アトラ・ハシス

後日談

『架け橋』

鈴鹿高丸

 暖かな風が吹きはじめていた。
 春の訪れは、暖かく、穏やかに。
 嵐の如く過ぎ去った冬の季節は、緩やかに流れる春へと変わり。
 日常が、訪れようとしていた。

*        *        *

 その日の集落は、どことなく浮ついた雰囲気が漂っていた。
 元々集落の朝は早い。
 それでも今日は。
 普段はゆっくりと寝ている者でも、早朝から起きだしてなんとなく散歩していたり、明らかに様子を異にしていた。
 だがそれも、仕方のないこと。
 今日は、集落にとって、いや――島全体にとって、おそらくはじめての――族長選挙が行われるのだった。
 みんなの投票で族長を決めよう――もはや最初にそう言ったのが誰かは分からない。しかしそれは、たいした反対もなく受け入れられていった。族長は必要としていたのだ。それでも、自分から族長をしたいと名乗り出る者はいない。ならば皆に族長になってほしいと望まれている人間がなるのが筋であるし、それならば当人も断ることもできないだろう。住民の多くはそう思っていた。
 立候補者を募るわけではない。対象は、湖の集落に住む者全て。湖の部族である必要もないとされた。そして投票を行うのも、住民全て。老若男女を問わず、文字が書ければ投票の参加資格ありとされた。もちろん投票を行わないのも自由である。
 とはいっても、選挙当日となった今日。
 投票場となる、元族長の家跡地――一部の住民に焼き討ちされた後は広場のようになっていたその場所には、次々と人が集まってきていた。相当な投票数になることが想定された。
 その広場には、たくさんの小石が準備されていた。この石にそれぞれ望む者の名前を書き、箱に入れていくことになっている。箱は広場に東屋のようなものが作られ、そこに準備されていた。
 それらは、誰が誰に投票したのか分かっては後に禍根を残す、しかし同じ者が複数回投票しないようにしなければならないという、実際に選挙をすることになった時点で上げられた問題点を解決するためのものだった。
 準備は慌しく行われ期間も短く、選挙活動などという概念もないため、事前に何かしら働きかけを行ったのはラトイくらいだった。彼は自らの味方になりそうな立場の人間に多少なりとも根回しなどをしたらしい。
 ただ、それ以外は普段とは代わりない日常があっという間に過ぎて――。
 そして。
 陽が昇ると同時に、投票は始まる。
 集まった人たちは順に東屋の中を通っていく。
 だが広場からは人の減る気配はない。
 これから投票する者、また投票を終わった者も広場に残り、いったい誰に投票したのか、また大勢は誰に傾いているのか――そんな話題に興じているのだった。
 今後の集落を担う者が選ばれるのだ。気になるのは仕方が無い――ということももちろんあった。しかしそれだけではなく、祭りにも似た、イベント特有の一種の高揚感があったのも確かだ。もちろん、騒ぎ立てたりなどがあるわけではないのだが。
 結局日没に間に合うように進められるはずだった開票は、予想以上の出足で早めに始められることとなった。
 集落の殆どの人間が集まっているのではないかと思える広場で、箱から無数の石が取り出されていく。一つ取り出されるごとに読み上げられる名に、周囲の人々はどよめきを、ため息を漏らす。それは小波のように広がっていく。
 やがて開票が進むに連れ、大勢が見えてきた。
 それは大方の住民が考えていた通りの展開になった。
 テセラ・ナ・ウィルト。
 アルマ・ナ・ラグア。
 この二人の女性の名が、交互に呼ばれるかのように、同じように票を伸ばしていく。時折ラトイの名があがり、また極稀にその他の名前が告げられたが、それらは既に数えるまでもないような少数だった。
 これまで前族長オントの補佐として、揉め事の仲裁やホームステイ計画の保護者など大きな貢献をしてきたテセラ。災害からこれまでも実質、集落のまとめ役となっていた。
 一方アルマは、先だっての儀式に伴う災害時にアガタとともに住民の大半を避難させる、その指揮を取った。以前から島外の難民たちの村との外交にも関わっており、また復興作業にも積極的に取り組んでいる。姉御肌で竹を割ったような性格も皆の目を引いていた。
 陽が傾き、広場と人々が紅く染まるころにも、まだその数は均衡していた。
 最後の一個の名が告げられる。
 と同時に、どよめいていた人々が、水を打ったように静まり返った。
 開票者の次の一言を待つ。ただ、静かに。
 それは、族長の名となる。
 そして、その名が呼ばれた。
 テセラ――。
 確かにその名が叫ばれた。
 本当に小さな、十票ほどの差だったらしい。だがそれでも、結果は変わらない。
 族長は、テセラ・ナ・ウィルトに決まった。
 一斉にざわめきが、静けさの反動のように一気に戻り――人々の目が、そこにいるはずのある人物を探す。もちろん、テセラその人だ。
 だが。
 しばらくして、周囲の騒がしさには困惑の色が混じり始める。
 当人の姿が見えないのだ。
 アルマが落ち着くように、祝いは明日に行うので今日のところは皆家に戻るようにと声を張り上げる。それを聞いてかなりの数の人間は帰途についたが、それでもまだ残る者はいた。そのうちの何人かに、アルマはテセラを探すように、ただ無理はしないようにと伝える。
 まさか、黙って去ったとは――思えないが。
 アルマは鮮やかな夕焼け空を眺めながら、そう呟くのだった。

 そして、ちょうどのその頃。
 同じ夕焼け空を眺めて、一人。
 テセラは海岸にいた。
 集落から外れ、湖とも方角が違う。
 今は海岸になっているが、昔はそこから先も島が続いていた。
 洪水の起きる前とは風景も違ってしまっている。
 それでも、忘れるわけもない。
 このまま、ずっとずっと歩いていければ。
 その方角の遥か先には、テセラの恋人が住んでいた集落――砂の部族の集落があるはずだった。
 潮風が吹き付け、テセラの髪をなびかせる。
 憂いを帯びた顔が、紅い夕陽に染められていた。
 彼女は早々に自分の分の票を――ちなみにアルマに投票した――出した後、人混みに紛れこっそり抜け出したのだった。
 少し、一人になりたかった。
 ほとんど成り行きで、ここまできた。
 本当は、一人じゃ何もできない弱い人間だと、自分では思っている。
 けれど、皆が必要としてくれるなら。
 集落の人たちに笑顔でいてほしいから。
 だけど、少しだけ。伝えたい相手がいた。
「……ゴメンねヴェイク、今まで来れなくて。あなたがもういないなんて信じたくなかったから……でも、流石にそろそろ私も前に進んでいかなきゃ……。だから、来たの。……許して、くれる?」
 それは、独り言だけれど。独り言ではなかった。
 届かないだろうけれど、告げたかった。
 恋人への言葉。
 語りながら、来る途中で摘んできた花たちを海に投げる。無数の花たちが、海を一瞬、暖かな色に染め上げて、そして、溶けるように消えていく。
 手向けの花たち。
「あ、あとね、ルビイくん元気だから。今は、私の義弟として面倒みてるんだけどね、可愛らしい彼女まで作っちゃってさー。うらやましいのなんのって……ふふっ……っじゃなくて。私もあの子も、貴方の分まで精一杯生きていくから……。だからずっと……私やルビイくんのこと、見ててね、ヴェイク」
 海を見つめる。波音だけが耳を打つ。
 寄せる音。引いていく音。緩やかな、単調なリズム。
 でも、心地よくて、何故だかちょっと寂しい。
 引き込まれそうになる、音。
 ただじっと、耳を澄ます。
「……恥ずかしいこと言わないでくださいよ、セラ姉様」
 いきなり背後から声がした。
 一瞬、びっくりするけれど。
 その声と呼び名で思いつく人間は一人しかいない。
「人の後つけるなんて、趣味悪いなあ、ルビイくん」
 振り返り、そう話す。案の上そこにいたのは、ルビイ・サ・フレスだった。恋人によく似た声。ルビイは、ヴェイクの弟だった。
「投票が終わったんで声をかけようとしたら、セラ姉様、こそこそしながら広場を出て行くから……このままどっかいっちゃうかと思いましたよ」
 ほっとした、といわんばかりに微笑むルビイ。顔立ちはヴェイクと似てはいないはずだが……なぜか、その笑みは彼を思い出させた。
「そんなわけないじゃない。選ばれても選ばれなくても、私の帰る場所はあそこだもの。さ……戻りましょうか」
 皆が待っているから。過去は、忘れるものでも、囚われるものでもなくて。
 心の中に、大事に大事にしまって、大切にしていくものだから。
 滲みかけた涙を振り払うようにして、ルビイの微笑みに微笑みを返して。
 テセラは、皆の待つ集落へと歩き始めた。

