる。俺を乗せて降りた家族を、すげぇ誇らしいと思う。だからまあ……また、爆発しそうになったら、たまには相手してくれよ」
 照れくさそうに言うバリに、シオンは「いつでも来いよ!」と、彼の肩を力強く叩いた。
 一方、ルルナの方は、アリンに「綺麗な髪ね」と褒められながら、アリンの手で丁寧に描かれつつあった。
 彼女がどうして今頃になってルルナに歩み寄ったのかは、シオンには分からなかったが、一先ず大丈夫なようだ。

 少しずつ、子供達との距離を縮めながら、オリン・ギフトの授業は進められていく。
 現在は、大陸の地図作成を子供達と行っている。紙に書いた地図は紙同様、販売をし、その他に、粘土で島をリアルに表す箱庭を。
 ただ、こちらはまだ情報がそろっていないため、進みは遅い。特に山頂付近。ここより高所についてはあまり把握できていないのだ。ホラロ・エラリデンを交えての講義も検討しているが、彼は暫らく動ける状態にないため、講義を頼むのであれば、来月以降になりそうだ。
 また、地図作成の他、陶器や煉瓦の作成も教え始めた。完成品を販売してもまだ利益になるというほどではなかったが、それでも確実に子供達の知識となっていった。

*        *        *

 シオン・ポウロウニアは、原住民の集落に向かったシャオ・フェイティンに頼まれ、彼の家をちょくちょく訪れていた。
 そこには……あの男がいるからだ。
 複数の切り傷、打撲、そして骨折という重傷を負った、あの人物……機関士を刺したと思われる、黒装束の仮面の男がシャオの住処で匿われている。彼の食事の世話などを、シオンは頼まれていた。
 その日は傷の経過を診るため、オリン・ギフトが訪れる日であった。鍵を預かっているのはシオンである。早めに到着したシオンは、鍵を片手に、人懐っこく、何気ない会話を心がけ、その人物に語りかけていたのだが……。
 最初の頃は返答はなかった。
 しかし、次第に。最近はシオンの問いかけに対し、答えるようになってきた。
 少し間をおいた短い返事と相槌だけであったが、少しずつ打ち解けてきているかのように、そう思えた。
 ……矢先であった。
 仮面の男が突如立ち上がったのだ。まだ、動ける状態ではない、はず……。
 おもむろに、ドアに近づき、シオンと目が合った。その手には、紅色の玉がついた、短刀があった。
 シオンは知らなかった。それが不思議な力を持った……人体の回復能力をも飛躍的に高める効果のある短刀である事を。知る術もなかった……。

「確かに、交戦相手はラルバで間違いないわね」
 レイニ・アルザラと、オリン・ギフト、そしてタウラス・ルワールは、機関士が襲われたという場所に検証に来ていた。
 オリンは、レイニとタウラスに、黒装束の仮面の男について語った。しかし、彼が洞窟に匿われていることまでは話さない。あくまで、この場所でその男と出会い、人道的理由から治療を施したとだけ、話したのだ。
 また、彼の身体にあった傷は、大陸は高度な戦闘技であった武術と魔術の複合技、風刀である可能性が高いという見解も話して聞かせた。
 オリンの話と、彼が書いた男の全身図、傷跡を見たレイニは、それがラルバによるものだと断言した。
「でも何故ラルバと……彼は、自分から手を出すような人物じゃないわ。たとえ、襲われたとしても、一般人を傷つけたりはしない。……つまり、余裕がなかったと考えるのが正しいのかしら……」
 レイニは探索隊を率いてラルバと行動を共にしていたため、ラルバという人物をある程度知っている。ラルバ・ケイジは大陸では軍人として前線で幾度となく戦ってきた人物だ。幼少の頃より正規訓練を受けているため、その戦闘能力は計り知れない。
「ラルバと対等の力を持った人物が何故、こんなところに……? 何の目的で、そして、何処へ行ったのかしら……」
 機関士本人からも、話は聞いている。
 相手は手負いであったらしいと。仮面を外し、血を拭っているところを見かけ、声をかけたら、突然刺されたらしい。
「顔を見られたことが原因だとするなら、あなたも危ないことになるけど……」
「村の中にいれば、安心だろう」
「……そうとも言えないわ。ラルバと同等の力を持っているのなら、今の村に攻め入って特定の人物を殺傷するなんてわけないでしょうし」
 今、村で戦闘能力に秀でた男性といえば、フッツくらいである。彼が秀でているのは魔法のみであり、複数の雑魚相手であればその力は絶大だが、武術に秀でた精鋭には到底適わないというのが正直なところだ。
 ラルバはおらず、そしてシャオも、体力のあるアルファードも留守にしている。
「この似顔絵は私が預かります。湖の集落の方にも聞いてみる必要がありますから」
 タウラスがオリンから男の全身図を預かる。と、その時……
「あっ……」
 よろめきながら、少年が姿を現した。
 それは、シオン・ポウロウニアであった。即座に駆けつけたのは、オリンだ。彼はオリンにとって、大切な生徒である。
「どうした!?」
「ちょっとドジっちまった。アイツは反対側の出口から……」
 詳しい事情を聞く前に、飛び出したのはレイニ・アルザラだ。
 シオンの来た方向へと、突如、駆け出す。
「レイニ殿!」
 シオンの傷が大したことなさそうだという事を確認し、医者であるオリンに彼を任せると、タウラスはレイニの後を追う。
 追って数秒……派手な音が響く。
 開けた視界の先に見えたのは、洞窟の前で、蹲るレイニの姿だった。
「レイニ殿! どうなされました!?」
「……っ……」
 タウラスを見上げると、レイニは顔を歪めながら言った。
「転んじゃった。ははは……っ」
 見れば付近に、洞窟の主……シャオが動物避けに仕掛けたと思われる簡単な罠がある。これに躓いて転倒したのだろう。
 ため息一つ。タウラスはレイニに肩を貸した。

