アトラ・ハシス

第六回リアクション

『贖罪』

川岸満里亜

 その冷たい塊は、何よりも温かい
 凍てついた身体に、活力という暖をくれる
 震えている心を、暖かく包んでくれる

 ――お願い、私に、勇気を――

 首飾りを両手でそっと、抱きしめて
 まぶたをぎゅっと閉じた後
 凛とした瞳で前を見据え
 彼女は一歩、踏み出した

 “怖い”
 だけれど
 この状況を引き起こしているのが、彼である以上
 自分が黙って見ているわけにはいかない
 私に出来ることなんて……ない、のかもしれない
 それでも
 それでも、多少の時間を稼ぐことくらい、なら……

 いいえ
 やってみせる
 関係のない、彼等に任せることになるのだから
 このくらいは、私が

 お願い、ヴェイク
 私に、勇気を……

*        *        *

「情報の分析が先決だろう。フッツ君、もう一度説明してくれるか」
 オリン・ギフトがフッツに説明を求める。
 叩き付ける雨音が、会話の妨げとなる。
 吹き荒れる風は建物を軋ませ、不安を煽る。
 皆、心を抑えることに、必死だった。
 フッツはもう一度、皆に話して聞かせる。
 異形の生物が、村に近付いている……いや、既に村に到着しているであろうことを。
 付き従う仮面の人物はおよそ10名。
 率いる異形の生物の姿を、より詳しく話す。
 刃物と化した左腕の説明に入った時点で、タウラス・ルワールが止める。
「儀式を乗っ取ろうとした結果であるのなら、それは祭具ではないでしょうか? 儀式に使われる不思議な力を秘めた呪具……おそらくは、短刀。それが媒介になり、彼の身体に異変を起しているとは考えられませんか?」
「ああ、状況からして、それが祭具である可能性は高いだろう。儀式で魔力エネルギーを大量に体内に取り込み、その結果として異形と化したというのなら、ここにやってきた目的は……」
 一呼吸置いて、オリンは続ける。
「魔力制御装置。魔力は得たが、制御は出来ていないということだ。しかし、今は制御装置は存在しない。
 体内に取り込んだ魔力がいつ暴走するとも限らない。厳しい状況だな……」
「確かに、以前、制御装置をお見せしたことがあります。不用意なことをしました。申し訳ありません」
 タウラスが皆に謝罪をする。
 その顔色は青白く、声には張りがない。立っているだけで精一杯な彼の身体状況が一目瞭然に分かる。
「制御を焦るほどの状態なら、村から遠ざけることを考えなくては……」
 バン!
 再び、ドアが勢いよく開かれる。
「テセラさんが説得に行いった。一人ではいかせられない。俺も後を追おうと思う。武器と、戦闘配備を!」
 レイニ・アルザラの姿を見つけ、彼女に詰め寄る。ラルバ・ケイジであった。
「先ほどの爆発は、族長の仕業だ。テセラさんが狙われた。それなのに……無茶を!」
 テセラ・ナ・ウィルトは、湖の集落で人々の調整、交渉補佐している人物だ。その彼女を狙うということは……。
「既に、人の心を失っているということかしら。ラルバ、私もここの長として、交渉に出るわ。あなたは、ここで戦闘体制を整えて。ウィルトさんも、ここにいる湖の部族の子供達の保護者として、そして、向うの取りまとめ役としての、覚悟と責任を持っての行動でしょうから。あなたは、あなたの責務を果たしなさい」
「っ……彼女にも、同じようなことを言われました。しかし……」
「彼女は、私が追うから。私とウィルトさんで、族長の気を引いてみるわ。皆はここで引き続き対策を練って、タウラスの指揮の下、配備を整えて!」
 一人。
 レイニ・アルザラが応接室から出ようとする。
 途端に、皆の心に更なる不安が渦巻く。
 彼女には……いや、誰にも、あの異形の族長に対抗する力などないのは、わかっている。
 彼女の声は、時に厳しく、力強い。その茶色の瞳もまた。
 きっと、なんとかしてくれると。
 絶対、大丈夫だと。
 そう、思い込ませてくれる、力がある。
 だからこそ、皆の傍にいなければいけない存在だというのに。
 だからこそ、率先して危険の中に突き進まなければならない存在でもある。
 早足でドアに近付き、手をかけたレイニの……反対の腕を掴む者がいた。
「あなたも、俺をおいていってしまうんですか?」
 不安げに自分を見る瞳に、レイニは戸惑った。
「タウラス……?」
 手を引こうとするが、掴んだ手首を、彼は放そうとしない。
「一緒に、行きます」
「な、何を言っているの!? 動ける私が交渉に出て、動けないあなたはここに残って指揮を取る。当然のことでしょ?」
 突然のタウラスの態度が、レイニを混乱させた。
 不安そうに向けられた瞳は、いつもの彼のものではない。
 かつて、彼がそのような感情を表したことは、なかった。
「以前、保険と言ったのは、あの時はそのような関係が村にとって最良だと思いました……でも、今は……」
 いつかは離れるつもりであった村は、既にタウラスにとって捨てきれないものになっていた。
「今も、あなたのおっしゃることが最良だと思います。ですが……俺にとってはそうじゃない。共にありたい人の手を放すわけにいかない。もう守れないのも、見失うのも嫌だから」
 だから。
 自分も、共に行くと。
 タウラスは、レイニの腕を放さなかった。
「……そ、んな身体で何を言ってるの。一人で歩くこともままならないくせに」
 揺れているのが分かった。
 交渉に行くと強く言い切った彼女が、タウラスの言葉と態度に、揺れているのが、見て取れた。
「時間がないの。タウラス、放して」
 手を放さず、タウラスは首を左右に振る。
「あ、あの。私、体力を回復させる薬、持ってます。魔法鉱石でホラロさんが作ってくれた魔法薬です。これならタウラスさんの体力も回復させることができるのではないでしょうか?」
 リィム・フェスタスはホラロに視線を送り、確認をとる。
「そうですね。低下している体力だけなら、回復させることも可能でしょう」
 ホラロの言葉を聞いたリィムは、ポーチから小瓶を取り出して、タウラスに差し出した。
 感謝の言葉を述べて、タウラスは小瓶を受け取ると、躊躇することなく、一気に飲み干す。
 そして、強く。更に強くレイニの手首を握る。
「交渉に行かれるというのなら、私も行きます。あなた一人では行かせません」
「……私は、あなたをもう、危険な目には……」
 言いかけた言葉を途中で止めて、レイニは少しの間沈黙した。
 そして「わかった」と言ったのだった。
「一緒に行こう、タウラス」
「いや、それはダメだ」
 間髪いれずオリン・ギフトが口を挟む。
「タウラスさんが交渉に出るのなら、レイニさんはここに残るべきだ。今の族長は交渉中であれ、攻撃を仕掛けてくるだろう。戦闘と指揮をとれるものが役場棟に残らなければならない。タウラスさんの体力が回復したのなら、話術はタウラスさんが上、指揮、統率はレイニさんが上なのだから、自ずと互いの役割は分かるはずだ」
「……オリンの言っていることは、全面的に正しい。私もそう思う。村の為にそうすべきだと思う。……だけど、タウラスは私の補佐だから!」
 強く。雨の勢いに負けないほど強く、レイニは皆に向けて言い放った。
「交渉に行くのは、あくまで、村の代表の私。だから補佐の彼が、私が本当に大変なときに、傍で私をサポートしてくれるのは、当然だと思ってる。私は最初から、二人の関係が保険だなんて思っていない! 端から右腕……彼を自分の身体の一部だと思っていた。
 私達はあの広い大陸の、たった100人の生き残りよ。先導をしたのは私だけれど、風を操ったのも、水を抑えたのも、私ではない。皆で協力して、励ましあいながら、ここまで生きてきた、たった100人の仲間だというのに! 主義、主張は皆違って、自己保身の為に我が侭ばかり言う人も多いけれど。誰もが自分の幸せを掴みたいだけ。誰も、他人の不幸を望んではいない。私達は私達がいないと生きてはいけない、小さな集まりだというのに。人を失う悲しみを等しく知っている私達が、互いを信頼しない理由がどこにある!?」
 続きは、タウラスに。
 タウラスを見つめて、言った。
「大切な人達の中で、私の補佐をしたいと申し出たあなたを、全面的に信頼しない理由がどこにあるのよ。一番に大切に思わない理由が何処にある!? 申し出た理由なんて関係ない。僅か100人の大切な仲間の中で、更に私に協力をしようと名乗り出たその時点で、あなたは私の中で、唯一無二の私の相棒になったのよ。それを……信頼されているなんて思わなかったなんて、よくも言ってくれたわね」 
 軽くタウラスを小突いて、レイニはドアを開けた。
「急いで、着替えて用意をして。あなたが戻ってくるまで、ここで待ってるから。一緒に行こう、タウラス」
 いつか、ピスカが言っていた言葉を思い出す。
 レイニは仲間と思った人を、とてもとても凄く大切にする人だと。
 この島に辿りついた時点で……いや、船に乗り合わせた時点で、既に自分達は信頼すべき大切な仲間と位置づけられていたのだろう。
「指揮が必要だというのなら、指示を出してからいくわ。現場の指揮は担当人物に任せる。取りまとめはフレデリカがやって。後に私に報告を」
「……わかりました」
 フレデリカは承諾する。釘を刺す必要はないようだ。「どちらかが…」や、「もしもの時」といった、レイニの先の発言に、苛立ちと……悲しみを覚えていたけれど……。
 レイニさんは、帰ってくる気でいる。大丈夫だ。やれる!
「では、僭越ですが、村長代理として皆の報告を受けさせていただきます」
 フレデリカがしっかりとした口調で言った。
「私は役場棟に罠を張ろう。あとは……左腕切り落としに関して、策がある」
 レイニを止めることを諦めたのか、オリンが提案を始める。
「具体案は後にするが、ラルバ君の協力が必要不可欠だ。水魔法堪能者の協力も得られるといいんだが」
「わかったわ。……ラルバとフッツはオリンの指示に従って防衛及び、攻撃をお願い。
 ピスカ、まだ避難をしていない人は誰?」
 レイニの言葉を受け、ピスカが未避難者5名の名前をあげる。
 うち、子供3名は寮にいると思われる。残りの2名は家にいなかった為、家族は手紙を残し、先に避難したとのことだ……。
「私、捜しに行きます」
「うちも!」
 リィムと橘・花梨が申し出る。
「じゃあ、リィムはピスカと共に、寮にいると思われる子供の部屋を訪ねて。花梨は会議室で仲間を募ってから村をまわってちょうだい。決して彼等に見つからないように。何かの際は逃げることを第一に考えて」
「わかりました」
 二人は顔をあわせて頷きあった後、ドアへと向う。
「あ、ホラロさん、この間発掘した、鉱石ですけれど、持っていれば多少、魔力を増強することできますか?」
 振り向いてリィムはホラロに問う。
「持っているだけでは効果はありませんねー。摂取すれば、一時的に魔力を増幅することくらい可能でしょうけれど、原石をそのまま摂取したら、身体が持たないでしょう。こういう事態に陥ると知っていれば、魔力増幅薬も作っておいたんですけれどね……」
「そうですか……」
 魔力増幅は諦めて、ピスカと共に、リィムは寮に向うことにする。
 レイニの脇を通り過ぎざま、リィムは微笑んでレイニにこう言葉を残した。
「村人を守ろうとする事は良い事ですけれど、自分自身も守ってくださいね。レイニさんも村人の一人なんですから」
 少し、驚いたように、レイニはリィムを見た。
「確かに、言われてみれば当然なことなんだけれど、そんな風に言ってくれたのは、あなたが始めてよ。ありがとう、リィム。私にだって、やりたいことも、夢もある。だから、こんなところで無駄死にするつもりは、毛頭ないのよ。本当にそう思ってる」
「約束してね、姐様」
 ピスカは再びレイニに抱きつく。
「全て終わったら、いい記事書いてね、ピスカ」
 軽く抱きしめ返して、ピスカを離して、その背を押す。
 ピスカは、不安気に振り返った後、リィムと一緒に応接室を出て行った。
「セルジオはホラロの指示の元、防衛に備えていて。ミコナとリリアはサポートしてくれるのよね?」
 リリア・アデレイトが決意を秘めた瞳で、頷く。リリアは爆発音を聞いてすぐ、応接室に駆けつけていた。
「私は、お兄ちゃん達のサポートをします」
 ミコナ・ケイジは繋いでいたセルジオ・ラーゲルレーヴの手を離した。セルジオの目を見つめて、少しだけ、笑みをみせた。
「私も、頑張るね。魔力防衛の担当者として選ばれなれなかったけれど……私も出来ることをしなきゃ」
 それでも少し震えている彼女は、果敢なく、とても心配ではあったが……そして、自分の傍にいて欲しくもあったのだが、セルジオはミコナを止めなかった。彼女、自身の為に。
 タウラス・ルワールが戻る。
 普段着に、髪を後ろで束ねた姿。……少し痩せてはいたが、いつもの彼の姿だった。
 違うのは、腰にレイピアを携えていること。武器庫から持ってきたのだろう。
「僕も一緒に行かせてください!」
 タウラスの後ろからルビイ・サ・フレスが姿を現す。見舞いにタウラスの病室を訪れたルビイは、タウラスから掻い摘んだ状況の説明を受けていた。
「確か……ホームステイ発案者のルビイさんよね? あなたを連れていくことはできないわ」
「ルビイはオントと縁のある人物です。オントの家族のようなもの……だから、知る権利はある」
 言ったのはラルバだった。
「……でも、いいとはいえないわ。私には、あなたを守る責任がある。だけれど、あなたがあなたの保護者に会いに行くことを止める権利はないわ、ね」
 レイニの言葉は、黙認の意を示していた。
 その間、タウラスは、オリンとの間で、軽く作戦を話し合い、2、3部下に指示を出して回る。
 レイニは指示を続ける。
「村の皆は決して外には出さないように。説明は……」
「した方がいいと思います」
 セルジオが言った。
「何も知らずに、不意に今の状況を知るようなことがあれば、知らせた時よりも混乱するかと思います」
 対して、オリンの意見はこうだった。
「いや、言わない方がいいだろう。これは、村人間だけの問題に留まらない。今の村人達には重すぎる事実だ。言えば、コツコツ築いてきた先住民との関係をぶち壊し決して埋めることのできない溝を残してしまうだろう。今は言わずにおくべきだ」
「……説明は、しない方がいいと、私は思う」
 レイニの意見はオリンとほぼ同じであった。
「今は余計な混乱を起すようなことは避けるべきだと思うわ。だけれど、ある程度の説明は必要だから。その程度については、残っている人達に任せる。真に皆のことを考えて、状況を見て、判断をしてちょうだい」
「必要性を感じればお任せします。ですが、異形の生物が族長であることは伏せておいてください。……その告白は、戻ってから俺がする仕事だから」
 最後は重い声で。自分にも語りかけるように、タウラスが言った。
「では……少しの間、ここは皆に任せるわね」
 レイニはドアを開ける。
「行こうか、タウラス」
「はい」
 タウラスはレイニに近付き、自然に腰に手を添えて、エスコートする。
「作戦の目的は誰も欠けないことです。自分の命を一番に考えてください」
 タウラスは、応接室に、そう言葉を残した。
 少し、距離を置いて、ルビイがその後に続く。部屋を出る前に、真剣な面持ちで皆にぺこりと挨拶をして。

