アトラ・ハシス

イベントシナリオリアクション

『一番笑顔が溢れた日』

川岸満里亜

 白い雪が光を反射し
 世界がより一層輝いて見えた
 澄み渡った空は
 冬ならではの色を魅せていた

 良く晴れたその日に、計画は実行に移されたのだった。

*        *        *

 湖の集落に滞在中の、アルファード・セドリックは、久しぶりに難民村に戻ってきていた。難民村の自宅がさすがに気になったのだ。
 手には途中で調達したスコップ。
 戻って唖然。
 何もない。何もないではないか!
 しかし、ここまではギリギリ想定内。
「うぉぉぉぉぉーーーーーっ!!」
 自宅のあった辺りを物凄い勢いで掘るアルファード。じきに、雪にすっぽり埋ってしまっていた自宅の屋根が姿を現す。十分補強をしてから旅立った為、崩れてはいないようだ。
「おりゃぁぁぁぁーーーーーっ!!」
 近所の女性達が驚愕するほどの勢いだ。彼女達では丸一日かかりそうな作業を、僅か数時間で終わらせる。さすがに、強靭な体力の持ち主だけのことはある。
 自宅に入り、一息つく。目に入ったのは、会議のお知らせや、広報、そして雪を掻き分けて放り込まれたと思われる、一通の手紙。ピスカからの、保養所建築の案内と、協力要請。
『手伝ってくれたら、私が調査した情報、なんでもあげちゃう☆』
 という言葉に目を止める。ピスカは確か、村の調査を担当していた。交渉団としても、責任者のタウラス・ルワールと常に行動を共にしてるはずだ……。
「よぉぉぉーし、やるッス!」
 半信半疑ながらも、アルファードは早速、荷物をまとめると、家を飛び出したのだった。

「私は行かないわ。二人とも村を離れるのはよくないでしょ。あなたは行ってきなさい。楽しんでくるといいわ。たまには羽根を伸ばさないとね」
 タウラス・ルワールは、保養所建築と完成パーティに賛同、期待の姿勢を示し、村の女性を中心に吹聴して回った。更に村長レイニ・アルザラに彼女や、動けない怪我人や老人達を運送する計画を話したのだが、レイニには拒否されてしまった。
「協力するのはいいけど、手伝う必要はないわよ。あなたは忙しい身なのだから。あくまで休養の為に行ってらっしゃい」
 レイニの言葉を受けたタウラスは、彼女を連れて行くことは断念する。しかし、何の協力もせず、施設だけ利用するわけにも……と、ユズ宅を訪ね、調理を手伝うことにした。
 食堂では、ミコナ・ケイジを手伝いながら、セルジオ・ラーゲルレーヴ、リィム・フェスタスが出発の準備を進めたいた。3人は現場で調理、配膳を担うらしい。彼女達を送り出し、タウラスは調理場に入る。
「レイニ姐様の弱点はね! 激辛料理よ!! うふふふふ……」
 調理場には、ピスカの姿があった。
 唐辛子と、山で採取した山葵を大量にすりおろしている。
(レイニ殿は激辛料理が苦手ですか……)
 意外に思いながら、タウラスは調理師に協力を申し出、料理を手伝うこととする。一般的な料理の知識はあった。
 途中、ピスカが席を外した隙に、彼女が作ったスープの味をみてみる。
(確かに、少々辛いですね)
 そっと、手を加え、味を調整する。
「料理できましたか?」
 そこへ、印象的な赤い髪の少女、フレデリカ・ステイシーが現れた。フレデリカはこの計画に村人の多くが携わることで、病人達への配慮が減ることを心配し、配膳の協力を申し出ていた。彼女自身も病み上がりなので、動けない人々の気持ちは良く分かるつもりだ。
 タウラスはパンとスープと、自分が作った惣菜を2品、フレデリカに持たせる。これはレイニの分だ。
 入院患者の分は専属調理師の手により既に出来上がっている。レイニへ食事を届けた後、フレデリカは患者の分の配膳も担うのであった。それが終わった後は、タウラスと共に、保養所に料理を届ける予定だった。