 医務室でシオンとレイニは治療を受ける。
 シオンは怪我というほどのものはしていなかった。多少、首を絞められたらしく、呼吸困難に陥っていたが、一時的なものであろう。
 レイニの方は、左足首の第2度の捻挫に、右腕擦傷、骨にヒビまで入っているようだ。
「随分と派手に転んだものだな」
「足場が悪かったから。腕を突いた場所も、洞窟内だったしね。顔は庇えて良かったわ」
 手当てを受けながら、レイニは微笑した。
「笑い事ではありません」
 穏やかな顔でそう言ったのは、タウラスだった。
「状況の確認もせずに、自ら飛び出していって、怪我をされるなんて……ご自分の立場わかってますか?」
 ああ、その台詞には覚えがある……。レイニは一瞬言葉を詰まらせる。
「……し、仕方がないじゃない、身体が勝手に動いたんだから!」
「逆ギレですか? ――もっと自覚を持ってください、レイニ殿」
 爽やかな顔でにっこり微笑むタウラス。
「う……」
 レイニは何かを言いたそうに、呻くのだが……タウラスの笑顔を前に、ついに観念したのだった。
「……うはっ……言い訳の言葉が出てこないわ。ごめんっ。悪かったわよ」
 そして、ふて腐れたように続ける。
「で、タウラス殿には大変申し訳ないのでございますけれど、午後の会議、取り仕切っていただけますでしょうか? この足では会議場までたどり着くのも困難ですし、皆を心配させてしまいますので。また、状況の確認とやらもしなければなりませんので、シオンと詳しい話をしなければと思っております故っ」
 言葉に子供じみた棘が含まれているように思えもしたが、そろそろ定期会議の時間だ。苦笑しながらタウラスは了承して、会議場へと向かうことにする。
「で……」
 タウラスが退出して後、レイニはシオンに顔を向ける。シオンはにこにこと笑っていた……。
 な、なんか威厳を激しく失ったような気がする……そう思いながらも、レイニは言葉を続ける。
「一体何があったの?」
 シオンとオリンは顔を見合わせる。
 レイニは、黒装束の男があそこに匿われていたことを知らない。彼女に話すかどうかの判断は自分達には出来ない。シャオに選択権はあると、二人は考えていた。
「あー、シャオ兄ちゃんにさ、頼まれてた物を届けようと思ったら、洞窟にイノシシが入り込んでてさー。油断して、体当たりされて飛ばされちまったってわけ」
 平静を装い言ったが、レイニは疑いの眼でシオンを見ている。
「そんな目で見るなよー。綺麗な顔が台無しだぜ☆」
 とりあえず、おだててみるシオン。
 シオンにとって、レイニは興味深い人物だ。会議での発言や、その強行的な実行力を垣間見ており、不満もあった。しかし、直接交わってみれば、普通に様々な感情を表す人物ではないか。
「ふーん……」
 気のない返事だが、思慮深い眼であった。
「それじゃまあ、シャオに聞いてみようかしらね……」
 追及しても語らないと悟ったのか、シオンから聞き出すことを諦めたようだ。
 その後、シオンはレイニとのたわい無い会話を試みた。
 レイニはシオンの話に応じ、空気は次第に和やかなものに変化していった。

 会議場は閑散としていた。
 無理もない、皆、日々の生活に追われているのだ。降り積もった雪は、家を覆いつくすほどであり、毎朝、大人たちは雪掻きに追われている。一世帯の大人の人数は大抵一人。女性一人で家と周辺の雪を掻いている現状。昼頃過ぎまでかかってしまう家もあるようだ。
 それでも倒壊したという報告がない分、マシなのだろう。ひとえに、タウラス・ルワールが雪掻き道具の必要性と、精力的な冬支度の呼びかけを行った事が功を奏しているのだ。
 会議の出席者は僅か8人。目安箱への投書や直接執務室に訪れる人物は多いが、会議で話し合う必要性というものを感じなくなっている人も多いということだろう。交渉の経緯や、布告は役場前の掲示板で行っている。
 開始時間を少し過ぎて、会議は始められた。
「村長ですが、レイニ・アルザラ殿が引き続き、務めてくださることになりました。私も補佐と交渉団代表を継続いたします」
 タウラス・ルワールの言葉は、拍手で承認された。
 本日レイニが出席できない理由も、タウラスは皆に話した。転んで軽く怪我をした、と。軽い怪我ではないのだが、皆が過度に心配することを恐れて、そう言った。
 それに対しては、港町出身の住民の間から「またか」「相変わらずだね」という軽い言葉が飛び交っただけであった。
 最初の議題は、交渉結果の報告だ。
 タウラスが経緯を説明する。
 立ち入り禁止区域の場所。先住民の生活様式。
 交易が始まる事や、伐採について正式に謝罪をした事。相手側にもこちらに悪感情を持つものもいるが、族長は理解を示してくださり、このまま順調に進めば、十分友好関係を築けるであろう事を。
「仮面の人物については、何かわかったの?」
 と村人から声が上がる。
「仮面の人物に関しては、先方も調査中との事です。湖の方々も、仮面の集団に襲われたことがあるそうです」
「調査って? どの程度進んでるの? 家宅捜索とかしたわけ? 奴等の中に犯人がいるのよ!」
 息せき切って発言しているのは、やはり機関士の妻だ。
「落ち着いてください」
 と、タウラスは言った。
「尚早な判断で敵意を向けるのは懸命ではありません。悪意は悪意を呼ぶでしょうし、新たな問題を起こしかねません。調査と判断は私達に預けていただきたい」
 タウラスの強い言葉に、彼女は黙る。しかし、その目には不満が浮かんでいた。
「あ、あの、温泉なんですけれど」
 話題を変えようと、リィム・フェスタスが立ち上がる。
「皆の憩いの場として設けたいのです。誰もが無料で入れる施設として設けることはできないでしょうか?」
「良い案だとは思いますが……それは難しいでしょう」
 タウラスは即答する。
「無料で経営するにも、運営にかかる費用というのは必ず発生します。無料とするのなら、その費用は税金から賄うことになります。つまりは、住民全員のお金を使って運営することになりますよね。そうしますと、必要性を感じていない人々から、必ずクレームが出るでしょう」
 このような少人数の村では等しく利益のあるものでなければ、全員一致の事業は難しい。
「でしたら、公営ではなく、私一人で運営します」
 リィムは本気だった。一人で全て作り上げるつもりだった。
 若い女性一人で為しえることではないのは、一目瞭然であったが、彼女には共有食の補佐としてホラロ・エラリデンがついている。また、彼女自身のつてもあるのかもしれない。温泉による疫病の感染なども懸念されたが、タウラスは今は深く追求しなかった。
「学園でオリン先生の指示の元、紙作成なんかが行われてるようやけど、働ける子供には仕事をさせるっちゅーのもええんちゃう?」
 橘花梨の発言であった。
「共有食製造にも、学園の子供達を関わらせてはどうかと思っています」
 リィムが花梨の発言に続く。
「自宅から通っている子供達には、それぞれ家の仕事を手伝っているようですが、寮生なら……希望者を募ってみてもいいかもしれませんね。学園の授業に取り込むことも、検討してみましょう」
 タウラスはピスカにメモをとらせ、学園関係者に通すことを約束する。
「そやそや、自立は大事な事やもんな♪」
 花梨には、同じ考えを持っていたリィムの発言、及びタウラスの対応がとても嬉しかった。
「あとな、子供を引き取る、言うんは責任が色々被さって無理や思うけど……うちでたまに寝泊りして仕事手伝ってくれる子とか……学校におらへんかな〜っと……」
「交易と商売のお手伝いですね。それも、学園関係者にお話ししておきましょう」
「それから、村で工芸品が作られてるようやけど、どんなもんがあるんやろか?」
 花梨は村を回って湖の集落に持っていけそうなものを見てまわっていた。この村から出せるもの、必要としているものをきちんと把握しておかねばならない。
「工芸品……」
 タウラスは、レイニと共に作り上げた村状況、村民リストを開き、捲る。
「工芸技術者宅では、主に、陶磁器、染織品、木工品と作られていますね。生活必需品が中心です。陶磁器を扱っている家は一軒。染職も1軒。木工品は主に大工仕事の傍らに製作されたものが販売されているようです」
 大陸のような整った設備があるわけもなく、凝った品などは今はまだ製造できない。
 難民の多くは、漁業、農業を生業としていた、港町一般庶民だ。仕事に余裕がある時期には、男性は大工、土木作業を手伝い、女性は糸を紡ぎ、機織りをして生計を立てていた者が多かった。機械、科学知識や技術はなくとも、生活力にだけは優れていたのが幸いしている。
 また、彼等の祖国は小国ではあったが、それでも玄関口として港には様々な国の外国船が出入りしており、たまたま避難船に乗り合わせた他国の者もそれなりに存在した。
 その一人が自分だ。と花梨は思う。
 港町出身のリィム・フェスタス。農業の知識を持ち、積極的に運営に携わる若い女性。彼女がいなければ、共有食の製造は始まらず、子供達や働けない人物の食料問題が深刻化していっただろう。
 花梨が尊敬している人物、村唯一の医師オリン・ギフト。彼が偶然乗り合わせていなければ、伝染病で多くの人が命を落としていたかもしれない。また、村全体の知識レベルも低くなっていっただろう。
 そして、目の前のタウラス・ルワール。彼の特質は、人としての魅力。それを自然と活かし、彼は村の代表補佐となり村人を纏め、村の顔となり、原住民との交渉を行っている。
 それから、村の人々も。自分達個々が持つ知識や能力を活かし、生活をしている。心はバラバラのようだけれど、生きていくために必要なものが備えられつつある。
「湖の部族との取引をお考えでしたら……陶磁器と服飾関係は製造が追いつかない為、こちらから出すのは無理でしょう」
 集中して製造をすれば別だが、現在陶磁器の製造には力を入れられてはいない。服飾関係は、糸や布の量に問題がある。動物の毛や草花から糸や布、多少の染色剤をも作っているのだが、今の季節、狩りにも出れず、草花の採取も難しい。故に技術者は多いのだが、材料が絶対的に不足している状況だ。それでもある程度の材料が確保できているのは、冬前までの探索隊の精力的な活動お陰といっていいだろう。 春が来て、また探索に出かけ、畜産業が安定をしていくのなら、解消できると思われる問題だ。
 しかし、その探索隊もまた、狩りの詳しい知識を持つ者の集まりではない。狩りの技術、なめし革、毛皮の製造技術などはほぼ知られていない。
「木工品は大工に携わっている人に掛け合えば色々と手に入りそうですが、先方との間で樹木伐採が今、問題になっていますから、あまり大きなものは印象が良くないかもしれません」
 花梨はタウラスが語る村の状況、一つ一つをメモに取る。
 人は、きっと、生きているだけで、誰かの役に立っている。
 生きていくために必要な服を買うことが、服を作る人のためになり。服を作る人が材料を買うことが、材料を作る人のためになり。
 私が私のために、食べるということが、食料を作る人のためになっている。
 そして、その人々のつながりを作るのが、自分達商人だ。人々と交わり、ドアを叩き。物を買い、流通させる。人同士の繋がりを築く仕事だ。
 直接の人同士の関係を作るのがタウラスの仕事ならば、自分の仕事は間接的な多くの人との関係を築くことなのかもしれない。
 好きで始めたことだったが、花梨は自分が他の皆のように村の一員として役立っていることが見えてきた。それが、重要な役割であることも。
 がんばらなあかんな!
 と、強く思うのであった。
 ――その後、先日仮施行された刑罰についての承認を得、今月の会議は終了となった。
 時間にして、数十分。機関士の妻は帰ってしまったが、人数が少ないということもあり、後は雑談に花が咲いた。
 そこには、住民達が集まって、笑いあう穏やかで優しい空間が存在していた。