*        *        *

 テセラの姿が見えないことに一時集落は騒然となったが、陽が沈んだころには彼女は平然と戻ってきた。
 族長に選ばれたことには苦笑しながらも、すぐに顔を引き締めて答えた。
「引き受ける以上は、精一杯、できる限りのことをします」
 と。
 元々族長宅があった広場に新しく族長用の家屋を作ろうという声もあがったが、テセラはこれを固辞した。まずはそんなことより、家を失った人たちの復興を先にすべきだし、住み慣れた家で十分ということだった。
 そして正式に、テセラを族長とした新しい湖の集落が始まる。
 とはいっても、これまでもテセラが集落全体の取り仕切りをしていたのだから、あまり変わりはしない。
 ただ、以前に比べて一つ言えるのは。
 より忙しくなったということだ。
 復興作業に、難民村との交流再開に向けての取り組み。山の一族への、一般住民のわだかまりを解消させること。
 それらに手をつけるにも、日々あがってくる些細な問題もあった。
 そんな状況であったから――
「これまでと同じように、交易担当を続けさせてくれんかな?」
 ほどなくして訪れたアルマが、こう申し出てきたとき。
「何を言ってるの? そんなの認められる訳ないじゃない」
 一も二もなく、テセラは切り返した。
 がっくりとうなだれるアルマ。しかし、台詞はこれで終わりではない。
「交易担当だけだなんて、そんなこと認められないわ。私の補佐として、他にも目一杯働いてもらうんだから。覚悟しておいて、ね」
 してやったりと片目を瞑りにやりと笑うテセラに、アルマは二の句を繋げなかった。怒ろうとしても、怒れない。ただ笑うしかなかった。
 つられるようにして、テセラも笑う。
 そしてもちろんアルマがそれを拒否するわけもなく、こうして、テセラが族長、そしてアルマはその補佐という体制ができあがる。
 それからは、アルマも含めた忙しい日々が続いた。
 その後の相談で、アルマが主に担当するのは、難民村との外交・交易。そして復興作業の現場指揮が主なところとされた。残りは随時テセラから仕事を振り分けていくという形だ。
 とりあえずアルマの日々の仕事は復興作業だ。外交については、残念なことではあるが交易以外は停止されてしまっているので、仕事が多いわけではない。儀式関連、そしてオントのことがあるのだ、それも仕方ないことだった。
 ただ、だからといって復興作業の方が至って順調かと言えば――そうでもなかった。
 確かに傍から見れば、順調とも言える――日々家屋の復興、瓦礫などの除去も進み、集落は以前の姿を取り戻しつつあるのだから。
 しかし、問題は作業の進行状況にあるのではなかった。
 復興作業は、集落の肉体労働ができる者と、さらには山の一族の協力を得ていた。彼ら山の一族はシャナの指示の下、これまでとは違い積極的に他部族と関わるようになっており、復興の手伝いはこれまでの贖罪の意味も込めてのものだった。
 ただ。
 その、山の一族と湖の集落の者との関係がどうにもうまくいっていないのだった。
 まず、湖の部族の者達は――一族の者たちから、どうしても仮面の者たちを連想してしまう。もちろんその首領はオントであったわけだし、仮面の者たちの中には湖の部族の人間もいたわけだが――皆が今まで一族に抱いていた畏怖の念が、そのまま仮面の者たちへの恐怖感と重なってしまうようだった。
 さらには、数は少なくなってしまったとはいえ、復興作業の手伝いに来ているのはセゥを始め一族の若者――身体能力は抜群に秀でている者ばかりだ。それがまた一種の近寄り難さを生み出してしまう。
 また一族の者たちとしても、これまでごく一部の者を除いては社という閉じたコミュニティの中で暮らしていたせいか、いまいち見知らぬ人間たちの中に溶け込めないでいた。
 作業の間は双方で会話がかわされることはなく。
 休憩のときも自然と別々になる。
 時には部族の者が一族の者達に難癖をつけ、ぶつかることもあった。もっとも決まって一族の者たちはされるがまま、言われるがままであったが。シャナの言いつけでもあったのかもしれない。
 とにかくアルマが現場指揮としてやってきたときには、そのような状況になっていたのだった。
 それらの状況報告は、マユラ・ナ・スウラが語った。彼女は一族の者が虐待されているという噂を聞いて、それを止めるため復興作業の合間にも身体を張り、言葉を尽くして訴えていたのだった。
「一族すべてを責めなければ気がすまないと言うのならば、仮面の集団を率いていたのは湖の元族長です。湖の部族とてその責を受けるべきでしょう。彼らを責める前に、湖の部族であるわたくしを責めなさい……誰だって変わることは怖くて、変わらない安寧を望んでしまいがちだけど、それでも、変わることで新しい何かだって生まれてくるはずです」
 幼い少女からそう悲しげに、しかも正論を諭されては反論しようもない。さすがにマユラが間に入るようになってから、表立った衝突はなくなっていた。
 だがそれでも、互いの交流はうまくはいかなかった。お互いに会話というものは殆どなく、両者の間にはまだ距離があるように見えた。
「そうか……中々根が深いな。理由がはっきりとしてないから、余計に解きにくいわだかまりなのかもな。ん、まあでも、アタイに任せておきな。マユラはこれまで通り、両方に話をしてくれればいい。ついでに給仕なんかも手伝ってくれ。これからちょっと、食べる量も飲む量も増えるだろうから、な」
 自信ありげに話すアルマ。
 そして、アルマはさっそく次の日から復興作業の現場に入った。
 指揮として、というのももちろんあったが――アルマのその行動は、どちらかといえば率先して作業を行うという形だった。『指示する』とか『贖罪してもらう』ということはなく、それが当たり前かのように、一緒に木材を運び、作業をする。
 やがて一日の作業が終わり夜となれば。
 今度は、率先して杯を開ける。誰よりも食べ、呑み、そして語った。アルマの目的が何よりもその宴こそが目的であるかのように、毎日労いの宴が開かれた。酔ってこれば、誰彼問わず陽気に絡む。
 最初は、なかなか固かった雰囲気も。
 一週間も経つころには。
 いかに周りが乗り気でなくともお構いなしのその姿勢に、周囲が感化されていった。要はきっかけだったのだろう。宴という場を通じて会話をしていくにつれ、相手も自分たちと変わらないのだ、という認識ができていく。
 それは今は復興作業に携わる者たちだけの認識だけだけれど。
 一度解けたわだかまりは、それができたときと同じように、波が広がるように馴染んでいくだろう。
 二日酔いの皆に薬湯を配りながら、マユラは思う。
 正面切ってぶつかるだけでは、動かせないものもあるのだということを。もちろんそういうことは分かってはいたが、実感する、実行できるのとはまた違う。
 まだまだ、マユラにも学ばないといけないことは多そうだった。
「マユさん!! 大変です!! セラ姉様がっ!」
 そんな思考に耽っていたそのときだった。
 叫び、飛び込んできたのは――ルビイ・サ・フレスだった。
 何事かと、その場の全員が反応した。
 大勢にいきなり振り向かれ一瞬硬直したルビイだったが、慌ててさらに告げる。
「突然、倒れて……アルマさんもすぐ来てくださいっ……!」
 今度はマユラと、そしてアルマが絶句する番だった。
 仄かに紅潮したアルマのその頬も、一瞬にして血の気を失くす。
 酔いなど、一瞬にして吹き飛んでいた。
 二人はルビイに連れられて、テセラ宅に急いだ。