*        *        *

 往復2時間くらいの所に、その滝が在る。
 豪快ではないけれど。心が梳かれるような空間が、ここにはある。
 心地よい音を奏でながら、木々の中を滑らかに流れ落ちていくその様に、見とれない者はいないだろう。

 保養所は完成間近であった。完成パーティは今日の午後から行われる。
 建築は、オリン・ギフトの案を元に、設計図が作成され行われていた。
 船長率いる大工と共に、付近の木々を調べ、建築に適した材料探しから始めた。
 各部屋はゆったりとしており、天井も高めになっている。
 キッチンと暖炉は石造り、風呂は檜というこだわりようだ。
 また、フレデリカも案を出しており、建物には雪対策が万全に施されている。
「うわあ……大陸でも見たことないほど立派やわ〜」
 その日も手伝いにやってきた、橘・花梨は思わず見とれてしまう。
「作業も大詰めやね! 今日もバリバリやったるで〜!!」
 花梨は保管庫へ急ぐ。毎日のように、内装を精力的に手伝う花梨。保養所に何故か保管庫がついていることに負い目を感じているが故、無償で一生懸命働く。ピスカの口八丁で上手く手伝わされていることに気付きもせず……。
 特に保管庫の棚作りには熱心に携わった。少しでも多くのものを収納できるように、と。

 キッチンでは完成パーティの準備が進められている。
 ミコナ・ケイジはユズの指示により、パーティ食全般を任されていた。もっとも、キャンプファイアーがあることから、パーティは屋外中心に行われる事になったため、バーベキューがメインとなる。ある程度の料理は村で調理師により調理され、運ばれる予定だ。ミコナがやらねばならないのは、野菜を切って肉とともに、皿に並べることくらいだった。
「ミコナさん、お皿ここでよろしいでしょうか?」
 セルジオ・ラーゲルレーヴが大皿をテーブルに置き、ミコナに訊ねる。柔らかな雰囲気の少年だ。あどけなさの残る顔が、可愛らしくもある。
「あ、はい。それじゃ、洗い終わった野菜、盛って下さい〜」
「少しだけだけれど、野菜の収穫できて良かったです」
 キッチンにはリィム・フェスタスの姿もあった。蒼色の髪を束ね、エプロン姿で調理に励むその姿は、いつもとはまた違った魅力を感じる。
「リィムさんのおかげです。健康の為にも、野菜は必要ですから。……私も、もっと皆様のお役に立てればいいのですけれど……」
「僕もです」
 セルジオがミコナに続く。セルジオは15歳。役立てる事を探しているところであった。
「ミコナさんとセルジオさんって、なんだか雰囲気似てますよね」
 と、リィムが言った。二人を見ていると、同じような印象を受けるのだ。
「優しげで、可愛らしくて。会話も自然ですし……なんだか、少し体力的に弱そうなところも、です」
 微笑んで言うリィムの言葉に、ミコナとセルジオは顔を見合わせる。
 確かに、お互い思う時がある。属性も一緒で、魔法を使った作業でも、意思疎通ができる。会話をしていても、心地よい。
「そうですよね。私もそう思います」
 ミコナは嬉しそうに微笑んだ。毎日忙しく働く彼女にとって、同世代の友人はセルジオが始めてかもしれない。

 アルファードは、木材運びに、資材運びと、重労働を担当していた。建築も手伝いながら、技術を学んでいく。人一倍働く彼は、船長にも可愛がられ、大工仲間の多くと既にマブダチ状態だ。そして、合間に自分自身で手がけたのは、暖を取るためのキャンプファイアーの作成だった。
 火が点され、辺りがほのかに暖かくなる。時折火の粉が飛んできたが、それはご愛嬌! アルファードの属性は火。火の粉くらいなら簡単に消せることもあり、火事の心配はなかった。