 リィム・フェスタスには、温泉、共有食製造の他に、やらねばならないことがあった。会議後に、病棟へと足を運ぶ。
 補佐であるはずの、ホラロ・エラリデンは、なんらかの手術を受けたらしく、現在入院中であった。シオン・ポウロウニアが相変わらずホラロに付きまとっていることが多いのだが、今日はいないようだ。病室を訪ね、リィムはまず、栽培ハウスについての魔力の使い方について、ホラロに助言を請う。
「そうですねぇ。魔力の成長促進は普通の肥料とは違いますから、一回という考え自体違うのかもしれませんねぇ。集中して、与え続ければ、それだけ成長すると考えてよろしいのでは? ただ、やりすぎはダメです。まあ、一日3時間を限度にやってみてはどうですかねぇ。体力が持てばですが」
 3時間も魔力を注ぎっぱなし……かなりキツイ作業になりそうだ。リィムの体力では無理がある。出来る範囲で頑張るしかないようだ。
 短期間で収穫できるものとして、候補はいくつもあがった。さすがに全部試す余裕も苗もないので、とりあえず、人参、大根、白菜、胡瓜、ピーマン、トマトの収穫を試みることにした……といっても、これだけでもかなり雑多で不安があるが。また、比較的短期とはいえ、やはり1月以上かかってしまうため、今月の収穫も無理だ。
 収穫時期の問題もある。室温の調整も野菜によって違う。故に、食料生産は今月も難航している。
「さて、それとは別件で、一つ提案なんですけどー」
 シャキーンと、リィムは果物ナイフを取り出した。

 ……数分後、ホラロ・エラリデンは清潔感溢れる男性へと変貌していた。

*        *        *

 晴れたある日。
 レイニの病室で執務を行っていたレイニとタウラス。仕事の意見交換をする二人の平穏は、突然の轟音に破られた。
「な、何!? ……あつっ」
「レイニ殿はここで待機していてください。もしもの場合はフッツ殿を連れて避難してくださいっ」
 今にも飛び出そうとするレイニを押しとどめ、タウラスは轟音の方へと向かう……。

「やあ、カタラだよ?」
 轟音の発生源に、かくんとタウラスの力が抜ける。
「カタラたっきゅーびんだよ〜o(・∀・)oブンブン」
 そこはタウラスの部屋だった。無残にぶち破られたドアの姿がある。壁にも亀裂が入っている。ああ、本格的な修理が必要だな。今晩は自宅で休むのは無理だなぁぁと思いながら、タウラスは、先住民の男性、カタラ・ナ・イスハークが差し出している手紙を受け取った。
 それは、マール・ティアウォーターからの手紙であった。ざっと目を通す。
 カタラだ、カタラだ〜と、子供達を中心に騒ぎになっている。先日、崖下で遺体を精力的に埋葬していた彼は、多くの村の民に受け入れられている。村に入り込んだ手段が気になったが、まあ、自分の住いの有様を見れば検討がつく。何分、彼は村人に受け入れられているのだから、深く追求しないでおこうと、タウラスは一人思った。
「手紙を届けに来て下さったのですね。感謝いたします」
「あと、食べ物届けにきただよ! レイちんに話もあるだよ!」
 レイちん……
 タウラスは一瞬誰のことだかわからなかった。レイちん=レイニと気付くまで数秒の沈黙。そして、失笑。
「はは、では、一緒にレイニ殿の所に参りましょう」