 室内よりも、廊下はひんやりとしている。
 裏口へと向うことにする。会議室前を通り、村人達に引き止められることを避けるために。
 レイニの身体も、顔も強張っているのがわかる。
 タウラスにも、恐怖と不安がある。だから、大切な人を……大切な人の傍で思い浮かべる。
「島も村も落ち着いたら、船に乗りましょう。一緒に、大海原に出て、宝探しを……」
 探し出したい宝は、自分の主であり。
 レイニの娘であり……。
 多くの人々だ。
 主は必ず生きている。
 そう、信じている。
 生きているのなら、彼と共に生きている人々が、またいるはずだ。
 そして、彼は混乱を治めるために、奔走しているだろうと思える。
 主を……生きているであろう人々を、受け入れられる村にしたい。それが今の思いだった。
「この村さえ救えなかったと知れれば叱られます。無能な奴は要らないと仰るでしょう。胸を張って紹介できる村にしなくては……まだこれから、成すべきことは、山のようにありますが」
 そのために、今は村を。
 皆を守ることに尽力しましょう、と。タウラスはレイニと自分を勇気付ける。
「タウラス、あなたって本当に、主に依存しているのね。あなたにとって、村を安定させるのは、主の為なの? 主に認めてもらうためなの? ……私と一緒に行くのも、主に認めてもらうためなの? それだけじゃ、ないわよね。依存だけされることがどれだけ重荷になるかは、あなた自身が解っているはずだもの。依存だけしている人よりも、自分自身の意思と夢を持って歩んでいる人の方が輝いていて、好感が持てることも」
 だから……。
 タウラスを見た彼女の瞳は、どこかすがるようであった。
「あなたにとっては、主が一番で。何にも変えようがない絶対的存在であっても、それは構わないから。時がきたら、あなたを主の元に帰すと約束するから……だけど、もう一度言って。あなた自身が、主の為ではなく、私達と共にありたいと思っている、と。その言葉が一番、今の私に勇気をくれるから」
 レイニの瞳を受け止めて、真直ぐ見つめながら、タウラスは今の想いを口にした。
「村を安定させたら、自分はここを去るのだと思っていました。ですが、そう簡単に捨てることができないと、解ってきました。なにより……あなたが気がかりで。あなたと共にありたいと思っています」
 言った途端、タウラスの手にレイニの指が絡められた。
「……あなたの大切な人と、私の大切な子は、もしかしたら、一緒にいるのかもしれない。私達のように、支え合って一緒に生きているのかもしれない」
「はい。きっと……」
 開け放たれた裏口が見えた。
 雨が吹き込み、床が水浸しになっている。
 滑らないよう、気をつけながら。
 二人。
 同時に外へ出た。

