アトラ・ハシス

第一回リアクション

『緩歩』

川岸満里亜

 港の朝は早く、目を覚ませば街は賑わっていた。
 潮の香りが好きだった。
 晴れた日の海の青さも。
 曇り空を映した灰色の顔も。
 雨に踊る水面も。

 毎日が当たり前の繰り返し。
 それがとても平和だった。
 それがとても美しかった。
 幸せな毎日だった。

*        *        *

 難民達がこの地で生活を始めて、数ヶ月が過ぎていた。
 かつて、皆で造り上げた集合住宅は、子供達が通う学園の寮と、公務に携わる人物のみが住まう場所となり、他の大人や、保護者の存在する子供達は一戸建てに移り住んでいった。
 集合住宅は2棟連なっており、1棟が学園、及び子供達を含む学園関係者の住居。ゆったりとした造りのもう1棟が、役場、病院として機能している。

 ルルナ・ケイジは一人、教室に向かった。
 高等生としての生活が始まって数日。ルルナは学園には馴染めなかった。
 勉強は嫌いではない。知識欲がある方ではないが、普通の大人と同じだけの教養が欲しい。
 学園という場所が、勉強をするだけの場所だったらよかったのに……。
「おはよ〜」
 声に、思わず振り向いてしまう。自分の後ろから放たれた声は、自分の前の人物にかけられていた。
「おはよー、アリンちゃん、宿題やってきた?」
「ううん。これからやるっ!」
「私も〜」
 笑いながら教室に入っていく、同級生達。
 最初の頃は、ルルナも「おはよう」と皆に声をかけていた。しかし、最初はぱらぱらと返ってきていた返事も、今では全く返ってこない。……集団で無視されているのだ。
 原因は分っている。
「おっす!」
 ドアを開けるなり、カバンを放り投げた男子、バリ君。明るくて、運動神経抜群の彼に、なぜかルルナは嫌われている。男子の中でのリーダー格であるバリ君が嫌いなルルナは、男子全員の敵。男子に沿う女子達はルルナをいないものとして扱い、集団無視をすることに決めたらしい。
 ルルナは一人、席についた。周りの生徒達は皆楽しそうに会話している。
 話しかけても女子には無視され、男子には中傷されることはわかっている。一人、家族のことを考えていた。
 お父さん、お母さん、ルルナ、頑張ってるよ。
 お兄ちゃん、何処にいるの……会いたい、よ。
 周りに人が沢山いるのに、寂しくて仕方が無い……。
 でも、ルルナは涙を零さなかった。
 部屋でも、泣かなかった。……姉が帰るまでは。
 そうして、夜になると一人、枕を抱えて泣いていた。嗚咽が漏れないように、布団を被って泣いていた。
「授業なんて、知っている事ばっかでつまんねぇよ」
 隣に座った薄い茶色の髪をした男の子がそう呟いた。『お前の顔を見ると、もっとつまらなくなる』『何か面白いことやれよ』そんな言葉が自分に浴びせられるだろうと、ルルナは身構えた。
「そんなんより大切なものってさ、他にあるんじゃねぇの? おれは今そんな事よかこの島のが興味あるんだよなー。色々探索してっと面白いぜ? お前も行くか?」
 予期せぬ問いかけに、ルルナは周囲を見回す。
 ここは、窓際の部屋の隅。自分しかいない。この男の子は自分に話しかけているのだ。
 私のこと? と、自分を指差してみせると、男の子はうんうんとうなずく。
「い、いくっ」
「じゃ、いこーぜ」
 男の子……シオン・ポウロウニアが、ルルナの手を引いて、窓を開けた。
 シオンはたまにしか教室に顔を出さず、ルルナが置かれている状況など知りはしない。 
 ルルナに声をかけたのは、彼女がつまらなそうにしていたからだ。自分と同じように、彼女も学園をつまらない場所と感じているのだろうと、そう感覚的に感じたからだった。
 外へ出た瞬間、ルルナはぎこちない笑いを見せた。
 シオンに連れられて森へと入り、ぎこちない笑いは満面の笑みへと変化する。ルルナは久しぶりに素直に感情を表していた。