「カタラ、仮面さん達見た事あるだよ〜カタラ、ごはん持ってた時に襲われただよ……びっくりして、ちょっとだけ暴れちゃっただよ。きっと仮面さん達、お腹すいててカタラのごはんが欲しかっただけだったんだよ……カタラ酷い事しちゃっただよ〜カタラ、悪い子だよ〜。・°°・(((p(≧□≦)q)))・°°・。ウワーン!!」
 先日レイニから問われた仮面の人物について、カタラは思い出したのだった。レイニと対面した直後、彼はそう捲くし立てた。
「……………………フッツ、通訳お願い」
 にこにこ愛想笑いを浮かべながら、レイニは護衛としてタウラスとレイニに付き添っていた、フッツに言った。
「えー、つまりですね。カタラさんは、食料を持っていた時に、仮面さん達……つまりは、仮面の集団に襲われたということですね。で、反撃をして、追い払ったということでしょう。その後のご発言は全然的を得ていませんので気にすることはありません」
「そう言えば、ここにモリゾーもキッコロも見当たらないだよ? えっと……もしかして難民さんはあそこで木を切ってないだよ???|ω・`)」
「モリゾー?」
「これはまあ、樹木のことですね、おそらく。カタラさんが存じていた樹木が無くなっていたけれど、この村の中には存在しない。あの伐採地で木を切ったのは我々ではないのではないか? そういう意味だと思います。はい」
「なるほど。人間業を超える眼力ね……」
「えっとね、カタラとっても良い事思い付いたんだよ!! (・∀・)ニヒヒ、教えて欲しい?教えて欲しいだか〜?」
 いや別に。と心底真顔で言いたくなる気持ちを抑え、レイニは教えて欲しいわと微笑んでみせる。
「えっと……えっとね、一人より二人の方が楽しいだよね? 二人より三人の方が楽しいだよね? だから、皆で一緒に住んだらとってもと〜っても楽しいと思うだよ〜カタラ達も難民さん達も、皆一緒に住むだよ〜絶対楽しいだよ〜o(・∀・)oブンブン」
「うん、これは大体わかるわ……。でも、一緒に住むっていうのは、そう簡単なことではないのよ。私は、自然と共存しているあなた方の生き方は素敵だと思うし、敬服もするわ。私達がここに住む事で、あなた方へ迷惑がかかることがないようにしたいと思ってる。
 だけれど、大陸の中、育て上げられた文明の中で生きてきた私達にも、私達の生き方というものがある。互いの考えの衝突は必ずおきてしまうもの。現に私達の中にも、あなた方を嫌うものもいる。あなた方の中にも、私達を嫌悪している人もいるみたいだし。だから、互いの信念を傷つけない……つまりは、内政干渉をしないよう、付き合っていくのがいいと思うの。いきなり混ざり合おうとしても、無理だから。交渉をして、交流を持って、相手を知ってゆき、それで一緒に住むのが良いと、互いの住民が思えたのなら、一緒に住むことも考えていけばいいんじゃないかしら? ……って」
 (v_v)Zz…
 カタラは寝てた。自然と共存のあたりから、うつらうつら。内政干渉云々のあたりには、熟睡。
「………………蹴りたい。殴り飛ばしたい……」
 拳を握り締めているレイニを、フッツが「まあまあ、彼に説いても無駄だというのは、分っていましたでしょう? 彼は子供なんですよ? オツムだけですが」とかなんとか宥める。
 苦笑しながら、タウラスがカタラを揺すっておこす。
 目を開けたカタラに対し、再びレイニは作り上げた笑みを向ける。
「で、カタラさんは、今日は食料の提供に来てくださったのよね?」
「そうだよ! 食料と、お話と、ほーむ……ほーむ??」
「ホームステイですね」
 タウラスがフォローする。
「そう、ほーむすていに来ただよ!」
「ホームステイ?」
「それは、後程説明します……」
 怪訝そうな顔をするレイニに、タウラスが囁いた。
「それじゃ、食堂に食べ物運んでくれるかな? 食料不足してとても困ってるの」
「わかっただよー」
「あ、ドアは壊さないでね、そっとそおっっっっっっっっっとノックするのよ?(にこっ)」
「そおっっっっっっっっっとだか。わかっただよ〜」
 カタラは大きな荷物と共に、フッツに連れられて病室から退出した。
「あのさ……なんてゆーか、彼と会話すると、猛烈にフラストレーションが溜まるんだけど、どうしたらいい?」
 寒気を感じさせる笑顔で、レイニが言った。私に当らないで下さいね、とタウラスは返す。
 さて……そんな状態のレイニに話すのは躊躇してしまうが、彼女を村長とし、自分は補佐を続けると決めた以上、話を通さねばいけないことがある。
 タウラスは、今一度マールより送られた手紙に目を通す。
「実は……マール殿が、湖の集落で、独自に交渉を行っていたようなのです」
 そう切り出すと、案の定、レイニは信じられないという目でタウラスを見上げた。
 タウラスは、手紙に書かれていた内容と、出発前に聞かされていたマールの計画をレイニに話した。ただし、この件に関し、タウラスは黙認という姿勢をとっており、あくまで自分は知らなかったとして、話す。
 マールが、個人的に謝罪をし、難民側の状態を切々と話したということ。
 相互理解の為にもと、ホームステイの案を打ち出し、独自に交渉を行ったということ。
 その詳細と、後押しがあれば、交渉が成立しそうであることを、タウラスはレイニに話した。
「詳しい話は本人からもあると思います」
 一通り、黙って聞いた後、レイニは静かに言った。
「……で、あなたはそれをどう思うの?」
「悪くない案だと思います。相互理解は必要ですから」
「そういう事を言ってるんじゃないの! 彼女の独自交渉について、よ」
 レイニの口調が強くなる。
「……申し訳ありません。監督不行き届きでした」
 レイニは再び黙り、顔を手で覆った。
 レイニの強い反対を予期し、タウラスは言う。
「彼女なりに村の為に何かを成そうという気持ちが芽生えたのなら、育つ前に摘み取ることはしたくありません」
 弾かれたように顔を上げ、レイニはタウラスを直視する。
「マールは、村を変えようといつも一生懸命だわ! それくらいは分ってる。だ、けど……」
「しかし、そもそも、事前に知っていたとして、止められたかどうか……」
「呆れた。あなたよく、平静でいられるわね? 知らなかったんでしょ? これは立派な職務侵害行為よ。あなたが数ヶ月間かけて築いてきた先方との関係を崩しかねない行為だというのに」
 その言葉に対して、タウラスはこう答えた。
「何かトラブルに発展した場合、村全体の意志ではなかったと切り捨てる覚悟はあります」
 冷徹な彼の言葉に、レイニは少し、驚いたような顔を見せた。
「意外としっかりしてるのね。……でもタウラス、あなたは、根本的な大切な事を忘れている。彼女が私を通したのなら、私は一度は止めたと思う。彼女に降りかかる危険を心配して。彼女の身体を案じてね」
「彼女ももう15です。過保護にしすぎるのも、どうかと」
「そうじゃないのよ……」
 瞳を揺るがせて。辛そうな眼で、レイニは語り出す。
「カタラさんが言っていたこと……あなたも薄々気付いていて、謝罪という選択をしたんだと思うけれど……湖の部族が主張している、土砂崩れは私達の所為じゃないわ。そして、機関士の件……。私、あなたに言ったわよね。あなたは100人の命を背負って、交渉に行くのだと。自覚を持てと。あなたの交渉には思うところもあったけど、とても評価していたわ。でも、マールは……あの子は伐採の件も、大人達の理も何も知らないのよ。だから、彼女なりに真剣に、切実に、伝えたんだと思う、この村の事を。
 ……それが、どんなに危険な事か、あなたには分るわよね?」
 今までの交渉において、タウラスは村について殆ど語っていない。必要なことだけ話し、必要な情報を見聞きしてきただけであった。未知の相手に対し、全てをさらけ出し、交渉をすること……そのリスクも解ってはいた。しかし、伝えずして、真の友好関係を築けるのかという疑問もある。
「早すぎる。もっと安定してから招きたかった……向うの使者が来た時、私はこうも言ったわ。傍にいたあなたにはわかってると思うけど、それは、村の内情を今はまだ知られたくなかったから。誰かがここを陥れようとしていることが、見え隠れしている。その人物は自分達の中にはいない。彼らがどんな目的を持ち、ここをどう思い、どうしようとしているのか全くつかめていない今。この村の情報を……女性ばかりで、武器も殆どなく、仮面の集団に襲われたら簡単に壊滅してしまうような……この状況を伝えたくはないのよ。だから私は彼女達に、村の弱みを語らなかった」
「解っています……ですが、本当にそれでいいのでしょうか?」
「あなたが漏らすのなら、あなたの責任において、やればいい。あなたは村の心を背負った、皆に任された人物だから。相手を見極め、村の為の交渉をすればいい。でも、マールは……。タウラス、あなたは彼女の小さな心を救ってあげられるの? この村の情報が漏れたことが原因で、ここが危機に陥った時……傷つき、傷つけられていく彼女の心を」
「…………」
「私も、あなたも知らなかったのだから、どうすることもできなかったのだけれど……。
 レイニ・アルザラという個人が、あの子を大切に思っていたとしても。何かが起こってしまったのなら、村の代表、村長としての私は……マール・ティアウォーターの行いを……」
 レイニは続く言葉を言わなかった。しかし、タウラスにはその先の言葉が、分かった。それは、タウラスの心に重く圧し掛かる。なぜなら、補佐である自分もその立場にあるからだ。
「私からは何も言わない。……ホームステイの件は、あなたが賛同できるのなら、バックアップしてあげればいいわ。あなたや、村人を良い意味で説得できる人物がサポートにつくのなら、私は承認する。賛成ではなく、あくまで承認よ。村長としての私は、彼女の行いは認めることはできないのだから。その案が確定したのなら、マールが取り仕切るんでしょうけれど、大人を敵視し、通学を拒否し子供と交わらなかった彼女の呼びかけに応える人物は殆どいないでしょう。先方の宿泊先の手配やイベント事の手配等、彼女一人では、かなり困難だと思うわ。
 ……でも、私だって、思っていたのよ。湖の部族が、他部族を受け入れているって話をあなたから聞いたときに。その他部族の人々で順応できる人を、こちらで受け入れることはできないのかと。村に一番足りないのは、人手だから……」
 しかし、自ら交渉に行けない立場だから。行って自ら見極め、皆に「大丈夫だ、信用して」と動ける立場になかったから。……タウラスに任せると決めたのだから、余計な口出しはしなかったのだと。
 マールの考えは間違っていない。とレイニは言う。だけど、出来ること、出来ないこと、そして手段を教えたかったのだ、と。
 大人に反抗している彼女が会議で発言することが、どのような結果を招くのか。文句を言って、皆を否定し拒絶を続けていても誰も動かせないと。誰も賛成はしてくれないと。
 頭ごなしに叱咤したのでは、伝わらなくても仕方ありません……と、タウラスはレイニに言った。
 受け止め方は人それぞれ違うものだ。
 傷ついた心を持った彼女に対し、あなたは対応を間違えたのだ、と。
 今、正にその状況にある。
 傷つき、我侭になっている村人に、反発している彼女が異を唱えたのなら、人々の心は余計頑なになり、彼女を嫌うだろう。
 レイニ・アルザラは、彼女にそれを感じ取って欲しかった。自分の行為がまた、彼女を頑なにしてしまうと、気付きもせず。
 伝わらない悔しさを、レイニは強く感じ、苦悩した。
「そうね」
 そして、力なく、空気が混ざった声で言ったのだった。
「私を通さず独自行動に走った彼女だから……もう、私には無理ね。彼女の対応はあなたに任せる。あなたが良かれと思うのなら、私のところに、直接来ずとも計画を進めることができるよう、取り計らってあげて。ただ、気をつけて。もしも、この件、この計画で事件が起こったのならば……あなたの選択如何によって、村は終わるわ」
 最後に、ごめんなさい。とレイニは言った。
 その言葉に、無数の意味が含まれていることを、タウラスは理解していた。