 少し前。
 叩き付けるような雨の中。
 泥水で汚れた服も。
 纏わりつく金色の髪も気にすることなく、テセラ・ナ・ウィルトは、その場所に戻ってきていた。
「オント、族長……」
 変わり果てた自分達の指導者の名を呼ぶ。
 異形と化した身体。ぎらつく瞳には、吐き気さえ感じる。
 張り巡らされた柵が砕かれ、吹き飛ばされた家が無残な残骸と化している。
 異形の生物がこちらを、見る。
 にやり、と笑ったような気がした。そして、手を前へ……テセラの方へと向ける。
「……族長! どうして、こんな……分かってるんですか、自分が何をしているのか!?」
 テセラは叫んだ。
 彼の心を聞いたわけではない。
 彼をそれほど知っているわけではない。
 だけれど、アイリの顔が――。
 少しだけ心を聞いた、あの女性の言葉がテセラをそう思わせた。
 彼は、守りたいものがあったのだと。
 それが守れなかったことで、力を求めるようになったのだ、と。
「大切な人を守れなかったから、今度こそ全てを守る力が欲しいって気持ちは分からないでもないし、私だってもしかしたら同じことをしているかもしれない。でも! だからって守りたいと思っていたものを危険に晒して、本当にあなたはそれでいいの!?」
 エネルギー弾が飛ぶ。
 避ける間もなく、テセラを襲う。右腕に衝撃を受け、弾き飛ばされる。テセラの腕を掠めたエネルギーは、背後の家の一部を吹き飛ばした。
「族長っ!」
 身体を起こしながら、叫ぶ。
 声は、届かない。
 いや、彼の耳には届いているのだろう。
 だけれど、心に届かない。
「……邪魔だ……コレは不要。捕まえ、えろ……」
 彼の口から、単語が飛び出す、途端。仮面の人物が動き、テセラに迫る。
「アイリは……山の一族の人たちはこんなことをするためにあなたに協力したわけじゃない! あなたの大切だった人だって、あなたがこんなことをするのを望んでなんかないわっ!」
「うぅぅううぅ、力だ! 力が……要る! 全ては……それ……からだ!」
 オント……であったモノが身体を振るわせた。風が威力を増し、雨が散乱する。
「あっ!」
 逃げることもままならず、テセラの右腕がねじり上げられる。首に手が回され、ナイフが頬に当てられる。
「っ、あ、あなた達だってそうよ! もう生贄を必要とする儀式を行うのがイヤだったから、でもこの島を、世界を守りたかったから……だからオントに協力したんでしょ?」
 2人の仮面の男に引きづられながらも、テセラは必死に訴えた。
「ホントは分かってるんでしょう? 今の状況を引き起こしているのが誰なのか」
「分かって、いる。オントであり、自分達だ」
 仮面は、テセラに耳に語りかけた。
 聞いたことがある、声だ。
 まさか、と思いながら、テセラは首を捻って仮面を見る。
「隠す必要はもう、ないだろうな」
 男は、仮面を外す。その先にあった顔は……。見たことのある人物だった。山の一族ではない。確かに、自分達の……湖の部族の者だ。
「儀式や生贄に興味があったわけじゃない。オントを指導者として認め、彼に賛同し従っただけだ。だけど……あなたのことは殺したくない。これ以上何も言わず、大人しくしていてくれ」
 オントが黒幕であると耳にした時点から、覚悟はしていたけれど……。自分達の中にも、やはりいたのだ。
 湖の集落の人々を思い返す。あの、沢山の笑顔の中に……裏を持ち、光を求め、闇の中で生きていた人が。
「だけど……これ以上彼に従っていたってあなた達の望んだものはきっと手に入らない。わかるわよね? だから、お願い。彼を止めるのを手伝って」
「……ダメだ、後には引けない」
「それが無理なら、せめてもうこんなこと止めて……もう、誰も傷ついて欲しくないから……」
 切実な願いだった。身体の震えは、二人の男に伝わってしまっているだろう。傍にもう一人、仮面の姿がある。全部で3人。テセラの傍にいる。
 男達は沈黙する。
「殺せ」
 オントの枯れた声が響き渡る。……ゆっくりと、ナイフの切っ先がテセラの頬から、首筋へと下りる。
 ヴェイク!
 首飾りを握り締め、行方不明の恋人の名を、心の中で叫んだ。
「オント・ナ・ウスタ族長!」
 瞬間、凛とした声が響いた。
「お久しぶりです。本日はどういったご用件で?」
 強い瞳で睨むように、口元には少し笑いを含ませ、嘲笑するかのように、難民村の代表――レイニ・アルザラは、言った。
 隣には、タウラス・ルワールの姿がある。
「に、逃げて!」
 テセラは叫んだ。オントがまともな交渉ができる状態ではないことを、身をもって知っている。難民村の代表、それも要となっている人物が二人。ただで済むはずがない!
「セラ姉様!」
 それとは別の、子供の声。
 二人の後をついてきた少年が、テセラを見つけて駆け寄ろうとする。
「ルビイ君、来ないで! 私は大丈夫だから。この人達は私に危害を加えない。私達の仲間だから!」
 首に当てられたナイフがピクリと反応を示した。
 テセラはルビイを強く見据え、族長に見つかる前に、早く役場棟へ戻れと、眼で訴える。
「石だ……制御する石を……渡せぇ……!」
 レイニとタウラスの姿を見止めると、風雨を吹き飛ばしながら、オントが二人に迫りくる。
「装置は村で厳重に管理している物です、持ってくるよう指示しましたが、私や村に危害が加わるのなら砕くようにとも言ってあります!」
 タウラスが雨音にかき消されないよう、大声で言う。
 オントの足が二人の目前で止まる。
 引き攣った半身。うねる血管……正に異形。おぞましい姿だった。
 腹に力をいれ、タウラスは言う。
「ここで、お待ちいただけますか? ……お連れの皆様もです」
 オントの右手が伸びた。
 タウラスの襟首に。
「ぐ……っ」
 掴みあげられ、タウラスの身体が浮く。
「放しなさい!」
 右手に掴みかかるレイニを、刃物と化した左腕で殴り飛ばす。刃が腕を切り、血が滲んだ。意に介せず立ち上がり、レイニは再びオントと対峙する。きつく睨み据える。
「タウラスが言ったはずよ。危害を加えれば壊す、と」
「すぐに渡せ……でなければぁ、殺す。遅、れれば……もっとぉ、殺す……ぐふ、はは……っ」
 理性が、全くなくなっている。
「私も……力が、欲しいと思ったことは、幾度となくあります。……それは、いつも守りたいもののためにでした。あなたは……何を、守り、たいのですか?」
 タウラスが締め付けられる首に左手をかけながら、オントに問う。
 右手は腰の剣に伸ばす。
 そして、己の身さえ滅ぼす力では真に守れるものなどなにもないと、言葉を続ける。
 オントのぎらついた瞳には、もう一遍も愛情は含まれていなかった。
 タウラスの言葉に対しての答えは、簡潔だった。
「己、自身、だ」
 手に入れたいのは、永遠。
 今、彼が守りたいのは、自分自身。
 かつては守りたいものがあったのだろう。
 そして、未来。守りたいものが出来たとき。
 それを、守るべき力が欲しい。
 自分が欲しいものであるから。
 自分の為に。
 全ては自分の――。
「あ……ぐ……っ」
 タウラスを締め付ける力が増す。ねじりあげるように、襟首を引き上げる。
「止めなさい!」
 レイニがレイピアを握るタウラスの右手を掴む。そのまま切っ先をオントに向ける。
 剣がオントの腕に……それよりも早く、オントの左腕がレイニの首に下ろされる――。
「オント様ぁ!!」
 絶叫と共に、オントの右腕に衝撃が走る。
 タウラスが放たれ、刃はレイニの肩を掠めるに留まった。
「オント様、貴方の事はすごく尊敬して、感謝してます。貴方に助けてもらった命ですから、貴方に差し上げたっていいです!」
 ルビイが、オントの腕にぶら下がるように、しがみついていた。
「でも、聞かせて下さい。余所から流れ着いた僕たちと同じように、何故この人たちの事も優しく受け入れて下さらないんですか? 僕たちと同じ人間なのに、なぜ、そんなに怖がってるんですか!? 貴方が人を殺したら、周りの皆も、貴方も、傷ついてコワれるんです。そんなのイヤです悲しいです! もう見たくないんですっ!」
「邪魔、だ」
 オントが腕を激しく腕を振るう。しかし、ルビイは放さない。
「聞かせてください! 何故、貴方はこんなにも傷ついているのですか!?」
「石さえ……手に入れ、ば……力さぇあれば……何もかも自由にぃぃ……手に……入れる、壊れはぁ……しないぃ……」
「だからって! 壊さないために、壊してどうするんですか!! 自分の守りたいもののために、他人の守りたいものを壊していいはずがないじゃないですか! 貴方と同じように、苦しむ人がいるんです! 部族の皆も、こんなふうになった貴方を見ている、僕も!」
「邪魔だ、邪魔だ、邪魔ダぁ……!!」
 激しく腕を振るい、そして……。
 オントは、左腕を、ルビイに突き刺した。
「ルビイ君!!」
 気が狂ったように、テセラは自分を拘束する男たちを振り切ろうとする。しかし、男たちはテセラを放さない。
 オントが命じた為か……テセラの為か……。
 刃はルビイの左肩を貫いていた。雨に混ざった血が、滴り落ちてゆく。
 ルビイは手を放して、今度は自分を刺している左腕を掴んだ。
「こ、れで……腕、使えない……」
 痛み……そして、身体が急激に冷え、意識が朦朧とする。
 だけど、この手だけは、放せない。体中の力を込めてルビイはオントの異形と化した左腕を抱きしめる。
「オント様! 見つけました。人々はあの建物に身を潜めているようです。目的の物も、恐らくはあの場所に!」
 村に侵入していた仮面の男が声をあげる。指し示す先は、役場棟。
 咳き込み、伏せているタウラスの右手から、レイニが、レイピアを取る。
 右手に巻かれた白い包帯に、赤い染みがついている。自分のものではない……レイニの血だ。タウラスは、剣を取ったレイニの手を掴む。
「待ってください……もう少し、もう少しで準備が……」
 斬り込めば、確実に殺される。
「ふは……ふはあははああはあああっはははは……」
 報告を受けたオントは、狂った笑みを浮かべ奇声を上げた。ルビイを引きずりながら進み、開放された右手を役場棟に向ける。
 一閃。
 エネルギーが役場棟に放たれる!
「!!」