 他の暖の準備も進められ、パーティは外をメインに準備が始められる。この辺りの降雪量は難民村ほどではなく、木々に覆われているため、積雪も大した事はない。
 料理や食材が運ばれ、それに伴い、人々が次々に下りてくる。タウラス発案の運送計画により、医療班同伴でリハビリも兼ねてやってきた機関士親子の姿がある。軽病人も数名下りてきた。皆、晴れやかな表情だった。
 中等科教師が、子供達を引き連れて下りてきたその時に、パーティが開始された。
 中等科の子供達が、アルファードと共に炎を囲み、歌を歌う。
 網と鉄板の上では、早くも食材が香ばしい匂いを漂わせている。
「滝の水ですよー。ミルクもあります。少ないですが、果汁もありますー」
 セルジオが盆に飲み物を載せて、騒ぐ皆を回っていく。
 ふと、一人の少女が目に映る。彼女の名はアリン。彼女の二つの目は、まっすぐに一人の人物を見つめていた。
 ……高等科の生徒達に囲まれた学園の教師、オリン・ギフトを。
「すげーよ先生、あんな仕組み、港町でも見たことねーよ!」
 男子生徒が興奮気味に話している。
 オリンの指示の元製造された、石造りの上下水道のことだ。先進国で普通に使われていた技術をここで再現してみただけに過ぎないのだが、子供達を感動させるのには、十分だった。いや、大人も。大人たちも、この保養所と、そのシステムには歓喜していた。
「先進国では一般的な技術だ。村にも取り入れていければと思う」
 子供達に、仕組みについて説明をしていくオリン。こんなところでも、彼は先生であった。
 そんな中、アリンは、じっと、オリンを見つめ続けている。彼女が彼女の教師に、何か伝えたい想いや、言葉があるのだと、セルジオには見えた。
 そっと、後押しをすることにする。
「アリンさん。学園の皆さんで召し上がってください」
 盆ごと、飲み物を彼女に持たせたのだった。
「あ、ありがとう」
 会釈をすると、アリンはこぼさないよう、注意をしながら、飲み物を皆に運び、配った。そして、自然に、ごく自然にオリンの隣に入り込んだ。
 会話までは聞き取れなかったが、彼女が嬉しそうに、少し恥かしそうに微笑みながら、会話するその様を見て、セルジオの心が温まった。小さなことだけれど、誰かの役に立てた。そう思えた。
「川魚ッスよ! 釣り立て、焼きたてッスよ〜!」
 アルファードは、焼き上がった魚を皆に配りだす。ウエイトレスをしている、ミコナやリィムにも。
 洪水以来……魚に対する恐怖が、皆の中には根付いていた。しかし、それが川魚であることと、アルファードの陽気さ、そして辺りの明るい雰囲気で、皆も自然に、魚を受け取り美味しそうに食べだした。