 翌日、タウラス・ルワールは、フッツとピスカを連れて、村を発ち、湖の部族の元へ向かった。
 数々の思惑を抱えながら。
 数日前にレイニから受けた叱責。
 彼女の言葉は、果たして正しいのだろうか。どのような姿勢で交渉に望むのが正しいのだろうか……。
 彼女という人物さえも、タウラスはまだ分かっていない。
「そういえば、ピスカ殿は、レイニ殿と親しいようですね?」
 ピスカがレイニをレイニ姐様と読んでいることを思い出す。また、普段から、暇があれば、ピスカはレイニに付き纏っている節もある。
「うん。私が子供の頃からの付き合いだから〜」
 タウラスは、彼女にレイニについて尋ねてみた。彼女の補佐をして数ヶ月になるが、港町出身ではない自分は、彼女のプライベートに関しては殆ど知らないから、と。
「姐様は〜。生粋の船乗りなのー。船長なんか押しのけて、船を先導してたんだから〜。キッツいこと言うけど、仲間と思った人をとってもとても凄く大切にしてくれるのねー。そういうところが、皆に好かれる理由なんだと思う〜。あと、意外と抜けてるところがあったりしてー。頭より体が先に動くタイプねー。事件とかあると、脇目も振らず突っ込んだりして、他のことをスコーンと忘れちゃったりしてね」
「なるほど……確かに、そういう一直線なところがありますね」
「でね、よく転ぶの」
 そういえば、会議でも、「またか」という言葉があがっていた。
「昔、足の腱を切ったことがあるとかで、普通に生活したり、走ったりするのにも支障はないみたいなんだけどー、力を入れすぎたり、足場が悪いところでは、バランスを崩すことがあるみたいー」
 今回の転倒もそれが原因か、とタウラスは知る。
「あとね……姐様は、港町から出航する時に、えっと……凄く大切にしていた人とね、お別れをしてるんだ。どれだけ大切にしていたかは、私達はよく知ってて……それでも、私達を見捨てないでくれたから。私達を助けて導いてくれたから。だから、それを知っている人で姐様を嫌いになる人はいないよ」
 娘のことだ。とタウラスは思う。
 レイニの口から聞いたことがある。娘がいる……と。
「で、他に何か聞きたいことは〜?」
 ピスカの問いに、とりあえず、ここまででいいと答えると、ピスカは用紙とペンを取り出し、瞳をキラキラ輝かせ、タウラスを見上げた。
「んじゃ、今度は私から質問ね〜。タウラス様の過去、皆興味あると思うのよねっ」
 この後、湖の集落に着くまでタウラスはピスカの質問猛攻撃にあったという。