*        *        *

 難民全員分の席が用意されている会議室は、珍しく大半の席が埋っていた。先住民の存在の知らせに、多くの住民が集まったのだ。
 探索に行ったメンバーの中から、代表格と思われる女性、レイニ・アルザラが前に出た。
「では、今回の探索の結果を報告するわ」
 まずは島の状態。気候。周辺環境について軽く話される。
 続いて、行方不明者ラルバ・ケイジについて、未だ見つからないということ。
 そして、先住民についてだ。
「村の南を少し下ったところにある川だけど、この川の河口付近に、人の集落と思える場所あったわ」
 彼女達が見た人々は、粗末な家に住み、布を巻きつけただけの衣服を纏い、狩で生活しているようであったという事。
「まるで、原始人ね」
「言葉は通じるのかしら? むしろ、言葉って概念はあるの?」
「規模はどれくらい? 私達より少ない?」
「どんな暮らしをしているのかしら? 衛生面が気になるわ」
 次々に質問が投げかけられる。
「大体500世帯ってところかしら。声は聞こえなかったけど、会話しているところは見かけたわ。独断での接触はやめた方がいいと思って、一旦戻ってきたから、詳しいことは分らない。襲われたら一溜りもないしね。さて、どうしようかしらねぇ。とりあえず、後に攻めれたりしないためにも、挨拶に行った方がいいとは思うんだけど」
「そうですね」
 数少ない成人男性の一人、タウラス・ルワールが立ち上がった。
「先住民が存在するということは、島は確かに人が生きていける土地だと証明されたことになります。それに、例え文化が遅れていようとも、彼らはこの島で暮らしてきた人々です。彼らから冬を越す知恵を借りることができれば、とてもありがたい」
 周囲の女性達が一斉にうなずく。
 タウラス自身は意識していないが、常に彼の側には女性がいる。彼は島にたどりついた男性の中で数少ない若い男性だ。結婚を望む女性にとって、物腰の優しい彼は、是非ともゲットしたい男性bPだ。
「私もそう思います!」
 こちらは、リィム・フェスタスという女性。左右の瞳の色が違うのが印象的だ。
「私達以外の人というのは、「元々住んでいた人」「私達のような難民で、先に到着した人」「私達の後に住んだ人」の何れかになると思います。何れにしろ、今の状況を考えると、出来うる限り協力できる存在とは協力しあって生きていくことが大切だと私は思います。ですので、彼らとの接触を試み、友好的な関係を築くべきです」
「正論ね。確かにそれはその通りなんでしょうけど」
 探索隊を率いていたレイニはあまり良い顔をしない。
 他の難民達からも次々に意見があがる。
「協力は賛成よ。でも、私達は私達でありたいわ。向うに取り込まれて向うの仕来りに従うのは嫌よ」
「狩で生活しているっていうけれど、冬は動植物が減るわよね。この島に彼らと私達が冬を越せるだけの食料があるのかしら?」
「迂闊に接触して、攻められはしないか? 向うの方が人数多いんだろ?」
「……私達の感覚で考えるならば」
 レイニが皆の不安をまとめる。
「彼らが原住民であるなら、私達は彼らの領土に勝手に入り込み、不法占拠をし、彼らの財産である食料や材木を無断で消費していることになるわね。また、食料や材木はそのままでは限りある資源だと私達は認識しているけれど、彼らはどうかしら? 自然の中で動物のように暮らしているのだとしたら、深くは考えてないと思うんだけど。管理や開拓について話したとして、彼らは受け入れるかしら? 自然を壊すな、と言い出しそうな気がするわ。この木や石で作られた村自体が彼らにとって異常な状態だと思うんだけど。
 果たして、自分達が守ってきた地が他民族に勝手に荒らされたとしたら。自分達の食料が奪われていたとしたら。そして、自分達が飢える危険性を冒してまで、他の民族に援助ができるか……考え出したらキリがないわ」
「確かに……」
 黙って聞いていたタウラスが再び意見を言う。
「しかし、だからといえ、接触をせずにこのまま暮らすことは不可能でしょう。いずれ、お互いの存在は明らかになります。
 彼らにとって、私達難民は異端な存在のはず。まずは彼らのルールを把握して禁忌を犯さないように注意すべきです。異なる文化への理解を試みるのは大切なことです。知らぬ間に禁を犯していたなら謝罪もすべきでしょう。神聖な、踏み入るべきでない場所もあるかもしれませんし。……私も交渉に向かいます」
「そうね、あなたも一緒に行ってくれれば助かるわ。人当たり良さそうだし。とりあえず、お互いの存在を知り合うための、挨拶レベルの接触から始めましょうか」
「争いごと、もめごとを起こさないように努めることは、当然の事として、ですね」
 リィムが付け加え、原住民との接触方針が決まる。
「では、食料について提案させていただきます」
 続いてリィムが食糧生産についての提案を始める。
 彼女の提案は以下だ。