 レイニがオントに手を伸ばす。タウラスがレイニを掴んで止める。
 まるで雷のように。
 役場棟直前で光は周囲に飛び散った。
 魔力増幅装置の防衛が成功したのだろう。
「大丈夫です。皆を信じましょう」
「出せ、よこせ……ッ」
 オントが立て続けにエネルギー弾を打ち込むが、その全てが役場棟直前で弾き飛ぶ。
「でも、あれは……負担がっ!」
 レイニがいたたまれない眼で役場棟を見る。
「族長! そのようなことをすれば、外に出られなくなります。お目当ての物をお持ちできません!」
 タウラスは声を張り上げる。
 なんとか、こちらに意識をひきつけなければならない。役場棟に乗り込まれたら最後だ。
「うわっ」
 小さな悲鳴は別の場所で上がった。
 テセラを拘束していた腕が緩む。テセラは腕をくぐって、地に転がり抜けた。
「テセラさん!」
「あなたは……カレンさん?」
「大丈夫ですか?」
 湖の部族の男達は、目を押さえ蹲っている。カレン・ル・ジィネの呪術攻撃を受けたのだ。
「倒されたふりをしていて。もう、わかったでしょ!?」
 テセラは男達にそういうと、カレンと共に、軒下に身を寄せる。
「族長の目的は、魔力を制御する石のようです。ここにその石があるということなのですが……」
「そのようね。でも、ラルバ君の話では、その石は今は存在しないらしいの……」
「そうですか……」
 カレンは、その石を求めて族長を追ってきた。その石があれば、儀式にも役立てるのではないかと。
 そうしている間にも、エネルギーは次々に役場棟に浴びせられる。
「やめな、さいっ!」
 族長に石を投げつけようとしたレイニの腕が、突如掴まれた。
「シャオ……アルファード」
 腕を掴みあげたのは、シャオ・フェイテン。アルファード・セドリックの姿もある。
「状況を説明しろ」
 シャオが短く言う。
「儀式で力を……というのは、ご存知ですよね」
 シャオはタウラスと相談の上、儀式の調査を行っていた。経緯は知っているはずだ。タウラスは、掻い摘んで現在の状況と作戦を二人に説明をする。
「オント、様……」
 ルビイはオントを放さない。意識が飛びそうになるが、それでも、オントの腕にしがみつき続ける。
 既にルビイの存在を忘れているかのように、オントは狂った攻撃を続ける。
 薄れそうになる意識の中、ルビイの脳裏に断片的な記憶のコマが浮かび上がる。
 これは……誰?
 これは……兄?
 ダメだ。
 人を……傷つけては。
 人を……殺しては。
 ダメだ。
 ダメだ!
 守らなきゃ。
 守るんだ!
「オント様ぁぁぁぁ!! 悲しいのは嫌だ! 苦しいのは嫌だ! 誰も、誰も傷つけたらダメだ! 殺したらダメなんだーーー!!」
 ルビイは絶叫する。
 オントの動きが止まった。ルビイに眼を向ける。飛び出しそうな眼球がルビイを見下ろす。
「ルビイィ……ッ」
 攻撃が止まる一瞬を待っていたかのように、役場棟から、浮かび上がるものがあった。
 雨が勢いが弱まる。
 風も、穏やかになる。
 浮かび上がったのは、布と木で作られた小さな気球。
「制御装置はこっちだ!」
 鉱石の欠片を手に、声を張り上げながら、オリン・ギフトが飛び出す。
 オントが振り向いた瞬間に、オリンは鉱石を気球に投げ入れる。
「制御装置はあの中です!」
 タウラスが叫ぶ。
 オントの視線は気球に移った。
 オントがルビイを引きずり、気球を追う。気球は意図的に起された風に乗って、山の頂の方へと進む……しかし。
 オントは広範囲のエネルギー弾を気球に向けて放つ。
 エネルギーと、気球……の中の魔法鉱石が衝突し、爆発を起す。
 弾けとんだ石が、周囲に落ちる。
 石の欠片をあびながら、オントは笑った。
「力、力だ……くはははは、ふはははあははぁ!」
「っ……」
 アルファード、カレンは顔をしかめる。
 オントから感じるエネルギーは痛いほど体内の魔力に働きかける。そして、爆発で降り注がれるこのエネルギーもまた。触れると、痛みを感じる。
 しかし。
 その一つを。一際大きい欠片を、アルファードは取った。
「俺っちには……もう!」
 アルファードは、欠片を……飲み込んだ。
 途端。
 体中に激しい衝撃が……痛みが渦巻く。
 毛が逆立ち、何か熱いものが、身体の中から噴出す感覚を受ける。
 熱い。
 熱い。
 熱、い――。
「うおあああああああっ!」
 懐から糸を取り出し、オントに飛び掛る。同時にシャオも地を蹴る。
 オントは欠片をあびることに夢中で、アルファードの存在に気付かない。
 尋常ではない速度で、アルファードはオント周囲を回転し、糸をオントに縛りつける。アルファードの存在に気付いたオントは切断すべく、左腕を動かすが、そこにはルビイが。
「ルビイィィィイィ!」
「オント様!」
 ルビイに右手が向けられる。頭を飛ばされる……ルビイが目を強く閉じた瞬間、オントの右手が釣り上げられる。シャオのワイヤーだ。
「今だ!」
 男性の声が響いた。瞬間!
 オントの左手がボトリと落ちた。ルビイは地に投げ出される。
 いつの間にか、ラルバ・ケイジの姿があった。手にはやはり、糸が。指示を出していたのは、オリン・ギフト……。魔力を通す鋼糸を操り、オントの腕を根元から切断したのだ。
「ぐぎゃあああぁがぁぁあああ!!」
 痛みは感じるらしい。
 切断された付け根から、風のような波動が流れ出る。
「ルビイ君!!」
 テセラとカレンがルビイに駆け寄り、オントの左腕を抜き捨て、軒下へ連れていく。
 オリンが駆け寄り、止血を始める。カレンは地の力をルビイに注ぎ込む。
「お願い、助かって……っ」
「軽く止血はした。急所は外れている。しかし、かなり危ない状態だ。すぐに、役場棟の病室に運んでくれ」
 オリンは指示を出すと、レイニとタウラスの元へ駆け寄る。
「力……を……制御……ッ」
 ギラリと光る眼を、オントはタウラスに向ける。ゆらりと近付いてゆく。
 縛り付けていた糸ははじけ飛んでいた。
 腕から溢れ出たエネルギーが周囲に渦巻き、大気をも震撼させる。
「族長としての誇りを失い、化け物と化したお前を倒すッス!!」
 アルファードが、叫ぶ。銛をオントの足に突き刺す。
「ぐぎゃあああがあぁあぁぁーーー!」
 オントが身体を捻る。右手をアルファードに打ちつける。アルファードは弾かれなかった。
 全ての者が彼に近づけない状態であるに関わらず、アルファードは耐えることができた。
 鉱石を取り込んだ所為だ。
 身体の痛みは既にない。
 熱さだけ、残っている。
 あふれ出すエネルギーが体内にある。
 爆発させるように、一気に。
 炎の力を解放する。
 アルファードの身体を炎が包み込む。
「お前を道連れにするッス」
 全てを投げ出し、アルファードはオントに飛び掛った。
 魔力が乱舞し、周囲を破壊する。
 家が軋み、細い木は真っ二つに折れる。
「伏、せろっ!」
 オリンは、レイニとタウラスに体当たりをするように、地に伏せさせる。
 魔力抵抗のない人物に、この力は耐えられない――。
 オリンは二人を覆うように、身体を投げ出す。
「オ、ント……」
 その場に、自らの魔力で抵抗しながら、長身の男が現れる。
「カケイ……」
 シャオの口からその人物の名が漏れる。
 カケイ・ア・ロウン……ケセラ・ア・ロウンの息子。山の一族だ。
「うぎゃああああぁぁあヴぁーーーーー!!」
 オント、アルファード、どちらのものともいえない絶叫が木霊する。
 周囲の者は誰一人動けない。呼吸をするのさえ、ままならない魔力、風力だ。
 セイルは、カケイを支えながら、全面に立ち、瓦礫や魔力の衝撃をその身に受ける。
「セイル、お前の守るべき者は俺ではない」
 隣の大男……セイル・ラ・フォーリに言い、一方を指し示す。 
 その方向に、セイルは、風の中で蹲る3人を見つける。テセラ、カレンに抱かれた、今にも息を引き取りそうなルビイの姿を。集落の仲間達の姿を。
「ウガアアアア!」
 セイルは3人に駆け寄り、盾となる。
 瓦礫が、乱舞し、セイルの身体を打つ。
「行くウガ」
 3人を庇いながら、押して、役場棟の方へ少しずつ、少しずつ……。
「オン、トッ」
 カケイは一直線にオントを目指す。
 風を鋭くコントロールし、自分だけ通れる道を作り出す。
 炎が、オントの身体を焼く。
 しかし、豪雨が炎をかき消していく。内からも、オントからも、あふれ出す魔力にアルファードの身体は既に限界を超えていた。
 意識が飛び、身体が崩れ落ちた瞬間。這い出そうとしたオントの胸を……カケイの剣が貫いていた。
 アルファードの身体を蹴り飛ばし、カケイは詠唱を始める。
「断罪の時だ、お前も……俺も……!」
 呪術が発動する。オントの身体が弾け、裂け散る。血肉が散乱し、暴風が周囲に振りまく。
 一気に、魔力が膨れ上がる。
 オントの身体に残っていた全ての魔力が。
 カケイを襲い、周囲を包み込む。
 家々が崩れてゆく。
 鼓膜を破るほどの奇音。
 身体にぶつかるのが、何であるのかも判断できない。自分の身体がどういう状態にあるのかさえも。
 付近にいた人物の身体は浮かび上がり、村中が全て破壊され……る前に。
 力が――周囲を覆う。
 穏やかで優しい力が、降り注いだ。
 風が止み。
 雨が止まる。
 嘘のように、力が鎮まっていった。
 浮かび上がった瓦礫が、……身体が、ゆっくりと地に落ちる。
 地に投げ出された人々に、役棟から駆けつけた人々が寄っていく。
「増幅装置の、力ですか……」
 集まった人々に抱え上げられながら、タウラスは空を見上げ、周囲を見た。
 村の外は相変わらずの豪雨だった。
 シャオ・フェイティンが短刀を拾い上げる。
「行って、終わらせてください」
 タウラスの言葉に、シャオは頷く。
「俺っちも、行くッス……。伝えなければ、ならないことが、あるッス」
 切れ切れにいいながら、アルファードがシャオに続く。
 セイルが近寄り、今にも倒れそうなアルファードを支える。
「儀式を終わらせるウガ!」
 ルビイは既に役場棟に運び込まれたようだ。
「もう……大丈夫、ね……あとは……彼等が……」
 同じように、村人に抱えられていたレイニが、意識を失う。
「はい……」
 返事をした後、タウラスの意識も消え去った。