 タウラスとすれ違いで、交易に出かけていた橘・花梨が村に戻った。傍らには、先住民の男性、アガタ・ナ・ベッラの姿がある。
「ちょっとここでまっててなー」
 花梨はアガタを門の前で待たせると、報告に役場に向かった。
 柵越しに、村人達のとても友好的とはいえない目が、アガタに注がれる。目をあわさないよう、走り去る者もいた。
 失礼極まりないと、アガタは感じてしまう。……しかし、それも仕方がないことだと、すぐに思い直す。理解することの重要性を考え、自分は来たのだから。
 花梨は数分で戻り、花梨の護衛としてやってきたアガタは村に迎え入れられた。
 まだ公式ではないが、マール・ティアウォーターの話を受けてのホームステイを体験する予定だ。
 村の代表に話を通した花梨の話によると、アガタの待遇は、先住民のホームステイではなく、あくまで公式には今回は護衛と取引上の為の滞在とされるようだ。
「おば〜ちゃ〜ん、荷物持とうか〜? 肩もみしよか〜!」
 花梨はすれ違う人々に明るく声をかけ、老人を見れば、手を貸していた。先月の新聞の投稿を見てから、積極的に老人を助け、手伝いに行っているのだ。
 アガタもいつの間にか手伝わされる事に。
「留守にしてたから、雪で埋まってるかもしれんけど、うちの家に泊まってってな。夜通し交易の話、しよか〜」
 案の定、花梨の家は埋まっていた。アガタはここでも雪掻きを手伝わされる事に。
 しかし、悪い気はしなかった。
 この村には、絶対的に、男性の数が少ないと気付いていた。
 花梨もまた、一人で暮しているようだ。
 山を登り、疲れているだろうに、精力的に雪掻きをする花梨に、つい見とれてしまう。
「なんや? 人の事、じっと見て?」
「いや……息子が生きていたら……お前によく似た感じに成長したんじゃないかと思ってな」
「え〜そんな、悪いですやん……うちなんかが息子さん……息子?」
 一瞬照れ笑いを浮かべた花梨だったが……
「なにげに誉めてないんちゃいますか、それ」
 わざとらしく、目を据えらせた笑いでアガタを見る。
「ははは、すまない。息子よ」
「だから、何言ってんねん!」
 二人は笑いあった。
 その笑いは、周囲の村人を振り向かせる。
 その後も花梨は氷室の手伝い等、日が暮れるまで精力的に行動をする。周囲に元気を振りまきながら。
 難民と先住民。明るい二人の笑いが、周囲の視線を、自然にひきつけていた。

 もう一人。こちらもこちらで、和やかな雰囲気だった。
 難民村と湖の集落を行き来しているカタラは、タウラスが、暫らく外泊をしていたことを知り
「(´・ω・`)ショボーンごめんだよ〜おわびにカタラが扉を作り直すだよ〜」
 と、ドア修理を初めていた。
「ワァイヽ(゜ー゜*ヽ)(ノ*゜ー゜)ノワァーイ 扉を作るだよ〜頑丈な扉を作るだよ〜カタラが踏んでも壊れない扉〜♪」
「木製じゃダメだ〜鋼鉄製じゃないと〜カタラの体重は支えられない〜♪」
 カタラが歌を歌えば、答えるように子供達が歌いながら、手伝う。
 カタラは、湖の集落に滞在しているマールに家を貸し出している。
 つまり、マールの住居でもあるこのタウラス宅は、いわばカタラの頭の中ではカタラの住処でもある!
「終わったら〜みんなと〜ごはん〜(/ ̄▽)/┳━┳~┫~┻━┻~┣~┳━┳\(▽ ̄\)ぐつぐつじゃばじゃばー♪」
「夜は、みんなで〜枕合戦〜♪」
 哀れタウラス宅。。。

 カタラが食料提供をしてくれたお陰で、数日分の寮生の食事の心配はなくなった。もっとも、レイニに言わせれば、大大大大大食漢のカタラが長期滞在した際の消費食料の方がむしろ心配らしいが。
 雪が深くなり、通いの子供達も雪掻きの手伝等に借り出され、授業に出られない子も増えた。
 貯蔵食材が残り少ないため、生徒全員分の昼食を出すのは難しい現状。
 様々な理由から、学園は冬休みとなった。

 レイニは、診療に訪れたオリン・ギフトに、ベッド脇に飾られた花瓶を見せる。造花だった。
「機関士の奥さんがくれたの」
 他にも、沢山のものが病室に飾られ、置かれている。村の皆が差し入れに来ているのだ。
「私、怪我をしてよかったのかも」
 と、レイニは言った。
「不満ばかり言っていた皆が、なんかちょっとだけ優しくしてくれるのよね。自分でどうにかしてみるからって言う人もいてさぁ。少し……ほんの少しだけ、村は良くなっているのかしらね?」
 レイニの問いに、オリンは頷いてみせる。
 自分も、彼女も、子供達も。
 村に生きる全ての者が、生きようと、必死に生きようとしている。
「私が治ったら、今度はあなたに倒れてもらおうか! ……って、あなたが倒れたら、治療できる人がいなくなってしまうわね」
 そういって、レイニは穏やかに笑った。

 リィム・フェスタスは、共有食よりも、温泉事業の方に手を焼いていた。
 積もった雪を掻いて、それから土を掘る。場所も決め、排水管のルートも決めた。
 設計図は漠然と脳の中。
 土を掘ることも、削ることも魔法で可能だけれど、加工する技術は魔法とは別技能だ。思ったように形を作れはしない。
 何度も、何度も挑戦して。石で水路を作ってみる。難しい……。
 も、もしかして、来年の冬くらいまでかかったり……?
 そんな不安が過ぎる。
 聞いた話では、ホラロ・エラリデンは魔力を取り戻したらしい。
 退院したら、助けになってくれるかもしれない。……かもだけど。
 ふう、と汗を拭う。
 また、雪が。
 ふわり、ふわりと舞い落ちる。
 リィムの耳に子供達の笑い声が届いた。
 港町での普通の日々が、脳裏に蘇る。
 そう、こんな声が……
 毎日のように、響いてた。

 あの日に戻れなくても
 きっと
 きっとまた
 この笑い声と共に……

公務担当者-------------------------------------
[役場]
レイニ・アルザラ(村長、総統括、議長)
タウラス・ルワール(村長補佐)
フッツ(警邏)
ピスカ(調査・広報)
他(ボランティア)

[交渉団]
タウラス・ルワール(責任者)
フッツ(補佐・護衛)
ピスカ(補佐・記録)

[交易]
橘・花梨(代表)

[病院]
オリン・ギフト(医師)
イリー(助手・研究生)
他(ボランティア)

[学園]
オリン・ギフト(高等科教師)
イリー(初等科世話係)
他教師1名(中等科担当)、世話係1名

[栽培ハウス]
リィム・フェスタス(責任者)
ホラロ・エラリデン(補佐)
他(ボランティア)

[警備隊]
タウラス・ルワール(総指揮)
フッツ(仮隊長)
シャオ・フェイティン


[果樹園]
老夫婦

[大工(含む土木、林産等)]
船長(総指揮)
機関士(現場指揮)
他専任6名、ボランティア多数

[飲食]
ユズ(店主)
ミコナ・ケイジ(家事手伝い)
カヨ(家事手伝い)
他1名(調理師)