「心配しなくても、大丈夫だってば」
 横になったままだったが、テセラは元気そうに喋った。
 ただ、まだ顔色は悪い。真っ青な顔つきである。
 とても大丈夫には見えない。見えるわけがない。
「過労ですね。全く……いい大人なんですから、自分の限界くらい把握してください。お酒も、しばらくは禁止です。過ぎたるは及ばざるが如しですよ」
 にっこりと微笑みながら、奥の部屋から粥をもってくるマユラ。得も知れぬ迫力が、オーラが漂う。
 正論で片付かないこともあれば、正論を言わなければならないときもあるのだ。
 確かにテセラは、ここのところまともに睡眠をとっていなかった。ルビイが気づいてやらなければ食事を抜くことすらあった。これまでは気力と精神の高揚が上回りなんとかなってきたところが、臨界点を越えたのであろう。
 姉のリエラも駆けつけ、様子を見る。
 そして改めてリエラからも、数日の安静が告げられた。
「できる限りわたくしも手伝いますから、ほんと無理はしないでくださいね……」
 もう一度、今度は悲しそうに、つぶやくように言うマユラに、テセラは今度はしっかりと頷いた。
 この一件以降、テセラは無理をすることがあってもしすぎることは無くなった。少なくとも倒れたりはしない。
 人を使わない、ということは、ある意味その人を信用していないということ。
 そんなことを実感したんだ、とテセラは後に語る。

 話は復興作業に舞い戻る。
 これまでの事件の一端を担っていた男――渦中の人物とも言える人間――セゥ。
 彼は先ほども語ったとおり、湖の集落、そして難民村の復興手伝いをしていた。日々、今日は難民村、今日は湖の集落と行き来をし、社には眠りに帰る程度だ。
 それでも必ず毎日社に戻ってきているのは、やはり帰る場所ができた喜びだったのだろうか。
 もちろん当初は誰からも冷たい視線を浴び、一族のほかの者と比べても目の敵にされていたが、それでも彼は耐えた。ただひたすらに黙々と働いた。
 最近ではアルマの働きかけも功を奏したのか、以前比べて口数も増えてきて、わずかながらではあるが一族内では溶け込んできていた。湖の部族の人間達と慣れ親しむのはより一層の時間がかかるだろうが、それもありえない未来ではないように思えた。
 そして――。
 そんな毎日の中、ある日の、夕方。
「よっ、今日もお疲れさん。さあ、帰ろっか」
 湖の集落での作業を終え、帰途に着こうとしたセゥに声がかかる。
 その視線の先にいるのは――腰までの挑発、見慣れた姿に聞きなれたぶっきらぼうな口調――ヴィーダ・ナ・パリドだった。
 彼女は社で一族の者たちと一緒に暮らしていたが、マユラがそうしていたのと同じように一族と湖の部族の溝を埋めるために働きかけにきており、また必ずセゥが作業を終わるのを待ち、ともに帰るようになっていた。果たして主目的がどちらにあったかのは分からないが、それは既に自然な日常になっていた。
 夕暮れを背にしながら、緩やかな山道を歩いていく。
 会話は、ぽつりぽつりと。
 その日にあったことや、他愛も無いこと。お互いに、話しづらいのではなく。それは心地の良い静けさだった。
「なぁ」
 会話が途切れて、しばらくたったとき。
 ヴィーダが、口を開いた。
「一回しか、言わねぇからな。ちゃんと聞いとけよ」
 足を止める。あわせて、セゥも立ち止まった。
「……あんたが今まで傷つけた人の事考えれば、セゥの事悪く思う奴だって少なくないけど、シャナと俺の前でだけは幸せになったって、自分の幸せだけ考えたって良いんじゃねぇの? まだまだあんた、周りに遠慮してる気がする。俺はセゥと出会ってから少ししか経ってないけど、セゥが本当は良い奴だってのは知ってるよ。シャナの事どんなに大切に想ってるかとか、俺が辛かった時も支えてくれたし」
 そこまで言って、一旦言葉を切る。
 言いたいことが、うまくまとまらない。妙なうめき声を上げて悶えてしまう。
「あーもう、なんつうか……そう、オントには迷惑かけたくなかったし、ただ役に立ちたい、力になりたいって思った。でもセゥの事は、支えたいし傍にいたい、一緒に生きていきたい。セゥにも俺の事考えて欲しいよ……ってか、俺がセゥを幸せにしてやる!」
 だんだんと大きくなった声は、最後は怒鳴りつけるように。
 そして、沈黙。
 間をおいて。
 一言。
「まあ、その、なんだ……愛してるよ」
 きょとん、といった表現が相応しいような顔になるセゥ。
 真っ赤になって俯くヴィーダ。
 その様子を見て、言葉を噛み締めるようにして。
 ようやく、セゥの身体にその意味が染み渡っていく。
「あ……あ、その……嬉しい、よ……でも、その、なんだ? 俺なんかで……いいのか?」
 他に周りに誰がいるわけでもないのに、妙にきょろきょろするセゥ。
 生い立ちからすれば、こういったことに慣れていないのは、まず間違いないはず。
 それでも――ヴィーダがゆっくりと、小さく頷くのを見て。
 一歩、近寄る。
 セゥ自身よりも一回り小さい、ヴィーダの肩に両腕を回した。
 ヴィーダの腕が、それに絡むように。
 陽が沈んだ暗がりの中。一面の星空と、月明かりの中。
 二人の身体が、顔が、一つに重なった。

*        *        *

「今回もたくさん持ってきましたでー。お互い、良い取引しましょー」
 橘・花梨の明るい声が響く。
 そこには、少しでも今後の双方が良い方向に変わっていって欲しいという願望も混じっているようだった。
 難民村との交流が途切れてしまっていても、交易だけは続いていた。
「ようっ、良く来たな。まあ、ゆっくりしていってくれ。っと、まず仕事の話から片付けてしまおうか」
 そんな花梨を、いつものようにアルマが迎え入れる。
 まずは、仕事――交易の話。花梨がどれだけのものを持ってきたか、その目録と実物、意図、代わりに望むものを示していく。
「っと、ちょっと多くないか? その割には要求してるものが少ないような気がするんだが……」
 並べられていく品々をチェックしながら、アルマが疑問を呈す。確かに相当な量の物資だった。の、割りには集落側に要求する量が見合ってないように感じられる。
「今回のところは人道支援の意味合いもあるんで、受け取ってくださいな」
 対する花梨の返答は、このようなものだった。
 考えるに、春を迎えて恵みも増えた集落に比べて物資が逼迫しているのは島に不慣れな難民村ではないかとは思うのだが、そう言われては、断る理由もない。アルマはその申し出を受けることにした。
 このことについて、花梨はアルマの危惧どおりに難民村で指摘されることになるのだが、それはまた別の話である。
「で、ちょっと今回は他にも色々持っていって欲しいんだ。こっちは交易とは別に、寄贈、みたいな形になるのかな……ま、分かりやすく言えば……祝いの品だな。結婚式、あるんだろう? アタイだけじゃない、色んなやつから預かってるんだ」
 交易の話が一段落ついたところで、アルマは切り出した。そして、次々と色々なものを取り出し、それぞれ誰からのものかを説明していく。
 アルマから、肉や酒。族長テセラから、花嫁の娘に、と腕につけるアクセサリを。幸せになるようにと、湖の部族で結婚する娘には必ず渡される類の品だった。さらにはこれは匿名でということで、一人では抱えきれないほどの花束が渡される。
 誰かは分からないが――山に咲く、白を基調とした色とりどりの花たち。そこからは、送り主の気持ちが感じ取れる。
 花梨はその結婚式に直接関わりがあるわけではなかったし、特に出席しようとも思っていなかった。あまり興味がなかったのだ。
 それでも、目前に広げられる数々の品物とメッセージ。
 また祝いの品以外にも、たくさんの手紙が渡された。それらは全て、ルビイ・サ・フレスが書いたものだった。
 オリン・ギフト宛に、以前命を救ってくれたお礼を。文面には、丁寧に、何度も、何度も『ありがとうございました』の文字が躍っている。
 ラルバ・ケイジには近況を聞く手紙を。もっともラルバ自身、交易の荷物持ちをかって出ていて、今も集落に来ている。これは直接渡せばよいだろう。それはそれで、こそばゆいものかもしれないが。
 他にもホームステイ計画の集落側の主要人物だった彼はかなりの数の難民村の人間とも知り合っていたが、その全ての人間に、名前入りで一通一通手紙をしたためていた。湖の集落の、また自分たちの近況を綴り、最後には必ず『また会える日を楽しみにしています』と添えて。
 そのたくさんの手紙と、贈り物たちを見て。
 今はまだ、交易だけだけれど。
 こうしたことが続いていけば。
 いずれは元の状態に――そしてさらに、もっと触れ合えるようになれるだろう。
 交易が、その手助けにもなれれば。
 花梨も、アルマも、そう思えるのだった。