 宴もたけなわ。夜も更けようという時分。
 フレデリカは、酔って眠ってしまった人物をずるずると引きずって保養所へと運んでいく。暖炉の側に寝かしつけては、次の人物を運ぶため、外へ出る。怪我で体力を失っていた彼女にはかなりの重労働だ。何せ、大抵の人は自分より体格が大きいのだから。
 ――アレか、元凶は。
 何故、こんなにも倒れている人物……特に女性が多いのか、ようやく理解ができた。女性に人気のある男の一人……タウラス・ルワールが極上の微笑みを投げかけながら、女性に酒を注いで回っているのだ。
 注がれた女性達は断るわけもなく、呑んで笑って呑んで抱きついたり、呑んで眠って……倒れてゆく。なんだか、彼に差し出された料理を食べた途端、青くなって蹲る人もいた。
「どうぞ(にこっ)」
 艶やかな微笑みで差し出されたお酒と料理に、リリア・アデレイトは戸惑う。学園の生徒は飲酒を禁止されている。リリアは先日15になったばかり……迷った末タウラスから料理だけ受け取る。パーティ前に、タウラス自ら村で作ってきた料理らしい。
「いただきます!」
 ……それは、大陸で普段から食べていた上品な卵料理だ。懐かしさを感じる料理に期待を込めて口に運ぶ。
「…………」
 にこにこにこ
「…………」
 にこにこにこ
「…………」
 どう表せばいいんだろう、この料理の味を。
 リリアはタウラスの笑顔を前に、愛想笑いもできない。顔が引きつってしまう。
 大陸でも、難民村に来てからも一度も食べたこともない味。いやしかし、学園の生活でこの味をイメージさせるようなものが確か……そう! 放置していた生乾き雑巾味(使用済!)とでも言うべきかッ。
「あ、花梨さん、もう一杯どうぞ(にこっ)」
「タウしゃ〜ん、もう飲めへんてぇ〜☆」
 手を振って断る花梨に、タウラスが無理矢理グラスを持たせた直後。
「ちょっと、タウラスさんッ!」
 フレデリカが女性達を掻き分けて、タウラスの肩を掴んだのだった。

「花梨さん、向うの方ってどんな暮らしをしてるんですか?」
 一息ついて。
 リリアは花梨を輪から連れ出し、並んで丸太の上に腰掛けていた。リリアの青みがかった銀髪が、淡い月の光と揺らめく炎を映し、神秘的な美しさを魅せている。
「んとね〜、自然と共存してるってカンジやーねぇー」
 傍らの花梨は酔いつぶれ寸前の状態だ。
「食料とか、服とか、考え方とかは……花梨さんは、湖の集落を回ったんですよね?」
 先住民に興味を持っているリリアは、立て続けに質問をしていく。
「ん〜、農業とかー、あまり知らんみたいやしー。狩が中心やねぇぇ〜。少し野性的やけど、あんまり変わらへんよぉ〜。だけどぉ、親しくなっても、礼儀はありやねぇー うふふふふぅ」
「そういえば、花梨さんも別の国の人ですよね? 私、先住民に興味あるから。本当は行ってみたいの!」
「そうやねん〜。でも、みんなと上手くやってるんよ〜。だから、大丈夫なんよ。万事OKやねぇ。でも、湖の部族んとこ行くんなら〜、公務で行く人と一緒に行ったがいいやねぇ〜。道中も山道で危険やし、個人行動で向うでなんか問題起したりしよったらぁ、村同士の抗争に発展するかもやしぃ」
「そっか……」
 リリアが、続けて質問をしようとする。と、そんなリリアのほっそりした手が突如、掴まれる。
「うわあ、細くて可愛い手やぁ〜。リリアちゃ〜ん」
 ぎゅううっと抱きついてくる花梨。
「か、花梨さん? の、飲みすぎです」
 剥がそうとするが、体力は花梨の方がずっと上。酔いで体重を預けてくる彼女をどかすことは困難だった。
「ちゅーしよかぁ。リリアちゃーん☆」
「花梨さん、ちょ、ちょっとやめてくださいっ、く、くすぐったいです」
 擦り寄ってくる花梨にリリアが軽い危機感を覚えたその時、冷たい何かが頭に当った。
「不純異性交遊発見!」
 バシ、バシッと、雪の玉がぶつけられる。
「昼間から、公衆の面前で不潔です」
「冷たいっ。フレデリカさん!? 不純異性って……私達は同性です」
 しかも、今は夜だ。
「この期に及んで言い訳するなんて、見苦しい!」
 問答無用で、続けざまに雪の玉を投げつけるフレデリカ。見れば、彼女の目も据わっているではないか。リリアにぎゅっと抱きついている花梨と同じように。
「フレデリカちゃん。そんなに嫉妬せんでも〜。アンタのことも愛してるってぇー」
 花梨が雪の玉を受けながら、まるで猫のように、フレデリカに飛びついて、擦り寄る。
 抗いながら、雪を丸めては四方八方に投げ出すフレデリカ。
「目を覚ますのよ、みんな! こんなところで寝たら凍死します! ヒック」
「……まずは、自分の目を覚ましてよ……」
 一人シラフなリリアが溜息交じりに呟いた。
 ……先程、タウラスを止めに入ったフレデリカだが、自分を忘れる程に酔って、見境無しに酒を勧め続ける彼を止める手段はなく。仕方なく、酔いつぶしにかかった。しかし、フレデリカ自身も否応なく飲まされてしまい、こんな状態になってしまったのだった。
「酔い冷ましに、お茶はいかがですか」
「リィムさ〜ん☆」
「き、きゃあっ」
 近寄ってきた、リィムにも飛びついていく花梨。
「あなたも、こんなところで寝たら……ぶつぶつぶつぶつ」
 フレデリカは呟きながら、椅子に使っていた丸太を引きずりながら、ふらふらと保養所に向かっていく。途中には、何人もの人物を引き摺った跡がある。フレデリカが運んだ人々の跡だ。
 酔いと疲れで限界を超えていたフレデリカは、最後に寝かしつけて?運んだ、タウラスと丸太に挟まれて就寝と相成った。