[魔法研究所]
ホラロ・エラリデン(所長)
オリン・ギフト

※担当されいている人物がいる分野に対し、なんらかの影響を及ぼしたい場合は、担当者と相談、合意の上、立案するとスムーズに進みます。相談が無い場合は不採用、もしくは、会議で発案となり、担当者の返答待ちとなります。
担当者の方針に異議があり、対抗アクションをかける場合は、その旨会議や、村の統括である村長(若しくは補佐)に直訴し、主張が認められれば、進展させることも可能です。

民間事業(団体数)-----------------------------
畜産(2)
農産(1)
水産(1)
服飾(2)
工芸(2)
自由業(多)

住民状況---------------------------------------
住民の協調C(改善傾向)
住民同士の信頼D
住民達の結束C(改善傾向)
先住民への感情D
村長(及び補佐)への信頼、信用B(食糧不足により減少)

※A←良C悪→E
【生活】現在の衣食住安定度です。
【食料】食料の備蓄値です。
【住居】住居の状態です。
【お金】所持金です。
【収入】今月の収入見込み値です。
【貢献】今月の村への貢献度です。
【信用】村人からの信用度です。

●未成年学生(45名)-------------------------
「0〜4歳」
男7名
女6名
 
「5〜9歳」
男9名
女7名

「10〜14歳」
男6名
【バリくん】
13歳。寮生。一人暮らし(友人を泊めることが多い)。高等科学級委員。
明るく、勉強も運動も出来る。人望もある。
生活C 食料D 住居B お金D 収入D 貢献D 信用E
知識14 体力13 信頼12 魔力1
属性水(学園で習練中)

【シオン・ポウロウニア】
13歳。寮生。
生活C 食料D 住居B お金D 収入D 貢献D 信用D

女10名
【ルルナ・ケイジ】
10歳。寮生。一人暮らし。
甘えん坊。バランス良く、それなりに優秀。
外見イメージ:12歳頃の安達祐美。
身長:145cm 体重:36kg
髪:朱色ロング 瞳:茶色
生活C 食料D 住居B お金D 収入D 貢献D 信用E
知識11 体力12 信頼5 魔力12
属性火(学園で習練中)

【カヨちゃん】
10歳。ユズおばさんの子供。ミコナに懐いている。
生活B 食料B 住居B お金E 収入E 貢献D 信用E

【アリンちゃん】
14歳。祖母と二人暮し。家事をこなし、祖母の仕事の手伝いもしている。
繊細。大切な人に尽くすタイプ。来月誕生日。
生活D 食料E 住居C お金E 収入D 貢献D 信用D
知識15 体力8 信頼11 魔力6
属性地(学園で習練中)

●未成年青年(8名)---------------------------
※ほぼ成人扱い。
・選挙権がある。
・結婚可能。

「15〜19歳」
男3名
【アルファード・セドリック】
17歳。漁師。原住民村滞在中。
生活C 食料C 住居C お金C 収入E 貢献E 信用D

【フッツ】
19歳。未婚。妹と二人暮し。船員。風魔法使い。交渉団メンバー。老け顔。
冷静沈着。しかし、心は熱い。大人びており、妙に冷めているところもある。
知識7 体力3 信頼6 魔力24
属性風(習練経験有。堪能)

女5名
【ミコナ・ケイジ】
16歳。未婚。魔法学生だった(技術を選考)。食堂の手伝いをしている。
何事にも一生懸命。お人良しなところがある。
外見イメージ:上戸彩を優し気に、気弱にしたような。
身長:158cm 体重:48kg
髪:茶色セミロング 瞳:茶色
生活B 食料B 住居B お金E 収入E 貢献D 信用C
知識7 体力3 信頼8 魔力22
属性水(習練経験有。技術は堪能。学術はイマイチ)

【橘・花梨】<交易担当責任者>
18歳。商人。
生活B 食料C 住居C お金B 収入B 貢献B 信用C

【リィム・フェスタス】<共有食料製造保管管理責任者>
19歳。
生活C 食料D 住居C お金C 収入C 貢献D 信用C
・共有食料製造に携わりました(今月の収穫は、もやし、かいわれ大根)。

【マール・ティアウォーター】
15歳。タウラス宅ハウスキーパー。
生活C 食料C 住居C お金D 収入E 貢献D 信用E

【その他寮生】
生活C 食料D 住居B お金D 収入D 貢献D 信用E

●成年(51名)-------------------------------
「20代」
男4名
【タウラス・ルワール】<原住民交渉責任者><村長補佐>
23歳。
生活C 食料D 住居D お金C 収入C 貢献A 信用A
状態:疲れ気味
・村長補佐として村の運営に従事しました。
・先住民との交渉を行いました。

【シャオ・フェイティン】
27歳。
生活C 食料D 住居C お金C 収入C 貢献C 信用E

【オリン・ギフト】
29歳。教師。医者。
生活C 食料D 住居B お金C 収入C 貢献B 信用B
・子供達の教育に携わりました。
・医者として貢献しました。

女5名
【イリー】
21歳。未婚。妹と二人暮し。医療補助。看護学生だった。普段は初等科の子供の世話をしている。
優しい。世話焼き。
知識15 体力5 信頼8 魔力12
属性地(習練経験有)

【ピスカ】
22歳。未婚。祖母と弟と三人暮らし。交渉団メンバー。記者。
明るい。行動的。好奇心旺盛。
知識17 体力10 信頼8 魔力5
属性火(習練経験無)

「30代」
男1名
【ホラロ・エラリデン】
37歳。既婚(妻子は洪水の犠牲に)。一人暮らし。魔法学者。
ペドフィル。気まぐれ。
生活C 食料D 住居B お金C 収入C 貢献D 信用E
知識5 体力2 信頼1 魔力32
属性地(習練経験有。堪能)

女6名
【レイニ・アルザラ】
33歳。既婚(夫、13年前に死別。子、洪水の犠牲に)。一人暮らし。航海士。村長。
竹を割ったような性格。率先派。
外見イメージ:藤原紀香を強気にしたような。
身長:171cm 体重:58kg
髪:茶色ショート 瞳:茶色
生活C 食料D 住居B お金C 収入C 貢献A 信用A
知識10 体力9 信頼20 魔力1
属性風(習練経験無)
状態:やや重傷
・村長として村の運営に従事。

【中等科教師】
36歳。既婚(夫は洪水の犠牲に。子2)。港町の教師だった。

「40代」
男1名
【船員:機関士】
43歳。既婚(妻1、子1)。機関士。大工の現場指揮。
真面目。温厚。
状態:軽傷

女4名
【ユズおばさん】
42歳。既婚(夫は洪水の犠牲に。子2)。食堂経営。

「50代」
男0名
女6名

「60代以上」
男8名
【船長】
61歳。既婚(妻1、子1、孫1)。大工仕事を指揮している。
明朗。お茶目。年齢問わず、女性にとても優しい。無類の女好き。

女16名
【アリンの祖母】
73歳。既婚(夫、息子夫婦は洪水の犠牲に。孫1)。
服飾の仕事で生計を立てている。

●未登録---------------------------------------
男1名
【ラルバ・ケイジ】
23歳。未婚。湖の集落滞在中。
髪:茶色ショート 瞳:茶色