*        *        *

 数時間後には、太陽が顔を出し、春の暖かさが村を包んでいた。
 村の状況は酷いものだったが、暖かな日の光も、美しい虹も、小鳥の囀りも……全てが応援と、祝福をしてくれているようであった。
 村人達は動きだし、まずは自らの家の状況を確認する。
 自宅が倒壊した者は、暫らく学園の寮を利用することになった。役場棟は入院患者で満室である。
 重傷であるルビイを残し、先住民達は湖の集落へと帰っていった。見送りに出る者は多くはなかったが、彼等を恨む者はいなかった。
 人々は、レイニとタウラスの回復を待ちながら、自分達の成すべきことをする。

 そして、翌日。
 タウラス・ルワールにより、会議室に住民が集められた。
 タウラスは、皆に全てを語った。
 今までの交渉。先住民の族長、オントの裏をも。
 オント・ナ・ウスタ族長は、アルファードとカケイにより、倒され、その身体は魔力の暴走により砕け散り遺体は残らなかった。
 カケイ・ア・ロウンは、オントに止めを刺した際、魔力の波動を受け絶命した。
 仮面の人物は計11名であり、ほとんどが湖の部族の民であった。うち3名はテセラの説得に応じた為、拘束され湖の集落へ帰還した。残り8名中5名は絶命。3名は拘束し、独房にいれてある。
 集落の民、一人一人は決して悪い人々ではない。
 自分達も、怒りや嘆きで見失うものがあれば、第二のオントになる可能性を秘めている。
 そのように、人々に話して聞かせる。しかし……。
「村人じゃなくて、族長でしょ? 向うのトップでしょ? それって、あっちの村そのものの姿を表してるってことよ」
「私達は、そういう行為を許さない」
「そのように、制度を作っている」
「犯罪者全員が捕まったわけじゃないんでしょ? 洗い出しは、ちゃんとしたの!? 大体今、誰が指揮をとってるの? いい加減な体制じゃ、仮面の先導者が変わるだけで、また同じことが繰り返されるだけよ」
「誰もが、間違いを犯すことがある。だから、ルールが必要。私達はそのルールの中で生きている。話し合いで代表を決め、話し合いで村を作っている。だから、そういうことを大きくなる前に未然に防げるわ! だけど、彼等は統率ができていないから。また同じことをきっと繰り返す」
 村人達の心は頑なだった。
 良いことなのか、悪いことなのか……意見が一致している。
「彼等ひとりひとりが悪人じゃないっていのはわかるわ。だけれど、もう巻き込まれるのは沢山。深く関わりたくない」
 それが、全体の意思だった。
 『それならば、自分達の力で彼等を統率しよう』と扇動を始めたホラロを抑えることだけで、精一杯だった。
 タウラスや、橘・花梨、リィム・フェスタスといった先住民友好派が場を宥めつつ、話し合いを続けた結果。

 ・交易は今まで通りに続ける。
 ・ホームステイ、その他一般人の交流は当座行わない
 ・先住民の一般訪問は受け入れない。勝手に受け入れた村人は厳罰を受ける。
 ・先住民の集落への訪問は公務を除いて原則不可。許可なく行った者が、問題を起した場合は自己責任。