 そんなやり取りがされている間。
 別の場所。
 そこは、湖の畔。
 セイル・ラ・フォーリーは一人、湖に向かい竿を垂らしていた。
 座るその脇には、大小さまざまな魚が跳ねる魚篭がある。もう魚の入る隙間がないほどの大漁だ。暖かくなると同時に魚の活動も活発になったのか、日々大漁が続く。
 セイルはここ最近、日がな一日湖で釣りをすることが多かった。本来ならセイルのような人材は復興作業に加わっていて当然なのだが、セイル自身の希望もあり、また一連の事件の際の功労者ということで作業は免除されていた。ただ、揉め事や自己が起きたときには、真っ先に駆けつけるようにはしていたが。
「まあ……誰が族長になったとしても、この危機を乗り越えたんだ。ましてやテセラさんの下でなら、悪くなることはないさ。俺は盾となって全て人間を護るだけだよ」
 そう独り呟くセイルからは、あの独特の『ウガ』という語尾は消えていた。
 元々、強さに憧れてのものだったのだ。これまで、色々なことを経験してきた。いくつもの戦いも乗り越えてきた。
 もう、憧れは必要なかった。これからは、人を護るための鍛錬に励めばいいと、そう思っていた。
「っと。またかかった、今日も大漁、みんな喜ぶ……ん、あれは……確か……あれ?」
 何かを見つけ、目を凝らすセイル。視力には自信がある。そうでなければ狩人など務まらない。
 少し離れた、同じく湖の畔。
 座って話し込む、二つの影。男女。
 恋人同士だろうか――いや、そうと言うには微妙な距離だった。
 あちらからもこちらが見えてもおかしくはないが、どうやら偶然死角になっているらしい。
 はっきりとは分からないが、どちらも見覚えのある顔だった。
 女性の方は――族長だ。テセラ・ナ・ウィルト。仕事の休憩中なのだろうか。
 そして、問題は、男の方。確かに見覚えはあるが――意外な取り合わせだ。島の民ではない服装のその男は――ラルバ・ケイジだった。
 集落の族長が難民村の男と恋仲――スキャンダルではありそうだが、セイルにはデバガメをする趣味もなければ、今の平和をわざわざかき乱す理由もない。
 ただ、最近村の老人たちからさかんに結婚を勧められているテセラがそれを断り続ける理由はこれなのかな、と思った程度である。ちなみに、老人からはセイルの名もあがっていたらしいが。
 そのまま釣りを続ける。
 木々の間から降り注ぐ陽射しが心地良い。
 今日も、いい天気だった。

*        *        *

「じゃあ、これをお渡しします。製本の参考になるかと」
 場所は変わって。メルフェニ・ミ・エレトトの自宅の、さらにその自室。その部屋の主であるメルフェニは、少し前に迎え入れた客――フェネア・ナ・エウルに、自らが執筆した冊子を手渡していた。
「あ、私にも後で見せてくださいね。一人で書くことも出てくるかと思いますから」
 隣から、それより少し前から部屋にいたカレン・ル・ジィネが口を出す。もちろん、と頷くメルフェニ。
 メルフェニがこれまでのこと、これからの出来事などを記録し、本にまとめているという噂は既に集落全体に広がっていた。本にまとめるということがまず島の民の間ではかなり珍しいことで、最近では自分から話を聞き行かなくとも、興味本位で色々な話を聞かせにきてくれる者もいた。
 そしてさらには今訪れているフェネア、カレンのように、自分も何かしら書きたい、また、製本技術を見聞きしたいと来る者もいた。
 フェネアは自ら世話している孤児たちに歌を教えるために、それらを本として文字にまとめられないか、それを手伝ってくれないかと。カレンについてはメルフェニと同じくこれまでの事を記録編纂し、ア・クシャスの研究もしたいということで、共同で執筆をするようになっていた。ここのところメルフェニは執筆だけではなく、本の中に入れる挿絵や図解などに凝っていたので、書く方を手伝ってくれるカレンの存在はありがたくもあった。元々染め物や刺繍が趣味なので、絵を描いたりは性にも合う。
 先ほど渡した本は、メルフェニが試作で書き散らしたもの。製本技術を学ぶには実物が一番いいだろうと思ってのことだった。
「ちょっと、中身も読んでいいですか?」
 フェネアが言う。いいですよ、と執筆を続けていたメルフェニは手を休めて返答する。見られて困ることは書いてない。いや、書いていないわけではないけれど――そっちはまた別に、封印してとっておいてある。
「じゃあ、私たちもちょっと休憩しましょうか。お茶、淹れてきますね」
 そう言って、席を立つ。
 最近は人と触れ合うことが多いせいか、生来の人見知りも治りつつあるようだった。ましてやカレンもフェネアもそれほど歳の違わない相手。話しやすく、居心地も良かった。
 アルマに分けてもらったお茶を淹れる。
 三人分の準備をして、部屋に戻ると。
「こ、これって……ほんとにあったこと? あの二人、仲良いと思ったらやっぱり……ねぇねぇ、どこで見聞きしたの、これ」
 先ほどの本を持って、カレンがいつになく興奮した口調で話し始めた。傍らでフェネアは俯いている。
 渡した本には、有り触れた日々の出来事などを書いただけのはず。そんな興奮するような内容は――。
 あ。
「ま、間違えましたっ! か、返してくださいっ、それは……その、偶然見ちゃっただけで……ああ、もうっ、フケツですっ!」
 顔まで真っ赤にして、カレンの持つ本を奪おうとするメルフェニ。だけれども、カレンはそれで結構背が高い。腕を伸ばされると、メルフェニの背では届かない。
「でも、幸せになってほしいですよね、あの子たち、ちょっと頑張りすぎるところ、あるし。お互いに支えあえれば……」
 フェネアがぽつりと呟くように語る。
 そう、その内容とは。
 ルビイ・サ・フレスと、マユラ・ナ・スウラのこと。本人達の目に触れたらただでは済みそうも無い内容。
 封印したはずの方の本を、間違えてフェネアに渡してしまったのだ。
 偶然見てしまったのだ。診療所に、マユラの話を聞きにいこうとして。偶然。決してそんな、覗きなんかじゃない。
 書いたのも――他意はなくて。ただ、練習のつもりで――
 言い訳を続けるメルフェニ。
「あらでも、良く書けてるんじゃない? やっぱりメルちゃん、お話書く才能あると思う。もう一回読ませてもらおうかしら」
 にっこりと笑うカレンに、メルフェニは耳まで真っ赤になるのだった。
 その内容とは――