 見境なく飛びついていた花梨も眠りに落ち、夜も更けていった。
 火は消され、残った人々も室内へと戻っていく。
 酔ってはいなかったが、リリアの疲れも相当なものだった。体力のない彼女には、ここまでの道中でさえ辛かった。まだ膝が笑っている。筋肉痛も始まった。
 しかし、妙な話を聞いたからには、このまま眠るわけにはいかない。暖炉の側ですやすやと眠るピスカを叩き起こして、保養所内の巡回を始めたのだった。
「よりどりみどりとか、言わないで! 確かに有効なんだろうけど……っ!」
 ピスカがホラロに言った言葉に、不安を感じていたのだ。ホラロの子供を見る目が普通ではない事は、リリアにも気付いていた。自分たち高等科生徒も、よく彼に気持ち悪い目で眺められたものだ。
「うにゃ……。別にいいじゃない〜。よりどりみどり食べていいわよ☆ とか言ったわけじゃないんだしぃ」
 目をこすりこすり、ピスカはついてくる。
 リリアが危険視している男性といえば、ホラロと船長くらいだが、船長の方はターゲットは大人だし、本人も暖炉付近でお休み状態なので、特に問題はないと思われる。
 ホラロの方は……と辺りを見回す。
「子供達を見るなという訳ではありません。ただ、上から下からとジロジロとなめるように見られるのはとても不快です」
 女性の説教の先に、問題の人物、ホラロ・エラリデンの姿があった。
「大人なら我慢も出来ますけど、子供は自分の感情に素直な子が多いですから、変な目で見る人は『気持ち悪い・嫌い・近寄らないで』と、ほぼ確実に拒絶します」
 ホラロに厳しい言葉を浴びせているのは、リィムだ。
 リリアは安心する。彼女が付いているのなら、大丈夫だろう。
「も〜、いいでしょ〜。ねよーよーーーー」
 ピスカが、リリアの腕を引く。
「そうね、大丈夫そうだし……」
 さすがに、自分も限界を超えている。
 ピスカに引っ張られて、客室に入る。
 懐かしい……。とリリアは感じた。
 オリン設計の都会的な造りは、自分の昔の部屋に少しだけ似ている気がした。
 ベッドに倒れこむピスカ。そして、リリアも。隣のベッドに入る。柔らかなベッドの感触も、とても懐かしかった。すぐに、睡魔は訪れた……。