 そのように、決められる。
 今は、こちらより、湖の集落の方が大変な状態だろう。しばらくは、それも仕方がないのかもしれない。

 タウラスは、会議後、病院へと戻る。
 レイニはまだ、目を覚まさない。
 オリンの話によると、魔力抵抗力が殆どなく、体力的にも秀でていない彼女は、あの魔力の暴走で身体的に大きなダメージを受けたのだろう、という事だ。オリンが庇ったことにより、大事には至らなかったが……。
 一方、タウラスの方は、その直前に魔法薬を服用していたため、魔法抵抗力が一時的に上昇しており、ダメージが少なかったと思われる。
 また、レイニは、肩と腕に怪我をしており、それも原因の一つのようだ。怪我自体は大したことはないのだが、治療が遅れた為、ある程度出血をしており、それもまた体力を奪ったのだろう。
「しかし、ホントのところは違うのかもしれない」
 オリンはレイニの診察をしながら、タウラスに語った。傍らにはアリンの姿がある。本人の希望もあり、補佐をさせているらしい。
「肉体ではなく、精神的負担が原因かもな。……独り身には重い仕事だな」
 タウラスが毒に倒れてからずっと、レイニは一人で職務を行ってきた。側近はいるが、頼れることには限界がある。
 多くの要望や、苦情を受けながら……儀式への不安を抱えて。
 命を狙われながら、一人で過ごす夜は……どんなものだろう。
「タウラスさんも、こちらにいらしていたのですね」
 リィム・フェスタスがホラロ・エラリデンと共に現れた。
「体力回復薬が、一本余ってますので、レイニさんに差し上げようと思って来たのですけれど……まだ、目を覚まされないのですね」
「ふむ。それなら、私が飲ませて差し上げましょう〜。眠っている人に飲ませるといったら、やっぱりアレですよねぇ。口 移 し ♪」
 ホラロがリィムの手から小瓶を取り上げる。
「ちょ、ちょっとホラロさん、何考えてるんですかっ! 普通にスプーンとかで飲ませればいいじゃないですか」
「いやあ、レイニさんの子供も捨てがたいんですよねぇ。外見だけは可愛いんじゃないかと思いましてねぇ〜」
「それとこれが、どう関係するんですか! 口移ししたって、子供は出来ませんっ」
 ホラロの手から小瓶を奪い返すリィム。
 ……って。
 リィムの顔が青くなる。
 まーさーかーこの薬ってそういう薬だとか!? 飲んだら、子供が出来るとかっ!?
 疑っていたけど、疑っていたけど、疑っていたけど、タウラスさんが先に飲んで異変が起きなかったから、私も飲んだのにっ!!
 リィムは激しく動揺する。
 リィムは昨日応接室でタウラスが薬を飲んだ後、自分も1本服用したのだ。
「それじゃあ、リィムさん〜☆ 子供はどうしたら出来るんですかぁ? 以前から言っているように、リィムさんの子供が見たいんですよ、私はぁ〜」
 ああああ、完全にからかわれてる。完全にからかわれてる。からかって楽しんでるよ、この人。
 動揺するリィムを見て、ホラロが愉しんでいるのが分かった。
「それじゃ、リィムさん、研究室で詳しく教えてくださいー。魔法講義の対価として〜」
 ホラロがリィムの手を引く。
 リィムは引きつった笑いを浮かべながら、小瓶をタウラスに渡した。
「タウラスさんに差し上げます。日に1本連続3日までなら、飲んでも平気だって話ですので。ははははは……。私のことなら、心配には及びません。彼が変態なのは、いつものことですから、慣れました!
 ホラロに引きづられるように、リィムは病室から出て行く。
 二人の様子に微笑しながら、タウラスは手の中の小瓶を見た。
「オリンど……さん、ちょっと席を外していただけますか?」
 柔らかく微笑みながら、タウラスは続けた。
「ほら、『変な薬を飲ませた』と、顔が変わるくらい殴られる可能性がありますから。同罪にはなりたくないですよね?」
 オリンも微笑して頷くと、アリンをつれて、病室を出る。
 タウラスは、一旦小瓶をサイドテーブルに置くと、腰を屈めて、ベッドで眠り続けるレイニに手を伸ばした。
 ベッドに腰掛けて、レイニの上半身を起す。左手で彼女の左肩を抱き、右手に小瓶を取った。
 気丈な彼女が、自分の腕の中で何も言わず凭れていることが、少し可笑しかった。
 貴女なら、どう、村人に説明しましたか?
 この結果をどう思いますか?
 小瓶の蓋を開けて、左手でレイニの顎に触れ、口を開かせた。
「半分ずつにしましょうか」
 半分ずつに。
 重荷も。
 負担も。
 苦しみも。
 悲しみも。
 全て――。

 数日後、テセラ・ナ・ウィルトと、湖の集落の男性数名、更に山の一族のセゥと名乗る者が、遺体と仮面の一味を引き取りに現れた。
 レイニとタウラスが対応し、それ以前、湖の集落から帰還の際にも、タウラスが襲われたことをも話して聞かせる。実行犯にその場で犯行を吐かせた後、彼の身柄も引き渡す。
 また、セゥと名乗る人物は、オリン・ギフトが作成した似顔絵の人物に酷似していることから、事情を聞くと、祭具奪取の実行犯だということだった。オントに育てられ、善悪を知らず、彼の命令に従っていたということで、情状酌量になったらしい。本人の申出もあり、謝罪に訪れたということだ。すぐに、ラルバ・ケイジと、機関士夫婦に会わせる。
 ラルバと機関士自身は謝罪を受け入れ、今後島に尽くし、人として生きるという彼の言葉を信用した。
 機関士の妻は納得いかないようであったが、咄嗟のことで、故意ではなく殺害するつもりもなかったという説明と、セゥの自分に出来ることであれば、どんな償いでもするという低姿勢な態度に、セゥに対し暴言を吐くに止め過剰な賠償請求はしなかった。
 村としては、セゥ自身には保養所の修繕と清掃を賠償として要求した。
 湖の部族全体と、山の一族に関しては、代表が決まっておらず、犯人の処遇も何も決まっていない状態であることから、相談できる状態ではないと判断し、集落が落ち着き、代表が決定し次第、代表会談を開催するとだけ決定される。その決定さえも、実行に移されるかどうかはテセラや同行してきた者達次第なのだが。
 ルビイ・サ・フレスは相変わらず身動きが出来ないほどの重傷であったが、背負われての数時間の下山には耐えられると判断され、湖の集落へ帰還することになる。難民村の……オリン・ギフトの処置でなければ、彼は一命を取り留めることは出来なかっただろう。

「この村に関してだけ言えば、私は全てよかったと思ってる」
 回復したレイニは、執務室でタウラスとフレデリカに語った。
 学園問題。
 食料難。
 こちらの状況が黒幕の耳に入ったこと。
 制御装置の存在が知られたこと。
 タウラスが襲われたこと。
 族長が襲ってきたこと――。 
「全て、これでよかったと思ってる。だって、誰一人失っていない。今回のことを経て、皆の友情や結束が強まったのは事実でしょ。よかったことはあるのに、取り返しのつかないことが、何一つないから」
 先住民への感情が悪化したことも、これでいいのだと、レイニは言った。
「何も知らないで、表面だけ知って築かれた友好関係なんて長くは続かないわ。誰にも、考える権利はある。選ぶ権利はある。彼等がそういう生きかたをしているということを。これからもそういう問題が起こりうるってことを。そして、皆で付き合い方を考えていけばいいじゃない。
 そう言えるのも、誰一人失わなかったからよ。犠牲が出ていたら、オリンの言うような決して埋まらない溝が出来ていたと思う。完全に交流断絶していたでしょうね」
「交換ホームステイも、当分の間行えそうにありませんね……」
 フレデリカが残念そうに言った。始まったばかりなのに、と。
「そうね……。でも、もう少し落ち着いたら、私の口からも村のみんなに説明するわよ。私は、先住民の少年に命を救われたってね。族長と対峙した私達の前に、命懸けで飛び出し、私達とこの村と、族長をも守ろうとした男の子がいたって話を。彼はホームステイ立案者で、ホームステイが行われていたからこそ、彼もウィルトさんもここにいた。二人がいなければ、少なくても、私は今、ここにはいなかったわ。どこの住人だからなんて関係ない。彼という私達の恩人を、皆は、歓迎しないの? って」
 そして、いつものように、レイニは強気に瞳を翻して言った。
「そう。ここから、スタートよ」