1)ハウス栽培案 
・大工に長けている船乗りの力を借り、建造
・地の魔法の力で、生命力を上昇させ、収穫までの時間短縮を目指す

2)干し肉案
・水の魔法の力で、肉を乾かし、効率化。

3)家畜案
・探索隊が飼育できそうな動物を捕縛。

「良い案じゃない? やってみれば?」
「大工仕事だけど、私の家の暖炉を造ってもらうのが先よ」
「あ、私は小船を頼んでるところ」
「私だって、家の柵をお願いしてるわ」
 リィムの意見に対しては賛成多数なのだが、どうにもまとまりがない。
 実にこういう状態が数ヶ月続き、村の発展は滞っている。冬支度も各々進めてはいるが、村全体で取り組んでいることはほぼ無いといっていい。
「そうやって備えられる人はいいわ。でも、他の仕事に携わっていたために、冬支度ができていない人はどうするの? 自分のことで精一杯で、人に援助する余裕なんてないのではないの?」
「だから、村の仕事に従事している人物については、皆から税金を集め賃金として支払うって決めたじゃないの」
「決めたのはいいけど、誰がどれくらい払うの? 全員が負担するのなら払ってもいいけど、会議に出席している人だけ払わされるとかは勘弁してよね」
「団結が必要なのよ。皆がバラバラに動いていたら、何も進まないじゃない」
 言うのは簡単だ。うなずく人も多い。
 だから……?
 その通りだからとはいえ、結束した行動が取れるのだろうか。
 全てにおいて、公務に携わる人物が決まっていないため、殆どが実行されずにいる。携わりたい人物が勝手に携わっているだけ。
 食料が不足すれば、犯罪も起きるだろう。
 秩序を保つために、警備隊も必要なのではないか。そんな意見も出る。
 個々、自らの生活の為に動きはする。村の為に意見を出すこともある。しかし、その意見を取りまとめ、人々を指揮する者がいない。
「あのさぁ。探索から戻って、村の様子を見て回ったんだけど、皆ちょっと勝手すぎない? 自分の生活が大切だっていうのは分るけど、なんか、効率が悪いというか……」
 探索隊を率いていたレイニが不満を口にした。
「村長が決まらないからだろ。共同作業が必要なのは皆解ってはいるんだけどな」
「てか、レイニがやればいいじゃない。あなたなら、賛成よ」
 一人の女性の発言に、拍手が起こり、途端に会議場が拍手で包まれる。
「あー……ちょっと待ってよ。ガラじゃないって」
「航海士として、この島まで船を導いたし、島についてからは、この場所まで皆を率いた。そして、率先して探索隊を作り、探索に出た行動力。カリスマも十分だもの、他に立候補もいないし、あなたしかいないでしょ」
「ん〜……やっぱ、村長は御免。でもまあ、宰相なら少しの間やってもいい、かな」
 意外な言葉に皆一様に驚く。
「村と呼ぶのはやめたいの。私達は、一つの主義思想を持った団体として、ここで協力して生きていくのよ。ここを国とし、国王統治による国家を築きたい……というのが、私の理想。それにみんなが付いてきてくれるのなら、宰相ならやってもいいわ。国王は……そうね、原住民との交渉や国の繁栄、私達の身体と生活を守るために、一番功績を収めた者を初代国王とすべきよ。また、国王は元首として最終決議権は持つけれど、実際の政治は、国民投票で選出された議員や、国民議会で行うのが良いんじゃない?」
 難民達がざわめく。大抵は国の傘の下で生きてきた者達だ。その思想はレイニに近い。
 しかし、自分達に国家など築けるのだろうか。その必要もあるのかどうかが疑問だ。
「とりあえず、しばらく仕切らせてもらうわ。私を宰相にするかどうかは、次の会議で投票ってことで。ええっと、リィムの食料生産案だったわね」
「あ、はい」
 リィムが再び説明をする。
「……ハウス栽培は良案だと思う。皆も異論ないわよね? リィム自身が地の魔法に長けているようだから、すぐにでも実行に移してちょうだい。
 船長! 栽培用ハウスを最優先にしてあげて」
 女性をはべらせている船長がうなずく。
「干し肉案は……原住民との交渉を優先にするから、探索に出れる集団がいないんじゃないかしら。当てがあるなら、個人的に頼んでみるといいわ。水魔法は、ユズさんところの、ミコナが堪能だったわよね」
「ミコナはダメよ。食堂の仕事で忙しいの。子供達の食事もうちが担当してるんだし」
 レイニの言葉に、即座にユズおばさんが反応した。ミコナ・ケイジは、ユズおばさんの家で、食堂の手伝いをしているらしい。
「んー、ミコナの人物は知らないけれど……住民の属性なんかも一度リストアップしておく必要があるわねぇ。
 家畜案も同じ理由でなかなか難しいわね。でも、街を見回ったカンジでは、既に畜産を行っている人がそれなりにいたし、これ以上は現在の敷地的にも無理なんじゃないかしら」
 リィムはまずは、共有食製造保管管理責任者として、栽培ハウス運営に勤しむことになった。 
「他に何かある?」
 レイニの言葉に、バッと立ち上がったのは、マール・ティアウォーターだった。その濃紺の瞳は明らかに敵意が篭っている。
「学園についてだけど」
「……どうぞ。なにかしら」
「親が残っていない兄弟のみの家族の場合でも、15歳以上だからと兄弟をバラバラにしてしまう。保護者がいるのに、14歳以下という事で親や兄弟と引き離してしまう。一見、親がいない子供には生活する基盤が出来ていい様に見えるけど、本当に子供の事を考えてるならば、きちんとした里親制度とかを設けたらいいのに。子供のみで生活したい場合は、村の中心となっている大人が必要な部分のみ手を貸す方が子供のためだと思う」
 マールは年齢的に学園に入らねばならない歳なのだが、大人に反発して、一人村はずれでテント暮らしをしている。何かと大人に噛み付いてくる彼女に、大人たちも手を焼いていた。
「えーと、マールだっけ? まず、15歳以上だからと兄弟をバラバラにするって話だけど、一緒に住めるのなら住んでもらって構わないのよ。15歳以上の子に、保護者としての能力と、経済力があればね」
 一緒に住めなくなった兄弟といえば、ミコナ・ケイジとルルナ・ケイジ姉妹だが。この二人であっても、姉のミコナにルルナを養うだけの力があれば、2人で暮らすことも可能なのだ。ミコナの能力では一人で暮らすこともさえも危うく、仕方なしにミコナは遠い親戚であるユズおばさんとおばさんの子供達と同居をしている。また、ユズおばさんの実子の姉弟は寮に入らず、実家から学園に通っている。
「里親制度は、設けるもなにも。現時点で引き取れる子供は皆引き取っていると思うけれど。誰もが殆どの財産を失ったわ。生活に余裕がある人なんていないの。皆で協力できることを協力して、寮の子供達を護る為の援助をしているのよ。子供のみの生活に関しては……問題外ね。検討するに値しないわ」
「なっ……大人は……そうやっていつも勝手に決めるのよ。自分達が楽な方が良いのよね、泣くのは全部子供なんだわ」
 マールが涙目でレイニを睨みつける。
「いい加減にしなさい。あなたの言っていることは、子供の我が侭。まず、大人が子供の為に生きているわけじゃないって知りなさい」
 腕を組んで、レイニはマールを真直ぐ見つめた。
「子供を守り育てるのは私達の責務。勝手や我がままを許さないことも、躾けることも私達の責務よ。勝手に決め付けるというけれど、子供の教育は、決めつけと押し付けなのよ。大人はあなたに服を着ることを教えたわ。言葉を教えたわ。そんな当たり前の事も全て自分達が良かれと思って作り上げた風習の押し付け。あなたは動物のように裸でいたかったの? 言葉を知りたくなかったの? あなたに自分達との生き方を教えたのは、共に暮らしてきた大人よ。それは、教えた方が良いという決め付けに他ならない。
 ここでも同じ。ここにいる大人達が、自分達の住みよい未来を、必死に模索しているのよ。子供達は未来を任せる大切な希望だもの。一番に考えてるに決まってるじゃない。村の運営体制も定まらないうちに、子供達の住処と学園の運営だけは一致して進めることが出来たのは何故だと思うの?」
 マールは目に涙をためながら、唇を噛んでいる。
「そんなの……詭弁よ。だって大人は……っ」
「はい。他に何かある?」
 マールから目を離し、レイニは難民達に呼びかける。
「あ、あの……魔法の才能のある人達は、習練を進めた方がいいと思います。大陸の生活とは違い、不自由なここでの生活を少しでも良くするために」
 リィムからの提案であった。
 魔法の習練は独学では難しい。専門の学校に通い、習うのが普通であったが、ここには当然そのような施設はない。
「魔法なら、学園の授業に取り入れている」
 彼は学園で教師として働いているオリン・ギフトだ。タウラスと違い、一見クールなイメージのあるオリンだが、やはり女性の支持が高く、人気bQだ。
「必要なら、一般人のコースも設ければいいだろう」
「そうね……でも、あなたには無理でしょ。授業後は、医者としての仕事があるものね」
 オリンは医者としても、活躍している。むしろ、医者として皆に重宝されている身だ。何分、この村に彼以外の医者は存在しないのだから。手伝いに現れる女性達の中から、大陸で看護学校に通っていたという女性に補助をさせてはいるが、病気が流行れば手が回らないこともある。
「まあ、適任者が現れたなら、一般コースも設けるということで。早期希望者は、生徒達と一緒に受けることも可能ということでいいんじゃないかしら」
 リィムは頷いて、腰を下ろす。
「先程話に出たが、住民のリストアップが必要だろう。疫病や感染症はこのような小さな集団では、致命的に為りかねない。皆、健康診断を受け、カルテを作成しておくべきだろう」
 オリンの話に、レイニは頷く。
「健康管理は大切だわ。薬も簡単には入手できないでしょうし。では、住民登録をかねて、全員健康診断を受けることにしましょう。これは全員必ず受けてもらうわ。住民として登録することで、住民達で助け合う体制を作るの。税金を決め、公的機関の運営、弱者を守る制度の確立その他諸々ね」
 特に反対意見は出ず、住民登録、健康診断が決定される。
「さて、他にはないかしら?」
 他の意見は出ず、締めようとした矢先、橘花梨が、おずおずと発言する。
「あのー。こういう場では発言しにくい事や、意見を言うのが苦手な人もおるんちゃう? 匿名の目安箱ってどうですやろ……」
「目安箱の設置ね。分ったわ。この棟のロビーにおいておくわ。
 それじゃ、以上ということで。次の会議は交渉団が戻った時にやりましょう。私はここの運営に従事しなきゃならないから、交渉はタウラス、あなたに任せるわ」
「え、あ、はい」
「サポート、道案内として、フッツとピスカ、一緒に行って」
「わ、私も一緒に行く!」
 マール・ティアウォーターが、タウラスの袖を引っ張った。
 そういえば、寮に入っているシオン・ポウロウニアも、先住民を見たいと言っていたことを思い出す。
「大人ばかりで交渉に赴いて物物しく見られないでしょうか……子供達の同行があれば緩衝材になってもらえそうです。無理に連れて行くわけにもいきませんから、彼女のように、交渉団に興味のある人材が居れば、ですけれど」
「却下」
 それに対するレイニの反応は手厳しかった。
「険しい山道の往復に子供を連れていけると思ってんの? ここには、人道なんてないのよ? 世話をする人員も割けないわ。大体、子供が大人しくしていると思ってるわけ? 先住民と上手くやれるかどうかに、私達全員の命運がかかっているのよ、タウラス。あなたは約100人の命を背負って行くも同然。もっと自覚を持ってちょうだい」
 現段階では、成長期を終え、精神的にも大人と認められる者だけ、同行を許されることになった。