「あ、マユちゃん、これって、このくらいすり潰せばいいのかな?」
 ルビイが、机の真向かいで薬草の分別をしているマユラに聞く。顔をあげ、彼女は無言で頷いた。
 そこは、診療所内。ルビイはここずっと、マユラや姉のリエラとともに、診療所へ毎日顔を出していた。医学や薬学を学びたいということだったが――もちろんそれには嘘偽りなどなくても、ただそれだけでないのは間違いないだろう。
 会話のきっかけにと声をかけたのに反応が薄く、うな垂れるようにして作業に戻るルビイ。
 リエラは今、薬草を採りに出かけていた。
 二人になると、マユラはいつもこんな調子だった。最低限のことしか喋ってくれない。
 嫌われてるのだろうか、とルビイは少しだけ不安になる。
 そういえば、結局まだ以前の告白の返事ももらってはいない。
 何か、気に障ることをしたのかなと思いを巡らせてみるが、特にそんなことはなかった。
 その間も、無言。
 ただただ、ルビイが薬研を使って薬草をすり潰す音だけが響く。
 どうにも居心地が悪い。
 こんなことになるのなら――口にしなければ良かった。
 とも、思ったけれど。
 でもやっぱり、そんなのは自分らしくない。
 でもとにかく、この状況は変えたかった。
 変えなければ、と思った。
 こんなことを望んだんじゃない。
 意を決して。
 もう一度、顔を上げる。
「あのっ……! マユちゃん。こないだ言ったことだけど……あれ」
 あんまり気にしないで、と言うつもりだった。
 返事はいつまでも待つし、断りたかったら遠慮しなくていい、と。
 だから以前のように楽しく友達としてお話したいと。
 だけれど、その言葉を遮り返ってきたのは意外な答えだった。
「あ……あ、あの、えっと、その……おへんじ、ですよね? そろそろ、しないといけないですよね? そのっ、もう、春ですし……」
 マユラの方はといえば。
 自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。頬が紅潮し、耳の周りがなんだか熱い。
 あれから。
 前までのように喋れなくなっていた。特に二人きりになると、どうしても意識してしまう。こんなの自分らしくないと分かってはいたが、どうにもならなかった。
 ほんとは、もっと色々、喋りたいはずなのに。
 だから、ちゃんと、お返事、しなきゃ。
 そっと、薬研を握るルビイのその手を取る。
「あの……わたくしはまだ、恋とかよくは分からないのですが、それでもルビイさんのお気持ちはとてもうれしかったです……本当に……わたくしで良いのでしょうか?」
 言いながら、顔をあげると。
 すぐ目の前に、ルビイの顔があった。
 しばらく、二人は身動ぎもしなかったけれど。
 やがて、ゆっくりと、その顔と顔が近づいて……

「違うんですっ、だから、そこだけはちょっとだけ、作り話で……ほんとは、そこでリエラさんが帰ってきて、入るに入れなかった私に声を掛けて、それで二人が気づいて……ほんとですよっ」
 口に出して読み上げようとするカレンに、メルフェニが言い訳――というより解説に近い意味不明のツッコミをする。まあとりあえず、脚色はあるもののそういうやり取りがあったのは本当なのだろう。
 それから、本の内容をお茶請け代わりに三人の雑談にも花が咲いた。