☆橘・花梨さん
交易にボランティアの協力は期待できませんが、就職希望者が6名います。以下のリストより雇い入れることが可能です。雇った人物には、サブアクションで指示が出せます。
雇用人物、人数はお任せいたしますが、賃金は村から支払われる為、交易利益より支払給料が高くなると不満の対象になります。どれだけ利益が出るかは、アクション次第です。
尚、これだけ希望者が集まったのは、花梨さんの会議での提案、老人達への日常の対応の結果です。

【シラン】
60歳。既婚。元漁師 現職:自由業 雇用賃金『高』
知識11 体力14 信頼10 魔力5
属性風(習練経験無)
「若いもんには負けんよ。先住民集落との取引、往復も任せてくれ」

【マズカ】
62歳。既婚。元商人 現職:日雇いバイト 雇用賃金『普通』
知識16 体力5 信頼12 魔力7
属性水(習練経験無)
「商売の経験があるわ。ファイリング、帳簿は任せて」

【アヤリ】
71歳。既婚。元主婦 現職:服飾手伝い 雇用賃金『安』
知識11 体力5 信頼10 魔力14
属性地(習練経験有)
「倉庫番くらいなら、私にもできるんだけど……雇ってもらえないかしら」

【シエリ】
35歳。既婚。元主婦 現職:日雇いバイト 雇用賃金『普通』
知識18 体力7 信頼14 魔力1
属性火(習練経験無)
「難民村での買いつけなんかに役に立てると思うわ。顔は広い方なの。子供がいるから、働けるのは日中だけで、残業はできないわ」

【レザン】
29歳。未婚(婚約者有)。元船員。現職:大工 雇用賃金『高』
知識8 体力16 信頼3 魔力13
属性水(習練経験有)
「大工仕事が暇な時限定で。主に荷物運びか? それともなんか作るか? 護衛なんかもできるが、先方に宿泊、滞在するのは無理だな。レイニ姐さんや、船長とも旧知の仲だぜ」

【バリ】
13歳。未婚。現職:学生 雇用賃金『安』
知識14 体力13 信頼12 魔力1
属性水(学園で習練中)
「学校終わってからバイトがしたいんだ。早く一人前になりたいからな!」

☆リィム・フェスタスさん
特に温泉事業の方に、明確なビジョンが見えません。リアクションで表されている不可能要素はごく一部ですので、魔法が使えると考え、実際に温泉地で温泉業を経営するつもりになり、何が必要で、何が問題となり、どうすれば進展できるのか、お考えになってみてください。

☆タウラス・ルワールさん
ご担当の原住民との交渉が大詰めです。今までの交渉結果を元に、今後の双方の友好関係のあり方について等、ご提示ください(和親条約、不可侵条約、通商条約などをイメージされるとよろしいかと)。来月の代表者会談はそれを元に行われます。難民村の人々に反発されるような案である場合、村長の反対を受け、書き換えられてしまう可能性もあります。また、特に記述が無い場合は、村長の案で交渉が行われることになります。
阻害アクション、なんらかの事件により、会談自体が正常に行なわれない可能性もありますが、ご了承ください。

☆オリン・ギフトさん
会議で発案された、学園に関する件に関して、ご意見お願いします。オリンさんが反対をされた場合、村長(及び補佐)が強行しない限り、オリンさんの意思が優先されます。
また、NPCアリンが次月後半よりオリンさんの元で働くことを望んでいます。採用する場合は医療補助イリー同様、サブアクションで指示を出せます。

RAリスト(及び条件)
・b4-01:原住民の集落へ行く
・b4-02:代表者会談に参加/警備(村長、村長補佐、警備隊員のみ選択可能)
・b4-03:学園で行動
・b4-04:探索に行く(準備をしていかないと、遭難します)
・b4-05:商売をする
・b4-06:村造りに携わる
・b4-07:定期会議で発言
・b4-08:〜にラブコール!
・b4-09:暗躍する

【アクションについてのご説明】

アトラ・ハシスでは、方針については載せてありますが、普通のメイルゲームマニュアルにあるような、アクションの書き方についての詳しい説明は省かせていただいています。
初心者の参加をお勧めしておらず、現にメイルゲーム初体験と思われる方は参加されていませんが、この、ゲームでの方針を明記してあることが、メイルゲームの基本を逸脱したマスタリングが行われているとの誤解を受けてしまう可能性があるようです。

アトラ・ハシスにおいても、メイルゲームの基本に沿ったアクションを求めており、マスタリングも、マスタリングの基本に則って行っております。
(基本に則った上での、マスター毎の基準、方針、持ち味というものが、個々にあります)

現在複数アクションが非常に多いです。
そのため、ここでメイルゲームのアクション基本について、説明をさせていただきたいと思います。
皆様、ご理解いただいているとは思いますが、今一度ご確認の上、ご協力お願いいたします。

☆【アクションの書き方】リンク☆

※マスターより
こんにちは、川岸です。
申訳ありません。1回リアクションの中に誤記がありました。
レイニの台詞の中で、湖の部族について「大体500世帯ってところかしら」という言葉がありますが、これは、レイニが酷い乱視なのではなく! マニュアルに書かれている数値が正しいです。「世帯」ではなく、「人」です。大変失礼いたしました。

上のアクションについて、ですが、商業マスター時代より、川岸の方針は、アクション補足、PC内心描写の送付については、勧奨しています。しかし、マスターによっては、別紙は一切見ないという漢な方もいますし、そのマスターを支持する方も多いです。
この補足に関しての方針はどちらが正しいというものでもないと思っています。よりアクションの内容を理解したい、PCを理解したいというのが、私のスタンスです。
ただし、欲しいのは、書いてあるアクションの説明であり、アクションを補うための補足アクションではありません。

また、リアクションでの描写量ですが、時に、PCは全て同じだけ描写されるべきだという意見耳にしますが、「〜をする」という一行アクションと、行動の詳細を明記し、PC設定をしっかりと伝えて下さっているPCに関して、同じだけの描写をするのには無理があります。
積極的アクションで、シナリオ内の中心人物となった人物とその人物に絡む人物達全てを同じ描写量にするのも、物理的に無理だというのは、お解かりいただけると思います。
ただ、昔からアクションの採用(判定ではなく)には甘い傾向がある私ですが、複数行動の採用により、「書かない方が損」=「ルールを守っている人が損をする」といわれてしまう状況が発生しかねないと知りましたので、ここで、皆様と一緒に改善を目指して行きたいと思っています。
どうか、次回よりご協力お願いいたします。

メイン行動は一つに絞っていただきたいのですが、アトラ・ハシスでは、なんらかの公務についている方は、サブアクションに職責を記入することができます。むしろ、記入していただきたいと思います。こちらも上記の通り、「しなければならない事」を書いていただきたいのであり、関わっている職業に関係する件であれ、新しく立案、実行をする場合はメインアクションでお願いいたします。
【職責例】
・上司からの命令の遂行
・上司への職務の報告
・食料製造担当者の栽培行為の継続
・交易担当者の通常取引業務
などです。

今回、難民リアは比較的穏やかですが……嵐の前の静けさかもしれません。原住民側のリアもご確認ください。
個別が発生している方も、していない方も交流で情報を集めてみてはいかがでしょうか? 次回は大きな分岐点になると思います。
最終回後には、個別を含む全てのリアクションを公開したいと思っています。
それでは、次回もよろしくお願いいたします。