*        *        *

 懐かしい潮の香りがほのかに感じられる場所に、マール・ティアウォーターの暮らすテントはあった。
 崖上の、細い木の脇だ。
 不用意に崖に近づかないよう設置された柵のギリギリ内側に、彼女のテントは在る。
「なによ、あのおばさん。子供のことを何も考えてくれない」
 悔しい思いを抱えながら、マールは帰宅し、支度を整えて外へ出た。
 冷たい風に、身体を震わせながら、大人の目を盗み、柵を越え崖へと近づく。
 ……こんな島にも冬なんて来るのかな? 冬って……木の実とか農作物とか取れないのよね。寮に入らず生活するのは大変だけど、ここは寒い時期に向けてきちんと用意をして、大人に子供でもちゃんと出来る事を見せ付けてやらなきゃ。
 彼女の考えは年相応であった。まだ14年しか生きていないマールには、自分が住み育った街以外の知識は乏しい。
 難民達の多くが暮らしていた港町は、比較的暖かな場所であった。今、マールが感じている寒さは、港町の真冬に等しいことを、彼女の身体は感じていたが、感覚的にマールには、育った街以外の冬のイメージがなかった。
 崖下の海に意識を集中させる。特技である、水魔法で海水を浮上させ、魚を捕ろうというのだ。
「えいっ」
 テント程の水が浮かび上がる。その中に、大きな影を見て、マールは魚の捕獲に成功したのだと、一瞬喜んだ……しかし。
「あ……嫌っ!!」
 水が弾けとび、影が落下する。
「や……いやあっ!」
 取り乱したマールは、足を、滑らせ転倒する。
 その影は……人の腐りかけた遺体であった。大量の水を飲み込み、膨張した体。見開かれた目を。引きちぎられた体を、マールは見てしまった。
 激しい吐き気に襲われる。起き上がろうとした途端、地盤が崩れ、足が宙に浮く。
「マール!」
 滑り落ちそうになった身体が突如、引き上げられた。
「危なかったッス」
 そこには、見知った顔があった。アルファード・セドリック。よく釣りに来る人物だ。
「ああっ」
 マールは恐ろしさのあまり、アルフォードにしがみついたのだが、次の瞬間には突き放した。
「魚が……人の……こっち見て……身体が……」
 震える声で言った言葉。自分でも何を喋っているのか分らない。
「……遺体を釣り上げたッスね。……大丈夫ッス」
 アルフォードはマールを撫でてあげようとするのだが、マールは頑なに拒んで。一人震え続けた。
「大丈夫ッス。大丈夫ッスよ、マール」
 体力に自信のあるアルフォードは、時折崖を下り、釣りをしているのだが……崖下は、流れ着いてくる遺体の数に、目を覆いたくなる惨状だった。
 怯えるマールを労わりながら、アルフォードは呟いた。
「海釣りはもうしばらく控えた方がよさそうッス……」
 そして、探索隊に聞いた河口の湖に思いを馳せるのだった。