「ようは、いつも私と話しているように、子供と接すれば良いんですよ〜」
 リィムの言葉にホラロは不満気だ。
 先ほど、ホラロは疲れた様子の風呂上りのルルナ・ケイジを見かた。親しげに近づき、ルルナの肩に手を置いてマッサージを名目に部屋に誘おうとしたところ、リィムに捉まってしまったのだった。
 ルルナは、姉とともに、二人部屋で休んでいる。幸せそうな二人の様子に、リィムは満足だった。しかし、ホラロは大不満だった。
 ホラロは完成宿泊パーティを期待して、船長を手伝い、魔法で土木作業を担った。オリンの進める下水道の工事にも随分と力を貸したというのに。ホラロにしてみれば、完全に働き損と言える。他の子供達もそれぞれの部屋で眠ってしまったようだ。
「そ・れ・と、ベタベタ触らない事! 子供に嫌われたら、一緒に居られないですからね」
「リィムさん」
 ホラロは、いつになく真剣だった。
「それは、ご馳走を目の前にして、食べるなということですか? ご馳走は素敵ですよ? でも、見ているだけじゃ満足できないじゃないですか。食べてこそ、真の満足が得られるのです」
 ホラロの言葉に、一瞬唖然とする、リィム。
「じゃ、じゃなくて、お花は綺麗ですよね? でも、摘んだらすぐに枯れてしまいますよね? だから、触らず、害を与えないよう見ているのが一番幸せだということです」
「いえいえ、植え替えて、持ち帰って傍らに置き、愛でるのが一番でしょう〜」
 なんだか背筋が寒くなってきたリィムである。
「とにかく、嫌われない行動を取るようにして下さい〜」
「ふむ。触るなというのなら……それじゃ、触れる存在を、リィムさん作ってくれます?」
「……え?」
「娘がほしいんですよ〜。2、3人」
 そ、それは俺の子を産んでくれ! という、意味!? リィムは固まった。
「いやあ、リィムさんの子供なら、可愛いんじゃないかと思いましてねぇ。あ、私の子供じゃなくてもいいですよ。父親は、シャオさんのような美形系や、セルジオ君のような可愛い系の男性がお勧めですねぇ。生まれたら養女に下さいね。約束ですよ? そしたら、他の子には触りませんからー」
 そんな約束できるかい!
 リィムは激しい眩暈に襲われた。
 彼の思想の改造はそう簡単にはいかないようだ。

*        *        *

 翌朝も晴れていた。
 朝日が、滝をまぶしく光らせている。
 僅かに凍ったその様がまた、美しい。
 反射した光を受けて、セルジオは目を細めた。
 澄み切った空気に、深呼吸をする。
(村の周辺も素敵だけど、ここは本当に最高ですね)
「さてと」
 帰宅の準備だ。
 後片付けも大変そうだ。でも、これは自分ができることだから。やれることは、やらないと。
 大人へと一歩一歩、自分の足で近づいていくセルジオだった。

 精力的に建設に携わり、パーティを盛り上げたアルファードは、キャンプファイアーの後片付けを済ますと、残った食材を手に、湖の集落へと下りていった。

 他の人々は。
 二日酔いで顔を歪めながらも、笑顔いっぱい。景色を堪能して、村へと帰還していく……。
 パーティは大成功だった。
 保養所も、皆の安らぎの場として使われていくことだろう。