 雪はすっかり姿を消した。
 暖かい春の陽射しが村を包み込んでいる。
 厚い上着を脱ぎ捨てて、皆作業に勤しんでいる。

「レイニ、ここは、どうすればいいかな?」
「タウラスさん、お身体の調子はもういいんですか?」
 村を歩いてかかる声が、要望や苦情より、相談や労わりの言葉が増えた。
 タウラスは微笑みながら、レイニは軽快に皆を激励しながら、二人揃って村を巡回する。
「もう少し落ち着いたら、海岸に視察に行こっか。島の周りには気球を着陸させる場所もないみたいだから。
 船を造るには海岸付近に造船所が必要でしょうし。まずは、埋め立てるか開拓して造船所を作る場所から作らないとね」
 埋め立てや開拓に適した場所を探し、港を作り、造船所を作り、それから船を造り……先の長い話だ。
「平行して、村を安定させていかなければなりませんね。次期村長となり得る方を育てることもしないと……」
「ああ、それなら平気よ」
 レイニがにこりと笑った。
「オリンがいるじゃない。次期村長は彼しかいないって思ってる。今回といい、彼の知恵と冷徹な判断力にはいつも感心させられてるの。魔法技術者であることや、医者であるからも、村人の状態から今までの状況も全て把握しているしね。村人からの信頼も培ってきたし。しかも、結婚するらしいじゃない。家庭を持って落ち着けば、この仕事十分やっていけると思うの」
 更に、先日オリンから、区画整理の提案がなされた。上下水道、舗装された道路等を基盤とする、斬新なアイディアは、目を見張るものがあり、正に村の未来を作り出す案であった。
 その第一弾として、タウラス邸の建築が成されるらしい。
「オリンさんですか……異存はありませんが、彼は手一杯のように思えますが」
「数年もすれば、イリーは医者として一人前になるでしょ。アリンもそれなりに成長しているはず。リリアが寮監を申し出、子供達の面倒を積極的に看出しているし、ゆくゆくは初等科の先生になると思うのよね。他にも子供達の面倒を見たいと申し出てくれる人は結構いるわ。中等科教師は自分の子供達が高等生になるのを期に、高等科に転任したいって希望が出てる。村の主治医と中等科はイリーに任せれば、ほら、オリンはフリーになる!」
 オリンが関わっていることといえば、もう一つ重要な職務がある。 
「魔法研究はどうするのですか?」
「リィムがいるじゃない。彼女がホラロの助手としてホラロを監視しながら、頑張ってくれるわよ〜」
 タウラスの問いに、いとも容易く答えていくレイニ。
「しかし、受けてくださるでしょうか?」
「拒否されたら、村長代理ってことで問答無用で押し付ける。仕方ないから、村長の肩書きぐらい背負って行くわよ、私」
 村長のサポートはフレデリカが積極的にしてくれるだろう。
 先住民との交易は、花梨に任せておけば、大丈夫。
 警備はラルバとシャオとフッツがいる。うち、1人は自分達と船に乗るだろう。
 基盤さえ、築いておけば、ここは大丈夫だと。
 3年を目処に。
 長くても5年以内には。
 旅立とうと、レイニは言った。
 広大な海へ出て、希望の欠片を捜すのだと。
 自分達の大切な宝を捜し……それから壮大な夢の実現に。
 風の魔力を調整する場所があるのなら、他の3属性の魔力の源となっている場所もあるのではないかと。
 儀式を経て、洪水の原因は水魔力噴出箇所での火の属性の暴走であると、ホラロは推論した。
 それならば、まずは、火の場所にたどり着き、安定させること。
 そして、全ての魔力の源となる場所で、儀式――調整を行えば、世界は再び調和を取り戻すだろうと。
 上昇した水が戻らなかったように、結果が出るのは数十年、数百年以上未来のことだろうけれど。
 それでも、やると。
 レイニは言い切った。
「少々強引ですが……それでは、オリンさんを推薦する方向で」
「ええ、そーゆー方向で体制を整えていきましょう」
 悪戯な笑みで笑い合うレイニとタウラス。
「そうだ、タウラス。海へ出る前に、誰かに師事して多少の知識は身につけておいてね。今のままじゃ、一緒に海に出ても完全に役立たずよ、あなた」
 確かに、タウラスには、航海の知識はない。操縦の技能もない。漁の知識もない。魔法の習練経験もないので、魔法で援護することもできない。
「だからといって、コックなんてとてもやらせられないし!
「そ、そんなに力を込めなくても……やりませんよ、ええ!」
 再び顔を合わせて、今度は思い切り、笑いあった。
「それじゃ、戻ろっか」
 そう言って微笑むレイニの顔を見ながら、タウラスは数日前の応接室を出る際の彼女の表情を思い出す。
 強張り、余裕のない顔……。
 同じように自分を見て、行こうかと言った彼女。
 同じ人物なのに、こうも違うものかと。
 今は、穏やかで、愛情と、希望溢れる顔――。
「タウ?」
 立ち止まった自分を不思議そうに見るレイニの傍らに、あの時のように、近付いて。
 肩を並べて、共に歩いた。


 風が運んできた白い塊が
 隣を歩く女性の柔らかな茶色の髪に絡まった
 手を伸ばして、髪の中から救い出す
 淡い桃色の、可愛らしい花びらだ
 見上げれば、純白だった山が
 様々な色を織成し
 力強く、優しく在った

 手を伸ばせば、きっと届く
 届かないのなら、追い求めよう
 無駄なことなど、なにもない

 今、こうして歩いていることが
 二人、共に笑っていることが
 その、ひとつひとつ全てが
 明日の自分を、作っていくのだから――

環境-------------------------------------------
[村周辺]
・東側は崖。体力20もしくは、魔力(風)20あれば、なんとか崖を登ることも可能と思われる。
・その他は深い森。
・南に細い川。河口に湖の集落。
・頂上付近に山の一族の集落。
・往復2時間くらいの滝付近に保養所。
・南東に果樹園。収穫終了。村の管理下。
[他]
・村から人の降りれる海までの最短ルート(普通の成人男女)→東側の崖沿いを北に進み下山していく。片道半日程度。
・湖の部族の集落から難民村まで(登り)は普通の先住民成人男性で4時間。難民成人男性で5時間程度の距離。崖(高さおよそ30メートル)や大岩の迂回が必要。
・難民村から社まで(登り)は、難民村成人男性で1時間程度の距離(道のない状態で)。

世帯内訳---------------------------------------
老夫婦:3組【6人】(アヤリ家)(果樹園担当夫婦家)
老夫婦と子1人:1組【3人】(マズカ家)
老夫婦と子2人:1組【4人】(シラン家)
老夫婦と女性と子1人:1組【4人】(船長家)
老男と女性:1組【2人】
夫婦と子:1組【3人】(機関士家)
老女と女性:1組【2人】(アリン家)
老女と子1人:4組【8人】
老女と女性と子1人:1組【3人】(ピスカ家)
女性と子1人:12組【24人】(イリー家)(シエリ家)
女性と子2人:3組【9人】(中等科教師家)
女性2人と子2人:1組【4人】(ユズ家)
男性と子:2組【4人】(ラルバ家)(フッツ家)
単身老男:1人
単身老女:4人
単身男性:7人(ホラロ、オリン、レザン、シャオ、タウラス、アルファード、セルジオ)
単身女性:6人(レイニ、リィム、花梨、フレデリカ、リリア)
寮生:12人【単身2人(シオン、バリ)】

計50世帯、寮生12人

老夫婦=夫婦共に60歳以上
老男、老女=60歳以上男女
男性、女性=15歳以上男女
子=15歳未満の子供

公務担当者-------------------------------------
[役場]
レイニ・アルザラ(村長、総統括、議長)
タウラス・ルワール(村長補佐)
フレデリカ・ステイシー(村長秘書)
ラルバ・ケイジ(護衛)
フッツ(警邏)
ピスカ(調査・広報)
他(ボランティア)

[外交]
タウラス・ルワール(責任者)
フレデリカ・ステイシー

[交易]
橘・花梨(代表)
レザン(運搬・作成)
シラン(運搬・護衛)
マズカ(事務)
シエリ(仕入・販売)
バリ(研修中)

[病院]
オリン・ギフト(医師)
イリー(助手・研究生)
アリン(研修中)
他(ボランティア)

[学園]
オリン・ギフト(高等科教師)
イリー(初等科世話係)
リリア・アデレイト(寮監、庶務)
他教師1名(中等科担当)、世話係1名

[栽培ハウス]
リィム・フェスタス(責任者)
ホラロ・エラリデン(補佐)
他(ボランティア)