 マールをテントへと送り届けた後、アルフォードは一旦自宅に戻り、探索の支度をすると、森へ出た。
 落ち葉の絨毯の上を、慎重に歩き、食べれそうな果実を探す。
「熟しすぎッス」
 赤い木の実は柔らかく、手で触れただけで、潰れてしまった。この付近の収穫時期はもう、終わっているのだ。
 山を下りながら、声を上げてみる。探索に出たまま帰らない男性がいるのだと聞いていた。逸れて既に数週間。食料となるものが見つからねば、既に餓死しているだろうが……。
 木々に印をつけがなら、慎重に慎重に進む。
 森は深く、方向が全く分からなくなる。人が通ったことのない、樹海だ。同じような木が周囲に生い茂っているだけで、道といえるようなものは、当然ない。下っているつもりが、いつのまにか登っている。
 気付けば、今つけたはずの印の隣に、自分がつけたものと思われる印がある。
「単独行動は危険ッス」
 冷や汗の出る思いで、アルフォードは印に触れる。今日はもう戻ろう。
 惑わされることなく、今つけた記しから順にたどっていく。
 太陽の光が僅かに零れ落ちている。
 本日の収穫は、熟れ過ぎた柿……のようなもの。林檎。山菜少々。ただし、キノコは知識がないので避けた。
 日が落ちた頃、ようやく自宅へ戻ったアルフォードは、開いて塩漬け塩抜きをし干しておいた魚を取り込む。
 そうして、木材を手に、燻製作りを開始する。
「材料がいまいちだったッス。味が少し心配ッス」
 果物はドライフルーツにする予定だ。
 果実に山菜、干物、燻製と、アルフォードの自宅は食料で溢れていた。
 
「冷たーーーーーーぁぁぁぁ!!」
 アルフォードが燻製を作っている頃、橘花梨は海へ下りていた。彼女にはアルフォードのような崖を下るほどの技量も体力もないため、不要品を売り払って準備を整え、テントを背負って下山した。地図を元に停泊した船まで行くのが目的だったのだが、難民達は長い間島を放浪していたこともあり、正確な船の場所はわからなかった。船には使えそうなものが、まだまだ残っていそうなのだが、花梨一人ではたとえ辿りついたとて、運べるものは少ないだろう。
 砂浜は全て水中に沈んでしまったため、岩場から足を海へ下ろしたのだが……その冷たさは半端じゃなかった。
「まるで、氷水やわ〜」
 少しでも多くの食材を手にしたかったのだが、夜間の作業はやめた方がいいようだ。
「ううっ〜寒っ」
 天幕に戻り、魔法で火を点ける。
 単独で自分達が歩いた形跡しかない山を下るため、台車や簡易風呂セットはもって来れなかったことが非常に残念だ。
 火に当たりながら、花梨は眠りにつく。
「どうしたら、無人販売できるやろか……」
 頭の中は商売の事でいっぱいだった。

 早朝。花梨は行動を開始する。
 まずは、塩を採取。生活に欠かせない品だ。
 しかし、難民達で海に下りる人物は少ない。
 誰もが恐れているのだ。水を。
 誰もが、目を背けたいのだ。
「くっ……」
 場所を選んだつもりだが、やはりここにも人の遺体が流れてきていた。
「この島に住んでいた人達も沢山亡くなったんやろか……」
 花梨は場所を変えながら数日間採取に勤しみ、塩、海草、山菜を持てるだけ持ち、集落へ戻った。
 塩や海藻は、干して売り物にする。
 海藻は海をイメージするのだろうか、売れ行きはよくなかった。
 代わりに塩は瞬く間に完売した。
 交換で手に入れた野菜や食肉を手に花梨は意気揚々と帰宅するのだった。

*        *        *

 住居として使っていた部屋を教室にしたため、高等クラスは多少窮屈であった。
 オリン・ギフトは14人の生徒達を前に講義を行っていた。彼が教えているのは、読み書き、算術、文明の歴史及び魔法だ。彼のほかに学園の教師は1人。子供達の世話係が2人。村の状況を考えると、これでも集まった方だろう。オリンは主に高等科を担当することになった。
「大陸でエネルギー源として使われていたのは、『石炭』だ。各家庭の暖房や都会の汽車にまで広く使われていたことは、皆も知っているな」
「知ってるー。鍛冶とかにも使ってたんだぜ」
「はいはーい! 焼き物を焼くのにも使っていましたー」
「ここでは手に入らないんですか? 薪を沢山用意するの大変ですし」
「……入らんことはないが、薪のように簡単にはいかないからな」
 一概に大陸といっても、地域や国によって、政治、経済、文化等大きな違いがあった。
 石炭がエネルギーとして主に使われていたのは事実だが、先進国では、他の物質をエネルギーとして利用する技術や、魔力をエネルギーに変える技術の研究も進められていた。ただそれらの多くは軍事に用いられる国家機密に当たるため、一般的には知られていなかった。
「せんせー」
 手を挙げたのは、学級委員のバリ君だ。煩わしい程元気で、人望もある彼を学級委員と決めたのはオリンだ。
「なんだ?」
「シオン君とルルナさんがいませーん。今日もサボリでーす」
 気付いていなかったわけではないが……。シオン・ポウロウニアは当初からあまり顔を出さず、問題視していたのだが、最近ではルルナ・ケイジも一緒にサボるようになった。
「ずるいでーす。ボクも遊びにいきたいでーす」
 わざとらしく言うバリ君。
「私も、お家の仕事手伝いたいなー。先生、今日の授業終りにしよーよ」
「賛成!」
「そうしよ〜」
「ボクたちだけ勉強しなきゃいけない理由なんてないと思いまーす。ボクは、シオン君やルルナさんより勉強できるしぃー」
「そうだ、そうだ、俺達だけ、勉強したり、紙作ったりするのって、不公平だ〜!」
 子供達が騒ぎ出す。
 オリンは生徒達に紙作りをも教えている。その他、学園に必要なものを見極め、その調達に子供達を手伝わせている。子供達にも何かさせることで、物作りの楽しさや、社会の役に立つ事を教えようとしているのだ。それは、事実村の役に立ち、収入も得られている。学園の収益とされたそのお金は、子供達へと還元されているわけだ。
 故に、子供達の言い分は尤もなのだ。
「セキムを果たさない者が、益だけ受けていいのですか〜」
「俺、授業より狩りがしたいな。勉強なんて出来なくたっていいし」
「私は、お菓子屋さんになりたい。お菓子作りだけ勉強したいな」
 オリンはため息をつきつつ、言う。
「気持ちは分かるが、ここでは大陸で義務教育とされていた最低限の勉学以下の事しか教えていない。この程度の勉強はしておかねば、後々困ることになる」
「どう困るんですか〜? この島には何にもないのに。仕事も体を動かすことばかりだし」
「……例えば、先ほど話に出た石炭。これが何処にあり、どのように入手でき、どう使うのか。知っているか、知らないかで、お前等の生活や、ここの未来は全く違うものになるだろ? さ、授業を続ける」
 依然、不満を口にしている子供もいるが、授業を進めるオリン。将来的には薬草学や医学の初歩も教えていきたいのだが、この調子では当分先になりそうだ。
(シオン・ポウロウニアにルルナ・ケイジか……どうしたものか……)