 ――そして。
「……報告はこれで終り?」
 夕方戻ったタウラスは、レイニに保養所とパーティの報告をした。にこにこにこにこ異様なほど微笑みながら、黙って聞いていた彼女の第一声がそれだった。
「ええ、私からは。ピスカ殿からもあると思いますが」
「そう、それじゃ、今日は私からあなたに提案があるんだけど」
 レイニは突如、目安箱をばさばさっとひっくり返し、投書をばら撒いた。
「あなたに、求婚者がこんなにいるんだけど」
「……はあ?」
 眉根を寄せるタウラスに対し、相変わらず微笑みながら、レイニは言う。
「なんでも、あなたが作った料理が、酷く不味かったらしくて。こんな料理もとい、家畜の餌を食べていたんでは、愛しのタウラス様の命が危ないって、みんな危機感を覚えたみたいで。婿にほしいだとか、妾にしてくれだとか、養子にするだとかー」
 確かに、味覚音痴らしいことは、なんとなく分ってはいる。料理に自信があるわけではないが、あまりに酷い言われようだな、とタウラスは苦笑いをする。
「お見合いの仲介の話も、今までも何件も聞いていたわ。でも、本人の意思が大切だから、と断り続けてきたんだけど……今回ばかりは、私も賛成する。あなた、結婚すべきよタウラス。世話してもらいなさいっ!!」
「レ、レイニ殿……」
 タウラスは思い出す。そういえば、レイニにも、自分の料理を届けてもらったな、と。
「家畜の餌どころじゃないわ。あんなもの、家畜に食べさせられるわけないでしょ。肥 溜 レ ベ ル よ!」
 さすがに彼女の言葉はキツイ。くさあっと傷つくタウラスであった。
「特にスープが酷かった」
「い、いえ、あれはピスカ殿が……」
「辛いものが嫌いというのは、嘘よ。苦手なフリして、ピスカを上手く操ってんのよ。彼女の激辛スープは絶品よ。あなたが手を加えなければねー。ああそう、今回の保養所完成で、住民からの要望10件ほど片付いたから。有能な部下を持つと助かるわ」
 村外の保養施設については、住民の間からも要望が出ていたのだ。山小屋の設置等も。ピスカを上手く使って、公費を一切つかわず、やってのけたというわけだ。
「で、話を戻すけど。あなた、昨晩村の女性を口説きまわったらしいわね」
「え? いえ、そのようなことは……」
「事実がないのに、こんなに投書が届くものかしら〜?」
 そういえば、自宅のポストもパンク寸前であった。後ほどゆっくり確認しようとは思っていたが……。
 昨晩のことを思い出す。料理を持って、皆に配って……酒を勧めれて……ああ、ダメだ。それ以上先がどうしても思い出せない!
 そんな様子のタウラスに、レイニは止めの一言を言った。
あなたの子供が出来たって言われても、言い逃れができないわねぇ。騙されて望んでもいない相手と結婚するより、今のうちに相手を選んでおいた方がいいと思うわよ♪」
 とても楽しそうな口調であった。
 ……目は笑っていなかったがッ!
                       ☆おしまい☆

●PCリスト(登場順)-------------------------------------

【アルファード・セドリック】
「燃〜えろよ 燃えろ〜よ〜 炎よ燃〜え〜ろ〜♪」

「火の粉を 巻きあ〜げ 天までこがせ〜♪(合唱)」(子供達)
「儂の恋の炎も燃えまくったぞ〜」(船長)

【タウラス・ルワール】
「どうぞ、召し上がってください(ニッコリ)」

「わーい、いただきまーす♪(ぱくっ) ……………………………………………お、おねぇちゃぁぁぁーーーーーん!!(ダッシュ&涙目)」(ルルナ)
「はっはっはっ。晩餐会のデザートはロシアンルーレット式にしましょうか。誰の料理が当たるかわからないという」(フッツ)
「冗談でもやめて……(眩暈)」(レイニ)

【セルジオ・ラーゲルレーヴ】
「今まで何もしてこなかった分、皆さんに甘えていた分、僕はお手伝いをしたいと思っています。だから、どうぞ宜しくお願いします」

「私も、もっと頑張らなきゃ!」(ミコナ)
「期待してるわ(微笑)」(レイニ)
「そーお? それじゃ、あれとこれとそれとこれもお願いしたいんだけどぉ(私事ばかり)」(ピスカ)

【リィム・フェスタス】
「仕事は仕事!! 息抜きは生き抜き!! 遊ぶ時は「パァーー」っと遊びましょう〜|」

「私も息抜きしたいですねぇ〜。ストレスが溜まってきましたよ」(ホラロ)
「ストレスで痩せたら、もう少し見かけもマシになるんじゃない?」(レイニ)

