川岸満里亜
「うん。それでいい。思いつきもしなかったし」
あなたがいれば、何もいらない。
約束の印は、形である必要はない。
むしろ、形にないほうがいいのかもしれない。
約束を、表し続けてくれた方が。
約束を、ささやき続けてくれた方が、きっとずっと幸せだから。
約束の印を見て信じるより、こうして直接あなたに触れていた方が、ずっと信じられる。
「前……のね、旦那に貰った指輪は13年前に手放したの」
手放さなければならないと思った。
形見として、父の顔を知らない娘にあげた。
あれは、指輪というより首輪だった。
鎖でつながれていた私。
それでもいいと思っていたあの頃。
「でももし、あなたと式を挙げることができたら……その時は、欲しいな」
村ではなく、島でもなく、海へ出て。
大海原で、世界に向かい。
村人だけではなく、神だけではなく、全ての万物に。
二人の夢の実現と、永遠の愛を誓うことができるのなら。
万物への誓の証として。
揃いの形が欲しい。
「一緒に海産物……貝殻で作ろう。1つの貝で二つ。一緒に削って、磨いて……」
そう、どれほど時間がかかっても困ることはない。
たとえ、壊れてしまっても、共にあればいつでも、また作ることができる。
でも、本当は。
本当は――。
あなたには、指輪をしていてほしい。
今、すぐにでも。
それは、誓いの印ではなくて……。
女よけとして、ね。
end