 その頃、シオンとルルナは村を探索して得た収穫物を手に、村はずれのマール・ティアウォーターのテントにやってきていた。
「でね、シオンがふわっと飛んでね、木の実採ったんだー。はい、これマールにお土産☆」
 ルルナから手渡された林檎をマールは嬉しそうに受け取った。
「ありがとう。なかなか、材料が手にはいらなくて……」
 子供でもきちんと生きていけるということを証明しようと、マールは頑張っていたのだが、現実はそう甘くなかった。魚を引き上げることは、あの日以来出来ずにいる。森へ入ろうとしても、大抵大人に止められる。掻い潜ったとしても、舗装されていない木々が生い茂った山中を探索することなど、マールにはできなかった。少し歩けば、帰り道が分からなくる状態だ。何度か遭難しかけ、長い緑なす黒髪の男性に助けられたこともある。
 シオン・ポウロウニアも同じように止められることはあったが、彼はマールよりずっと体力があり、風魔法に秀でていた。シオンには、大人の目を盗んでは、村を囲った柵をふわりと飛び越え、大人が取り損ねた高所の果物を取ることなど、造作もなかった。森へ入る時には十分に準備を整えていたし、浮かぶのは、およそ十メートルが限界であったが、それでもあまり深く入り込んでいなければ、周囲を確認し目印や村の場所を見つけることは難しくなかった。
「寮に沢山持ち込むと大人達がうるせーから、全部やるよ」
 シオンは採って来た果実や山菜を全てマールに渡した。少々熟れ過ぎだが、ジャムやシロップ付けを作るのには問題がないようだ。
「ありがとう」
 このように、シオン達から受け取る彼らの収穫品がマールの生計をなんとか支えている状況だった。保存食を作ることは作るのだが、今食べるものもない。仕方なく、食べてしまうと、冬越せるだけの食料がなくなってしまう……。
(ジャムを作ったらすぐ売りにいかないと、毛布が手に入らないかな。明日の食事はどうしよう。寮に入れば食事は配給されるんだろうけど……それは大人に頼ることになるからダメ)
「お嬢ちゃん、美味しそうなモノを持ってるね〜」
「あっ」
 突如、止める間もなく、見知らぬ男の手がマールの林檎を取り上げ、髭に埋もれた口に運ぶ。
「それ、私の林檎!」
 マールは手を伸ばすが、男は一気に平らげてしまった。
「酷い。せっかくシオンとルルナが採って来てくれたのに……っ」
「怒らない怒らない、可愛い顔が台無しだよ〜ん?」
 頭を撫でる手が非常に不快だった。
「触らないでよーっ!!」
 バケツに入れてあった水が男を襲うはずだった……しかし、魔法が発動しない!?
「ん〜、ちょっとお嬢ちゃんは熟れ過ぎかなー。こっちの女の子二人は食べごろだねぇ」
 にたにた笑いながらシオンとルルナを見る男。
「来るな、変態! 俺は男だ!」
 女の子のような愛らしい顔立ちと、小柄な身体。髪を1本三つ編みにしていることもあり、シオンはよく女の子と間違えられる。
「……なんだヤロウか。それじゃまあ、おじさんお暇するから、この集落で一番えらい人の居場所教えてくれるかい?」
「あ、ああ、っち! あっちの手前の建物だからね。後ろじゃないからね!!」
 シオンの背に隠れていたルルナが、役場として使われている建物を指す。
「手前ね、了解〜。またね、お嬢ちゃん達☆」
「またねじゃないっ! こ、子供から食べ物奪っておいて、恥ずかしくないの!? でも、アンタなんかから、食べ物貰いたくないもん。いーーーーっだもんっ!」
 口を指で横にぐいっと広げるマール。
「何よ、気持ち悪い……」
 あの見定めるように自分を見る、卑下な男の目はマールがも最も嫌悪しているものだ。
「気持ち悪い人だったねー。髭もじゃで、ゴリラみたいなおじさんだったよー」
 ルルナの手がシオンを掴んでいる。怖かったらしい。
「男なんて……大人なんてみんなそう……。大嫌い。シオンもルルナも、大人を信用しちゃダメよ」
 マールの言葉に、うんうんと頷く二人。しかし、ルルナはすぐに首をかしげた。
「あのおじさんはヘンな人だったけど、ルルナは大人信じてるよー」
「え?」
「あのね、お姉ちゃんが言ってたの……。ルルナ達は、生き残ったから、数十年生きる希望があるんだけど、ルルナ達より、10年多く生きた男の人が、ルルナ達を守って、沢山死んじゃったんだって。たった、10年多く生きていたからって理由で、男だからって理由でルルナ達を優先にしてくれて、そして、ルルナ達だけ、何十年も生きる希望があるなんて、不公平じゃないかって。
 だから、いつも感謝していなさいって。お父さんがいなくて、お母さんがいなくて、とっても寂しいけれど。今ルルナ達が生きているのは、お父さんとお母さんと、沢山の大人たちのお陰だから。辛いことは沢山あるけれど、ちゃんと我慢して、一生懸命生きて、助けてくれた人たちに感謝して、ルルナは幸せだよ、楽しいよ、助けてくれてありがとう。みんなが生まれて生きて、ルルナ達を救ってくれたことは、意味のあることだったんだよって。そういうふうに、ずっとずっと感謝して伝え続けて頑張っていかなきゃいけないって。お姉ちゃんが言ってたの。
 ……だから、ルルナは大人を信じてるし、大好きだよ。アノ人は変態だけどね!」
 そう言ったルルナの目には涙が浮かんでいた。
「あ、夕焼け〜。そろそろ帰ろ、シオン」
「お、おお。じゃあな、マール。戸締り気をつけろよ」
「あ、うん……」
 テント生活のマールは戸締をしてもしなくても変わりない状態なのだが……。
 シオン達を見送った後、テントに戻り荷物を降ろす。
 大人は嫌い。男性は嫌い。
 だけど、マールだって全ての大人が嫌いだったわけじゃない。
 自分を愛してくれた、母の姿が、頭を過ぎる。
 寒い……。寒いよ……。
 声に出さず、独り呟いた……。