[警備隊]
ラルバ・ケイジ(総指揮)
シャオ・フェイティン(特務、精鋭部隊指揮)
フッツ(隊長)
ルルナ・ケイジ(見習い)


[果樹園]
老夫婦
セルジオ・ラーゲルレーヴ

[大工(含む土木、林産等)]
船長(総指揮)
機関士(現場指揮)
他専任6名、ボランティア多数

[飲食]
ユズ(店主)
ミコナ・ケイジ(家事手伝い)
カヨ(家事手伝い)
他1名(調理師)

[魔法研究所]
ホラロ・エラリデン(所長)
オリン・ギフト

[都市開発推進部]
オリン・ギフト
(ミコナ・ケイジ)

民間事業(団体数)-----------------------------
畜産(2)
農産、酒造(1)
水産(1)
服飾(2)
工芸(2)
雑貨(1)
自由業(多)

住民状況---------------------------------------
住民の協調A
住民同士の信頼B
住民達の結束B
先住民への感情E
村長(及び補佐)への信頼、信用A

※NPC紹介
【レイニ・アルザラ】
33歳。一人暮らし。航海士。村長。
竹を割ったような性格。率先派。
外見イメージ:藤原紀香を強気にしたような。
身長:171cm 体重:58kg
髪:茶色ショート 瞳:茶色

諸問題の他、村に名前がないことや、出産率の低下を気にしているらしい。
彼女自身、再婚を検討していた時期があったとか。
初婚は17歳。娘は洪水時14歳。

【ラルバ・ケイジ】
23歳。未婚。役場棟で妹と二人暮し。警備隊総指揮。村長護衛。元騎士。
温厚。熱血漢なところもある。
外見イメージ:23歳時の新庄剛志を多少柔らかくした雰囲気。
身長:184cm 体重:79kg
髪:茶色ショート 瞳:茶色

タウラス・ルワールにより、警備隊総指揮の座を譲られる。
指揮は向いていないと一度は断るのだが、押し付けられる。……説得や、押しに弱い。
結婚相手は妹達を送り出してから、と考えているが、強引に迫られれば案外あっさり結婚してしまうのかも。

【ミコナ・ケイジ】
16歳。未婚。魔法学生だった(技術を選考)。食堂の手伝いをしている。
何事にも一生懸命。お人良しなところがある。
外見イメージ:上戸彩を優し気に、気弱にしたような。
身長:158cm 体重:48kg
髪:茶色セミロング 瞳:茶色

相変わらずユズおばさんにこき使われている日々。
オリン・ギフトから、散水塔の管理人をやらないかとの誘いを受ける。自身がなく、消極的だが、やってみたいとは思っている。
まずは、ユズさんの元から自立をすることを目標に頑張っている最中。

【ルルナ・ケイジ】
10歳。兄と2人暮らし。
甘えん坊。バランス良く、それなりに優秀。
外見イメージ:12歳頃の安達祐美。
身長:145cm 体重:36kg
髪:朱色ロング 瞳:茶色

兄の元、護身術や剣術の修行に励む日々。
警備隊への仮入隊を志願するが、年齢的理由で不採用。しかし、暇な時は兄に付き纏い付き纏い、強引に見習いの資格を勝ち得る。
将来は兄に代わり、総指揮になることが目標。
恋愛にはまだ興味なし。異性では、お兄ちゃんが一番最高に大好き。

【ホラロ・エラリデン】
37歳。既婚(妻子は洪水の犠牲に)。一人暮らし。魔法学者。
ペドフィル。気まぐれ。

魔法具の製造は魔法鉱石を入手するまではお預け。怪しい?魔法薬の研究に勤しんでいるらしい。
島を自分達が支配すべきという考えの持ち主だが、現在の生活にほぼ不満がないため、比較的大人しくしている。
扇動を始めても、人望がないので、彼単独であれば、大した脅威にはならないかと。
結婚相手募集中! 可愛い子限定。無論、リィム・フェスタスが第一候補。

【フッツ】
20歳。未婚。妹と二人暮し。船員。風魔法使い。老け顔。
冷静沈着。しかし、心は熱い。大人びており、妙に冷めているところもある。

20歳になりたてなのだが、30近くに見られるらしい。
恋愛は奥手。自分より少し年下で、明るくて優しい子が好きだとか。

【ピスカ】
22歳。未婚。祖母と弟と三人暮らし。記者。
明るい。行動的。好奇心旺盛。

天然系の女性。レイニに依存しているところがある。
強くてカッコイイ男性が好き。見つければ難民、原住民問わず、突撃している。

【バリ】
13歳。寮生。一人暮らし(友人を泊めることが多い)。高等科学級委員。商売研修中。
明るく、勉強も運動も出来る。人望もある。

橘・花梨を姉と慕っている。研修はかなり楽しいらしい。
初恋もまだ。尊敬している人は、レイニ、オリン。特に好きな人は花梨、シオン。気になる女の子はリリア。嫌いな子は相変わらず、ルルナ。

【アリン】
15歳。祖母と二人暮し。病院勤務(研修中)。
繊細。大切な人に尽くすタイプ。

結婚を控え、家では花嫁修業に励んでいる。

【イリー】
21歳。未婚。妹と二人暮し。医療補助。看護学生だった。普段は初等科の子供の世話をしている。
優しい。世話焼き。

かなり忙しく、一生懸命働いている女性。

【ユズ】
42歳。既婚(夫は洪水の犠牲に。子2)。食堂経営。

悪人ではないが、非常にがめつい女性。難敵。
レイニ曰く「口論で負けるつもりはないが、敵に回すと面倒な人」
稼ぎの良い男性と再婚を検討している。物色中。

【カヨ】
10歳。ユズおばさんの子供。ミコナに懐いている。

食堂の手伝いをしている。ルルナに意地悪なことを言ったのは、ミコナに傍にいてほしかったから。母は愛してくれるけれど、厳しい。優しいミコナに、本当の姉になってほしいと心から思っている。
彼女の存在がミコナが食堂を後に出来ない理由の一つ。

【船長】
61歳。既婚(妻1、子1、孫1)。大工仕事を指揮している。
明朗。お茶目。年齢問わず、女性にとても優しい。無類の女好き。

一夫多妻制を訴えては、却下されている。
なんだかんだいっても、難民村のムードメーカー。

【アリンの祖母】
73歳。既婚(夫、息子夫婦は洪水の犠牲に。孫1)。
服飾の仕事で生計を立てている。

孫からオリン・ギフトと結婚をするという報告を受け、大感激。……しかし寂く思っている。
邪魔にはなりたくないので、一人暮らしを検討中。

※マスターより
こんにちは、川岸です。
今回の難民リアは2分割です。
まずは皆様、お疲れ様でした。
アトラ・ハシスにご参加、ありがとうございます。
一生懸命取り組んでくださった方こそ、疲れたのではないかと思います。熱意のこもったアクション、本当にありがとうございます。

さて、慌しい最終回になってしまったこともあり、後ほどその後を少し書かせていただきたいと思っていますー。
まだ、シナリオ紹介のあるイベントシナリオにするか、単純に皆様にその後行動をお聞きし、その後シナリオを書くか、それとも投稿コーナーにするのかと、検討中です。
ただ、難民側に関しては、シナリオ有りのイベントをやる必要があるのかどうか迷うところでして。
だって、最大のイベントがあるじゃないですか!
ほら、オリンさんとアリンちゃんの結婚という!(笑)
レイニも、「村で始めての結婚式だもの、村を挙げて盛大にやるわよっ!」って言っています。
追ってご連絡いたしますので、もう少しお付き合いいただける方は、是非、よろしくお願いいたします。
少なくとも、投稿は募集いたしますので、イラスト(サイズ指定なし。常識の範囲内の容量で)やプラリア、PCの想いやその後行動など、思い描きながらお待ちいただければ幸いです。

原住民側と、難民側は、別のマスターがそれぞれにシナリオを考え、それぞれの目的と結末を持つ、別の話でした。
しかし、2人で運営するのにそれでは寂しいという思いから、リンクをするようにシナリオを多少絡めたのですが……。
皆様のアクションの結果、予想外に双方のシナリオが絡み合い、最終回近くでは、鈴鹿マスターとかなり密な相談をして進めて参りました。
最初から、最後までお付き合いいただけた皆様。
ゲーム半ばから参加してくださった皆様。
私のほにゃらら(伏せっ)な発言に、散々耐えてくださった鈴鹿マスター。
本当にありがとうございました!