 ――この本が遠い遠い未来に、またちょっとした手違いで本人たちの目にするところとなるのだが、それはまた別のお話である。

*        *        *

 湖の集落ではそんな毎日が過ぎていく中。
 山の一族、そして一族の皆が生活をする社は、大きく生活が変わっていた。
 ケセラ、カケイ、アイリが亡き後。
 押し出されるように。また本人の意志もあって、シャナが一族を取りまとめるようになっていた。
 そのシャナは、これまで閉鎖的であった一族に対し、積極的に外と関わりを持っていくように説いた。
 具体的にはまず、肉体労働に向く若者達(儀式の件でだいぶ数が減ってはいたが)に、湖の集落の復興作業を手伝うように言いつけた。
 さらに社自体には、山中への他部族の来訪を積極的に受け入れるようにした。
 復興作業の手伝いは一族の側の意識を、社の開放は他部族から見た一族への意識を変えるためのものだった。
 だがどちらも最初は、意図通りにはいかなかった。長い年月を持ってして植えつけられた先入観は中々変わらない。
 シャナも時間がかかることは覚悟している、とヴィーダなどに語りつつも不安に思っていたのだが――やっとここのところ、集落側のアルマ、マユラの働きもあって若者たちは集落で受け入れられてきているようだ。
 また、社の開放の方はと言えば。
 当初から、儀式、仮面の一団の一連の事件で一族やシャナに関わりのあった者たちが頻繁に通っている。
 かく言うその日も、何人もの訪問者が社の中に迎え入れられていた。
 その者たちが今いるのが、なぜだか、食堂。
 別にみんなで昼食を、と言うわけではない。近くはあるが。
 そこには、マユラ、メルフェニ、社に住んでいるヴィーダ、そしてシャナが集まっていた。さらに、並んで手を動かす四人の前には、一族の中でも比較的年かさの女性が二人ほど、四人の動きを見守って、いくつか手ほどきや助言をしていた。
 何をしているかと言えば、特に変わったことではない。
 それは、料理だった。
 時期はおりしも、春の先駆け。山菜に若い川魚と、旬のものが並べられている。
 以前に集落で湖の部族の儀式があったとき、シャナとヴィーダはそれぞれ初めてまともに料理ということをした。その時に二人とも思ったのだ。
 これはかなり、修練がいるな、と。
 それで、暇を見ては料理を学んでいたのだが――今日は、それぞれ別の用事でシャナに会いに来ていた二人も、せっかくだから一緒にと、こうしてみんなで料理講座とあいなったのだった。
 他愛も無い話を織り交ぜながら、和気藹々と皆で料理を作る。
 器用に魚を捌く三人。そのまま次に焼いたり煮たりを始める。細かい味付けやコツを先生役の一族の女性に聞いていく。
 ただ、悪戦苦闘している、若干一名。
 シャナは意外と筋が良く、メルフェニとマユラは元々それなりに料理ができる。
 問題なのは、ヴィーダだった。
 必死になって取り組んではいるのだが、どうにも、細かい作業に向いていないようだ。それも手先などの問題ではなく、性格が、である。どうにも大雑把なのだ。何でもかんでも火が通っていればいい、という認識である。それでは上達しようもない。
「そんなんじゃ、まだまだ義姉さんって呼べる日は遠そうねえ、ヴィーダ」
 そんな様子を見て、シャナがぼそっと、含みを持たせた調子で言った。
 口許には笑みが浮かんでいた。
 まるで悪役かのような、堂に入った微笑みだった。
「な、なにいってるんだっ、シャナっ、なんのことだか……っと、うぉっ危なっ! 刃物持ってるときに性質の悪い冗談言うんじゃねぇよっ」
 手に持っていた包丁を落としそうになるヴィーダ。分かりやすいほどに動揺していた。
「えっ……ヴィーダさん、セゥさんとお付き合いされているのですか?」
 シャナの台詞からその意味を察したメルフェニが、思わず疑問を口にする。
 実は――メルフェニはセゥのことが気になっていた。社には執筆のための資料集め、口伝の聴聞のために度々訪れていたが、偶然何度か姿を見るたび、いつまにかその背を目で追っている自分がいるのに、薄々気づいてはいた。
 だからそれは、少しだけ、否定を望んだ問いだったのだけれど。
「な、何言ってるんだ、え、ええとな……その……まあ、なんだ……ああっ、どうでもいいだろうがそんなことは! 今は料理やってんだろ、集中しろよ!」
 ヴィーダは明らかに動揺していて、はっきりとは言わなかったけれど、そこに否定の言葉はなかった。
「んーっ、義理の姉になるかもしれない人のことなんだから、どうでも良くないっ、ここは一つ、白状しちゃいなさいな」
 なおも追及するシャナに、観念したようにヴィーダは頭を掻いて照れながら、「まだ、そんなの先の話だって」と話す。
 微笑ましい光景だけれど、ちょっとだけ、胸が痛んだ。
 憧れなのか、恋だったのか、それすらもはっきりしないけれど。
 こんなのは、初めてだった。
「そう言うシャナさんは、好きな方はいらっしゃらないのですか? ……例えば、カケイさんのことどう思ってらっしゃったとか」
 だから、マユラがヴィーダへの助け舟とばかりにそう聞いたときには、思わずそれに合わせて、「それ、私も聞いてみたいです」と続けてしまった。
 普段ならそんなことはメルフェニは口に出せなかっただろう。
 でも、聞いてみたかったのは本当だった。カケイのことをどう思っていたのか。そしては今は誰かのことを思っているのか。
 メルフェニだけではなく、その場にいる三人ともが、同じ思いだった。それはシャナに、人並みに幸せになってほしいという願いでもある。
 視線が、シャナに集中する。
 今度は、彼女が困る番だった。視線を浴びて、仕方ないなあと思いを巡らせ、そして語りはじめる。
「今は……特に、これといって……いないわね。もちろん、一族のことで忙しいってのもあるけれど……」
 そこでヴィーダが、最近よく会いに来ている難民村の男なんてどうなんだ、と聞く。
 それは、アルファード・セドリックのことだった。彼は島外の難民でありながら、今では湖の集落、社、難民村と全てに自由に出入りできる珍しい人間である。普段は湖の集落で寝泊りすることが多いようだったが、頻繁に社を訪れもしていた。
 どうやら、シャナが目当てのようだった。
「ん、なんていうのかな。別に、嫌いじゃないんだけど……うーん。ちょっと、ね。危なっかしいというか、子供っぽいというか。そういえば、この間も……」
 と、数日前の出来事を話し始めた。それはヴィーダも近くでその様子を見ていたので知っている。
 彼はその日も社に来てシャナに面会を求めてきた。
 しばらく待ってもらった後、応接も兼ねている広間に迎え入れると。
 いつもになく、深刻な顔つきをしていた。
 どうしたんですか、と問うと。彼は――とんでもないことを言い始めたのだ。
 もう一度カケイと話すべきだ、と。
 死んでいる相手にそんなことは無理でしょうと言うと、彼の意識もまたア・クシャスに溶け込んでいるはずだ、だから儀式の祭具一式とカケイの遺品である指輪を使ってシャナにもう一度儀式をさせて、自分の体内にまだ残っているはずの魔法鉱石と指輪とを媒体にして、カケイの意識を自分に宿らせることができるはず。
 それで、自分の身体を通してカケイと話をするんだ、と。
 自分はどうなってもいいから、と。
 切々と語った。
 だがもちろん、そんなことができるはずもない。
 たくさんの犠牲を払って、そして災害まで起きて、ようやく鎮まったア・クシャス。それをどうして、個人の意識が混ざっているかもしれないから、それを取り出したいから、という理由でもう一度行えるだろうか。一連の事件のときでさえ、果たして本当に鎮まるのかも分からないほど、これまでとは違う手順だったのだ。
 鎮めるのに精一杯だったそれを、呼び出す。
 シャナのために――という気持ちだけは分からなくも無いが、あまりに無茶だった。そもそも儀式の本来は、契りの娘――シャナの犠牲を持ってしてア・クシャスを鎮めるもの。もう一度行えば、シャナが命を落とす可能性は高い。それでは元も子もないであろう。
 それに、シャナはその時もアルファードに対して、こう言ったという。
「カケイのことは――憧れてはいたけれど。寡黙で、渋くて。いつでも守ってくれたし……でも、そう。それは私が一族にとって大事な『契りの娘』であったからで。それとは別に憎からず思っていてくれたのかもしれないけど。でもやっぱり彼は私を置いていってしまったんだし。きっと、生きていたとしても、彼とはどうにもならなかったわ、うん」
 その時と同じ台詞を笑いながら、でも瞳に涙をためて語るシャナは痛々しくも見えたけど、続いて、「でも、アルファードも、もっと周りのこととかちゃんと考えてくれるような人になったら……儀式をしろ、って言ったのも、まあ、私とカケイのことを必死に考えてくれたからだと思うし」と語る彼女には、幸せになってほしい、とマユラは思った。
 そのマユラは、今でも社へ来るたびに、カケイの墓に赴いていた。今日も先に訪れている。彼の遺体は回収され、社近くに丁重に葬られていた。
 墓に向かって、その日あったこと、山の一族の人たちの様子を報告する。そして祈る。最初のうちは約束を守らず帰ってこなかったカケイを恨んではいたけれど、最近ではだんだん、笑顔で報告をできるようになってきた。彼は彼なりに、最期は全うできたのだろう。無念はあっただろうけれど、生き残った自分たちが笑顔でいなければ、と思う。
 社は変わった。
 山の一族と、他の部族の人々は交流をはじめている。
 こうして料理などを共に学んだり。
 マユラとメルフェニはそれぞれに儀式の、一族のことを知りたくて。
 カレン、ヴィーダはシャナやセゥと一緒に、失ってしまった呪力を少しでも取り戻そうと、色々な修練を試しているらしい。今のところ効果は出ていないが、これも希望は捨てないで継続していくそうだ。
 復興作業を通じて打ち解け始めた集落の者の中にも、興味本位で見学に来る者もちらほら出始めたらしい。
 シャナはそういう者についても、儀式の間、奥の間以外は自由に迎え入れている。
 これから、もっと変わっていくだろう。
 きっと、良い方向に。

*        *        *

 何も、見えない。
 ここはいつも、闇に包まれている。
 持ってきた蝋燭に火を灯して、それを机の上に置く。
 橙色の小さな明かりが周囲にしみこんで、闇を払っていく。
 部屋を照らすには十分とは言えない光だけれど、でもそれにも、もう慣れてしまった。
 何より、ここに明るい光は似合わない。
 そんな気がした。
 そこは、地下だった。空気も淀み、明かりもない、地下室。
 だけれども、それが故に静謐さが漂う。
 湖の集落の族長にのみ伝えられてきた場所。
「ここだ。あの人が、眠る場所は……」
 ヴィーダはそう言うと、背後を振り返った。
「ありがとうございます、ヴィーダさん……一度は、会いに来ないとと思っていたんです」
 返したのは、ルビイだった。
 この部屋に、オントは眠っている。そこに埋葬できたのは彼が最期に着ていた服の切れ端だけだが、元々ここが縁の深い場所であることも確かだ。
 表立って墓を作ることも、もちろんできない。
 墓といえば、ここしかなかった。
 元のオントの家からの入り口は既に完全に塞がれてはいたが、湖の畔に抜ける方の入り口は残っており、ヴィーダは時折ここを訪れていた。
 いつもは一人か、もしくはセゥを連れての墓参りだったが、今日はルビイからのたっての願いがあり案内してきたのだった。
 まずは二人、無言で、立ち尽くす。祈ることはなく、ただ、想う。

 確かに、あの事件のことは認められるものではない。許せることではない。
 それでも、ルビイにとっては――オントは命の恩人で。尊敬していたことも、短かったけれど一緒に生活したことも、忘れられるわけもない。
 明るく、快活で、竹を割ったような性格と、リーダーシップ。
 あのオントの姿が偽りだったとも思えない。
 どちらもオントだったのだろう。
 人には、色々な顔がある。それは決して一つではない。
 ルビイは儀式のあの日嵐の中で、自分の失くした記憶を思い出していた。
 それは、罪を犯した――人を殺した記憶。周りの大切な人たちまで悲しませてしまった過去。あのときの自分と今の自分は違うけれど、でも自分であることには違いない。罪は消えない。
 悔やんでいる。だからこそ。
 贖罪のためにも。二度と争いなど起きない世の中にしたい。例え無理でも、できるだけ居心地の良い集落に、島にしたい。
「いつかきっと、皆が手を取り合って笑顔で暮らせる優しい国にしますから……ここ
で、見ててくださいね」
 呟く。
 それは、誓いだった。
 みんなのために、自分のために。
 平和な生活、穏やかな笑い声。
 オントの分まで、自分が。