*        *        *

 村外れ……森の中にその男の住処はあった。
 シャオ・フェイティンは他の難民達とは違う。
 彼が船に乗っていたのは、洪水から逃れる為ではなく、他のモノから逃れる為であった。助かったのはまさに偶然。
「連中とは……あまり、関わりたくはないのだが」
 難民達とは距離を置き、必要外村に入ることはない彼であったが……本格的な寒さを前に、自ら狩った動物の肉や薪を手に村に出た。
 村で物々交換をし、自らの根城に戻る途中のことであった。
「うわあっ、ぐぁ……」
 耳に届いた微かな悲鳴に、シャオの血が反応した。高揚感が体を支配し、声の方へ足を導く。
 そこには、呻きながら、胸から血を流す壮年の男の姿と、血のついた大振りの短剣を手に携えた者の姿あった。見たこともない服装。明らかに、「村」の人間ではない。背格好からして、男性と思われる。
 シャオに気付き、ゆらり、と身体の向きを変え、視線を合わせる。
 刹那。
 地を蹴り、男がシャオに迫る。咄嗟にシャオは常備しているワイヤーで男の短剣の軌道を逸らす。同時に膝を男の鳩尾に叩き込む。
「が……っ」
 男は、血を吐いて崩れ落ちた。
 倒れた男に目をやる。地を蹴り、自分に飛び掛って来た男の瞬発力は凄まじく、打ち込みの軌道を変えるので精一杯であった。しかし、この呆気なさはなんだ。
 その理由はすぐに判った。
「吐血は俺の蹴りのせいではない……か」 
 男は既に、かなりの重傷を負っていたのだ。先に倒れていた壮年の男性がつけた傷とは思いがたい無数の深い切り傷があるようだ。
「このまま放置しておけば……死ぬ、な」
 先に倒れていた難民の壮年の男の息を確かめる。こちらも重傷だが、今はまだ、息がある。
 治療具は持ち合わせていない。
 村に知らせれば、事情を深く聞かれるだろう。犯人扱いを受ける可能性も否めない。
 放置すれば、二人共死ぬ。
 自らの根城に連れ込んでも自分の知識で助けられる可能性は低い。
 どうする……?

*        *        *

 栽培ハウスはようやく形が出来てきた。
 リィム・フェスタスはレイニの指示で手伝いに現れた人々と共に、作業を始める。
 掘り返された土を掴んでみる。
「良い土ですね。でも……」
 石と木で作られたハウスは、光の射し込みが少ない。室内を暖める為には、どうしても全体を覆う必要がある。
「どうすればいいかしら……。何を栽培するかも決めないと」
 子供達や、自分で食料を得る力のない人達の為に、頑張らねばならない。
「あ……雪……」
 リィムは外へ出て、空を見上げた。
 ふわりと、白く美しい結晶が空を舞っていた。
「まだ、冬の初めなのに……」
 こんなに早くから雪が降るなんて……。
 リィムは冷えた両手を組んだ。
 冷たい風が、綺麗な結晶と共に踊り狂っていた。

村外周辺環境
・東側は崖。崖の下の海に時折遺体が漂着する。
・その他は深い森。船を泊めた場所さえも、今は分からない。
・南に細い川。河口に原住民の住処。
・南東に果樹園。収穫終了。村の管理下。

住民状況
【生活】現在の衣食住安定度です。
【食料】食料の備蓄値です。
【住居】住居の状態です。
【お金】所持金です。
【収入】今月の収入見込み値です。
【貢献】今月の街への貢献度です。
※A←多C少→E

●未成年---------------------------------------
「0〜4歳」
男7名
女5名
 
「5〜9歳」
男9名
女8名

「10〜14歳」
男6名
【バリくん】
12歳。寮生。学級委員。

【シオン・ポウロウニア】
13歳。寮生。
生活B 食料C 住居B お金D 収入D 貢献E

女10名
【ルルナ・ケイジ】
10歳。寮生。
生活B 食料C 住居B お金D 収入D 貢献E
知識11 体力12 信頼5 魔力12
属性火

【アリンちゃん】
14歳。

【マール・ティアウォーター】
14歳。
生活E 食料E 住居E お金E 収入E 貢献E

「15〜19歳」
男3名
【アルファード・セドリック】
17歳。漁師。
生活B 食料A 住居C お金C 収入C 貢献D
・流通に多少貢献しました。

【フッツ】
19歳。船員。風魔法使い。交渉団メンバー。
知識7 体力3 信頼6 魔力24
属性風

女4名
【ミコナ・ケイジ】
16歳。魔法学生だった。
生活B 食料B 住居B お金E 収入E 貢献D
・ユズおばさん経営の食堂の手伝いをしています。
知識7 体力3 信頼8 魔力22
属性水