【フレデリカ・ステイシー】
「そんなところで寝て、風邪を引いても知りませんから(まじ)」

「クシュン……。なんか、背中痛いと思ったら、擦傷出来てる〜」(ピスカ)
「屋外パーティだったのに、風邪患者が思いの他少ないのは、フレデリカさんのお陰ね(にこっ)」(イリー)

【オリン・ギフト】
「まあ、こんなところか」

「俺も先生みたくなれるかな……(密かに尊敬)」(バリ)
「先生……15になったら、大人と認めてくれる、の? 早く大人になりたい。どうすれば、先生に大人と認めてもらえるのかな……」(アリン)

【橘・花梨】
「春やー。どんな山菜出るやろ…」

「山菜か〜。この山はきっと、山菜の宝庫よ。私も採取に行きたいわ〜!」(レイニ)
「レイニ様、目安箱に投書がこんなに(バサバサバサバサ)」(フッツ)

【リリア・アデレイト】
「リリア・アデレイト。15歳になったばっかりです。
 気力だけなら男の子にも勝てる! 
 ……はずだけど。体力はどうにもなんないってことがわかったわ……。
 (↑滝のトコ来るまでに、へたばりそうになった…)」

「い、いや、性別、だけでは、補えないものが……(ぜいはあ…)」(フッツ)
「ですねぇ(ふらふら)」(ホラロ)

☆アルファード・セドリックさん
文字数オーバーでした。僅かなら容認するのですが、ちょっと多かったです。本編ではお気をつけください。
ピスカへのご質問ですが、彼女が知っている範囲での情報を入手できました。湖の集落では、交渉団として団長に付き従っているため、原住民リアでの、タウラス・ルワールさんと同等の情報を得たと思ってください。詳細に関しては原住民リアから推測お願いします。

☆タウラス・ルワールさん
以後、湖の集落との往復時、保養所を休憩所として(無料で)利用することができます。

☆セルジオ・ラーゲルレーヴさん
初めてのアクション、ありがとうございました!
現在は日雇いでどうにか生活している状況となります(一戸建orアパートで一人暮らし)。
今回の協力で、就職について、ピスカとミコナから推薦を得られるようになりました。

☆リィム・フェスタスさん
今回の協力で、公募をする際に、ピスカの協力が得られるようになりました。

☆フレデリカ・ステイシーさん
初めてのアクション、ありがとうございました!
現在までは、怪我人として公的な援助を受けてきており、無職、住処も決まっていない状況となります。
今回の協力で、就職について、ピスカから推薦を得られるようになりました。

☆オリン・ギフトさん
今回の協力で、ピスカを数日講師として雇うことができるようになりました。

☆橘・花梨さん
以後、保養所の倉庫を、公務の交易に利用することができます。

☆リリア・アデレイトさん
初めてのアクション、ありがとうございました!
15歳で学園に通う義務はなくなります(その後も授業を受けることは可能。しかし、自立が必要になります)。
最大3ヶ月間は公的援助を受けることができます。学園寮にも3ヶ月間留まっていることが可能です。
今回の協力で、就職についてピスカから推薦を得られるようになりました。

※マスターより
こんにちは、川岸です。
皆様には、色々と心配をおかけしてしまい、大変申し訳ありませんでした。
明るいアクション、ありがとうございます。
イベントシナリオらしいほのぼのとしたリアになりました。骨休めになったでしょうか?

4回アクションもどうぞよろしくお願いいたします。
3回リアにリンクが貼られている「アクションの書き方」をもう一度ご確認の上、どうか、ご協力をお願いいたします。
現難民PCには、他人と距離を置いている方はいませんので、新規参加の皆様も含め、PC同士皆それなりの関係が築けていると思われます。
4回は順調に進めば、定期会議→代表者会談です。リアクションをもう一度ご確認の上、アクション詰めてみてくださいー。

それでは、また来月! 久しぶりの本編アクション、とても楽しみにしています☆