 持ってきた酒を、ほんの少しだけこぼす。
 彼は酒も好きだった。
 それは固い土床に、ゆっくりと染み込んでいった。
 ここに、良い思い出があるわけではない。
 それでもやはり、ここへ来てしまう。
 何かがあると、それを報告して。
 自分は、セゥと共に歩いていくことを決めたけれど。
 でも、オントのことを忘れることはないだろう。思いも、けして消えはしないだろう。
 隣で、同じように目を瞑り、ルビイが想いを馳せている。何かしら、語りかけているようだ。
 確かに、オントはここにいた。
 覚えていてくれる人間は、こうして、他にもいる。
「今度生まれてくる時は儀式なんか無いから、安心してまたここに生まれてこいよ」
 まだまだこれから、先は長い。
 オントの分まで、今と、未来を大切に。
 後悔しないように、生きていこう。

 ひんやりとした空気。
 淀みすらも、心地よく感じる。
 しばし、二人がそのまま目を瞑っていると。
 微かに、声がした。天井の、そのもっと上から。
 それは、本当に小さな声だったけれど――部屋の無音に誘われてか、確かに聞こえた。
 祝い歌。
 今や集落では聴き慣れた歌声。
 子供たちの合唱に囲まれた、普段の大人しさからは想像もできない、澄んだ、よく通る声。
 フェネアの歌声だった。
 きっと、広場で歌っているのだろう。共に合唱しているのは、彼女の世話する孤児たちだ。生来の穏やかさと面倒見からだろうか、すっかりフェネアは子供たちに慕われていた。

 彼女の歌声は、心を暖かくする。祝い歌――春の歌がとてもよく似合う。
 いまだに人が集まってくると逃げ出したりすることがあるのが問題ではあるが。
 歌声に、シャナ、セゥ、そしてテセラの名が乗せられて。
 そうだった。
 今日は、三人の祝い日だった。
 正確には、テセラの、新族長の誕生日。ただそれに、せっかくだからとシャナとセゥの二十歳の祝いもしてしまおうとヴィーダが提案していたのだった。
 彼女たちはあの事件のおかげで、誕生日の祝いなど勿論していない。
 三人も、まんざらではないようで。
 そこに、お祭り好きのアルマが一も二も無く乗ってきて。
 今日のこの日は、湖の部族と山の一族が集まっての、祝いの宴が予定されているのだった。
 ルビイも前日まで、はりきって準備をしている。彼にとっては、オントと同じように、テセラも家族同然の人だった。
 歌が始まったということは、もう、三人をそろえての祝いの宴が始まるのだろう。
「そろそろ、行こうか」
 ルビイを促し、立ち上がる。
 生きているからこそ、産まれた日を祝える。
 産んでくれた親に、生かしてくれた周囲に感謝して。生きてきた自分に喜んで。
 まだ見ぬ未来に、希望を見出せる。

 広場には、既にたくさんの人が集まっていた。
 その輪の中心には、テセラ、シャナ、セゥの三人がいる。
 みんな、にこやかに笑っていた。
 どこからか聴こえるフェネアの歌が、笑い声と重なって。
 誰かが、二人の名を呼んだ。
 二人は、駆け出して、その輪の中に加わった。

*        *        *

 あれから、何日が経っただろうか。
 アガタ・ナ・ベッラの航海は続いていた。
 日没の回数は欠かさず数えてメモをしているのだが、それを確認するのが億劫だ。
 島は、すっかり春を迎えているだろう。
 分かるのは、それだけだった。
 見渡す限りの、水面。
 ここのところ、天候も波も穏やかだ。
 水や食料も、なんとか確保している。水は雨水と蒸留水で。食料は魚を。一人分確保すればいいのだから、まあなんとかなっている。
 ただ、身体は限界に近かった。髪や髭は伸び、体力は衰えてきている。身体がだるく、少々の傷でもなぜか治りが遅いような気がする。
 何かの病気なのだろうか。
 身体の不調にあわせ、心も弱気になる。
「そろそろ傍に行くかもな……」
 持ってきた妻子の墓の土にそう呟いている自分に気づく。
 見る人が見れば、それは航海につきものの病、『壊血病』の始まりだと分かったのだろうが――あいにく、アガタは一人。本人にも、医療知識はなかった。
 一日、また一日と、確実に身体は弱っていく。
 そうして、何度目かに限界を感じたときだった。
 最初は、見間違いかと思えた。小さな、小さな黒い点。
 しかし、次の日には。
 さらにまた、その次の日には。
 点は影となり、明らかに、そこに何かがあることを――示していた。
 ただここからでは、確実なことはまだ何も言えない。
 どれほどの距離にあるのか。ひょっとしたら無人の岩肌だけなのかもしれない。
 でもそれは。
 今までにはなかったもの。
 確固たる、希望の証だった。
 アガタは、最後の力を振り絞って、船を進めた。
 まだ見ぬ、新しい地へ向かって――。

※それから
【アガタ・ナ・ベッラ】
 最後に見えた影は、やはり島影だった。
 アガタは何とか無事にその島に上陸する。
 それからのことは、不明である。
「希望の朝だ」

【セイル・ラ・フォーリー】
 修練はそれからも続け、肉体的には集落内で誰も敵う者はいなくなる(今現在でもそうだが)。漁師としての生活に戻りつつも、集落での荒事に対する抑止力になっている様子。
「皆お疲れウガ。これからはもっと大変ウガよ。生まれ変わった死者が驚くぐらい賑やかな部落にしてやろうウガ!」

〜3年後〜
 漁師、猟師のリーダー格になるのと同時に、集落の警備長のような地位につく。すっかり正確も落ち着いて、精神的にも成長したようだ。
 心身ともに強くなり、頼れる男になりつつある。

【マユラ・ナ・スウラ】
 医学、薬学については勉強を進めつつも、山の一族のもとで儀式に関すること、呪術のことを学び始めた。呪術を使う素質はなくとも、次またア・クシャスが目覚めようとするときまでには何らかの対策をできるようにしたいと思っているそうだ。

「シャナさんに一度聞いてみたかったんです。カケイさんのことをどう思っていたのか。カケイさんはシャナさんのことを気にしてはいたようですが、同時に契りの娘ということで己の感情を殺していたように思えましたから」
 良くも悪くも、聞いたお返事はカケイさん(のお墓)にご報告です(にっこり)

〜3年後〜
 まだまだ幼いながらも、テセラ、アルマとは違う意味で集落の中心人物となっている。
医学、薬学の勉強以外にも、社へ通い呪術知識も吸収しているようだ。
 無理しがちなテセラの良い監視役として、黒いオーラも健在。ただ本人自身も無理しがちなところがあるが、そこはきちんとルビイが支えているらしい。
 将来の族長夫婦に、と気の早すぎる話があがっていたりもする。

【テセラ・ナ・ウィルト】
 族長として、精一杯やれるだけのことはしている。何度言われても無理をしがちだが、アルマ、ラトイの補佐、マユラ、ルビイの監視で、倒れるようなところにまではいたっていない。
 結婚を勧める声は多く、また求婚されることもあったらしいが――まだ一人がいい、と断り続ける毎日である。
 
〜3年後〜
 すっかり族長が板について、皆に頼られている。
 いまだ独身を守っているが、どうやら意中の相手はいるらしい。
 時折、族長辞めて自由な身になりたいなあ、と呟くのは、族長の立場を離れてから結婚しようかと思っているからだろうか。