【橘・花梨】
18歳。商人。
生活B 食料C 住居C お金B 収入B 貢献C
・流通に貢献しました。

【リィム・フェスタス】<共有食料製造保管管理責任者>
19歳。
生活C 食料C 住居C お金C 収入C 貢献B
・共有食料製造に携わりました。

【その他寮生】
生活B 食料C 住居B お金D 収入D 貢献D
・共有食の栽培がはじまりました(リィム)。
・紙製造を行っています(オリン)。
・住居の補強が実施されました(タウラス)。

●成年-----------------------------------------
「20代」
男3名
【タウラス・ルワール】<原住民交渉責任者><暫定宰相補佐>
23歳。
生活B 食料C 住居B お金C 収入C 貢献A
・原住民との接触を図りました。

【オリン・ギフト】
29歳。教師。医者。
生活B 食料C 住居B お金C 収入C 貢献A
・子供達の教育に携わりました。
・カルテを作りました。

女5名
【イリー】
20歳。医療補助。看護学生だった。普段は初等科の子供の世話をしている。
知識15 体力5 信頼8 魔力12
属性地

【ピスカ】
22歳。交渉団メンバー。記者。
知識17 体力10 信頼8 魔力5
属性火

「30代」
男0名

女6名
【レイニ・アルザラ】
33歳。航海士。暫定宰相。
生活B 食料C 住居B お金C 収入C 貢献A
知識10 体力9 信頼20 魔力1
属性風
・村長に推薦され、仕切りました。

「40代」
男1名
【船員】
43歳。機関士。大工仕事に携わっている。

女4名
【ユズおばさん】
42歳。食堂経営。

「50代」
男0名
女6名

「60代以上」
男8名
【船長】
61歳。大工仕事を指揮している。

女16名

●未登録---------------------------------------
男3名
【ラルバ・ケイジ】
23歳。行方不明。

【シャオ・フェイティン】
27歳。
生活C 食料C 住居C お金C 収入D 貢献E

【謎のゴリラ男】
30代後半くらい。

☆タウラス・ルワールさん
交渉補助に、NPCフッツとピスカがつきました。サブアクションで指示を出せます。

☆オリン・ギフトさん
医療補助に、NPCイリーが通っています。サブアクションで指示を出せます。

RAリスト(及び条件)
・b2-01:原住民と交渉(20歳以上。信頼15以上)
・b2-02:交渉団についていく(身体、精神的に大人と認められる者)
・b2-03:学園で行動
・b2-04:探索に行く(準備をしていかないと、遭難します)
・b2-05:商売をする
・b2-06:村造りに携わる
・b2-07:会議で発言
・b2-08:怪しい人物に関わる
☆信任について
20歳以上の住民は、サブアクションにて、国家を築き、レイニ・アルザラを宰相とするか、否かをお書き下さい。否の場合は、その理由と体制案、村の指揮者を推薦(もしくは立候補)してください。
15歳〜19歳の住民も投票できます。棄権することも可能です。
15歳以下の子供には投票権はありません。意見を出すことは可能です。


※マスターより
こんにちは、川岸満里亜です。久しぶりにリアクションを書きましたー!
アトラ・ハシスにご参加ありがとうございます。
ご参加くださった方の中には、初めましての方も、マスター川岸としてお世話になった方も、友人としてお世話になっている方もいます。
お世話になった方がまた参加してくださるのはとても嬉しいです。大切にしたいです。
初めてお世話になる方には、目をかけて惹き付けたいという強い気持ちがあります。

ですから、この先、マスターに特別目をかけられているのではないか、他PCが贔屓をされている。自分は嫌われている。
そう感じることがあったのなら、それは違い、ます!
参加してくださった皆様、個々全員に目をかけたいのです、私は。
相性が合う合わないは必ず出てしまいますし、描写に対して不満に思われる方もいるかもしれません。
まず、PCとPLの思いが伝わっているか否かで描写は変わってきます。一人の心を持った人間について書くのと、一体の行動を行うロボットについて書くのでは、描写が違ってしまうからです。
PC描写を大切にされる方は、こちらも皆様のPCをもっと知りたいと思っていますので、拘りがある部分や、PCの性格、思いをサブアクションやマスターへのメッセージでお教えください〜。

行動の成否につきましては、成功させるのが書き手の仕事ではないことは、皆様ご理解いただいていると思います。
状況的にマズイ行動をされた場合には、厳しい結果が返ってくることも多々あると思いますが、それに関して、PL間で抗争になったりしないよう、ご注意下さい。
……最近、リアでの対立が原因の酷いPL抗争を見たばかりなので、少々恐れています。^^; ネット交流はそのつもりがなくても、他者を貶めるような発言が簡単に広まってしまったりします。
リアクションの感想を公開webページに書く場合にも、他の方を気遣いながら、楽しい交流を心がけてください。

さて、リアクションの方ですが。 問題を色々抱えていますので、サブアクションを上手く使って、展開を導いていってください。メインアクションはダブル、トリプルアクションにならないよう、お気をつけください〜。
来月は冬です。リアクションや、ワールドガイドにかかれた気候を参考に、この島……高地である難民居住地の冬を想像してみてください。
原住民側のリアクションもご確認くださいね!

また、リアクションでPLが知っている情報をPCが全て知っているわけではありません。知りえない情報を知っているとしてアクションをかけた場合は、その情報をPCが知れる立場にあるかどうか等の判断をさせていただきます。PC同士での情報交換の場合は、「双方」のアクション、もしくはサブアクションにその旨の明記があった場合に、情報を流したと判断いたします。
それでは、来月もよろしくお願いいたします〜。