【ヴィーダ・ナ・パリド】
 集落と一族の関係が良好になってからも、変わらず社で生活を続ける。
 セゥとの仲は順調に進行中だが、それゆえか今度はシャナに誰か良い人を、と探すほうに躍起になっていたりするらしい。
「先は長いけど、まだまだこれからだ。後悔しないように、今を大切に生きていこうぜ」

〜3年後〜
 無事セゥとは結婚し、一族の一員ともなった。子供はまだのようだ。
 最近ようやく料理というものが分かってきたと本人は語るが、セゥ本人に聞いたところ、ただ無言で答えはなかったらしい。

【アディシア・ラ・スエル】
 アルマについて、交易の手伝いを始めた。難民村との交流、そしてホームステイ計画の再開のために、少しでも相手と触れたいということだそうだ。

〜3年後〜
 変わらない生活を送っているが、最近、難民村に気になる男の子ができたらしい。ホームステイ計画の再開はまだだが、それでも、身近なところからこつこつと、いつか自分が大人になるときには、と思っている。

【ルビイ・サ・フレス】
 変わらず、オントの墓参りも、難民村への手紙も続けている。
 手紙を届けるアルマもある意味感心、ある意味呆れるほどの細やかさに、難民村でもルビイの評判は上がっており、交流再開も遠い未来の話ではないようだ。

〜3年後〜
 三年間で少年から急激に青年へと変貌しつつある。背もかなり伸びて、元々女の子と間違えられるほどの顔は凛々しさを帯びてきた。
 集落内でも人気は高いのだが、本人はマユラ一筋。他の女性に興味はないらしい。
 最近、歳の差にはちょっと悩んではいるらしいが、それも些細なことである。

【メルフェニ・ミ・エレレト】
 執筆作業は集落族長のテセラ、一族のとりまとめであるシャナにそれぞれ正式に認められて、それぞれ別のものとしてまとめる日々が続いている。
 それとは別に、物語や絵の創作も始めているようだ。
「何か書く事ってすごいのめり込みます。気がついたら大変な事に……」

〜3年後〜
 記録執筆はだんだんと人員も増えて、どちらかと言えばカレンに任せて手伝いをしている。代わりに、織物に染色、物語に絵画と、芸術活動にはまっているらしい。どの分野でも周囲の評判は上々で、フェネアとともに集落の娯楽を担っている。

【フェネア・ナ・エウル】
 孤児院事業はテセラに認められ、フェネアだけではなく何人かの者が手伝いに入っている。最近では山の一族の子供、また親がいる子供も一時的に預かったりもして、保育園のような形になっている。
 子供たちには好かれるタイプで、このごろは子供たちの前でなら歌を披露するのも恥ずかしくなくなったらしい。

 〜♪(夢中で歌っている)
「……はっ!?」(←そっちに気付き)
「あ、あ……あ、あのそのっえっと……こ、こんごとも前途多難ですがっ……その……頑張っていこうと思いますので……宜しくお願いしますっ」
(わたわたと挙動不審的行動を取りつつぺこりっとお辞儀、その後真っ赤になって逃げるように撤収していく)

〜3年後〜
 難民村の子供を預かるところまではいっていないが、最近では孤児院兼保育園以外にも、子供を中心に歌を教える教室も始めたらしい。随分、人前で歌うことにも慣れたようだ。ラトイからモーションをかけられているようだが、まだまだ、子供たちの相手をすること、歌を歌うことのが楽しいらしい。

【カレン・ル・ジィネ】
 メルフェニとともに記録編集を続けている。最近では、それら記録したものをもとに、フェネアの孤児院兼保育園で知識を教える教師の役割もこなしはじめた。案外、楽しいようだ。
 
「失ってしまった物があるからこそ、大切な物が見えてきたと思います。
 今は、その大切なものを守っていく時期だと思います。
 その為に手が必要ならどうぞ、私を呼んでくださいね。」

〜3年後〜
 メルフェニから記録編集については受け継ぎ、マユラと協力してア・クシャスの研究も始めている。特に決まった相手はいないようだが、山の一族の男と付き合っているという噂も。
 失った呪力は徐々にではあるが戻ってきているようだ。

【アルマ・ナ・ラグア】
 交易担当・復興事業担当として縦横無尽に活躍している。
 率先して交流や作業を体現するその姿はテセラとは別の意味で集落を引っ張っているようだ。

〜3年後〜
 テセラが集落のお姉さん、といった感じなのに対し、こちらは、集落のお母さんといった貫禄すらでてきた。
 今は花梨が始めた通貨制度を集落にも浸透させるため、方々に説明に回る毎日である。決まった相手がいないらしいのが、テセラとともに集落の老人たちの悩みの種である。

【アルファード・セドリック】
 どちらかと言えば集落で暮らすことが多くなり、集落の一員として暮らすようになった。
 ただ、今でも難民村への出入りは自由とされていて、社を含めてよく行き来しているようだ。
 カケイを呼び出すという案は却下されたものの、何かしら別の方法はないかと諦めてはいないらしい。

〜3年後〜
 相変わらずの生活。ラトイ、セイルに身体能力の高さを買われて、集落の警備の手伝いもしている。カケイのことは諦め切れていないが、同時にシャナのことも諦めきれず、社にもまだ通っている。

【シャナ・ア・クー】
 今は一族のことで精一杯。中々以前の風習から抜け出せない彼らをどうやって変えていこうか、日々悩んでいる。
 料理を習っているのはそれが楽しくなってきたからで、特に他意はないらしい。進んで皆の食事を作ったり、かなりのめりこんでいるようだ。
「んー……今はまだ、恋とかは想像もつかないかなあ。身近なカップル見てるだけでお腹いっぱいだし」

〜3年後〜
 最初は元『契りの娘』という名だけで一族を取り仕切っていたが、集落との交流が為されてくるにつれ、名実共に長として認められるようになった。
 少しずつ呪力も戻ってきているらしい。ただそれが逆に不安だともらしてもいる。
 アルファードのことは、手のかかる弟的な存在から変わっていないとのこと。

【セゥ・ア・クー】
 今後も、集落、難民村をいったりきたり。これから先も、もういいといわれても何かしら手伝いには行くつもりらしい。
 ただ、必ず社にも帰っている。
「償いは、一生続ける。でも、必ず社にも戻る。待ってくれてる人がいるから」

〜3年後〜
 ヴィーダと結婚し、夫婦となった。
 すっかり喜怒哀楽が身について、そうなってみると相当べた惚れの様子。逆にヴィーダの方が照れているよう。
 ヴィーダの悪戦苦闘ぶり
 呪力は戻らないものの、身体能力は相変わらず。わだかまりは未だ残りつつも、各所で労働力としては重宝されているらしい。

【ラルバ・ケイジ】
 花梨の荷物持ちと称して、頻繁に集落にやってきている。
 噂に寄れば、それ以外のときにも湖の畔で姿を見た者がいるらしい。
 どうやら集落の誰かと良い仲になっているらしいが……
「い、いや……特に他意はないぞ? ただ、なんだかんだ言って集落の人間にお世話になったってところもあるし……なんとなく、な?」

【ラトイ・オ・アーリ】
 セイルとともに集落の警備を主におこなっている。
 フェネアのことが気になっているらしいが、報われる様子は残念ながら、今のところないようである。

●NPCイメージ
 ある方から、NPCそれぞれの外見について質問がありましたので、私個人の抱いているイメージを列挙してみます。参考程度に……。絵が描ければ本当はいいのでしょうが、絵心はさっぱりでして。

◎シャナ・ア・クー
髪:黒・ストレートのロング。背中の真ん中くらいまで
瞳:黒
 目鼻立ちはっきりとして、中世的な顔立ち。
 仲間由紀恵をさらに若くしたようなイメージ?
 セゥは髪型を短くして、少し男らしくした雰囲気で。

◎オント・ナ・ウスタ
髪:こげ茶・短く刈り上げている
瞳:とび色
 背は高いが、横幅もそれなりにある。かなりの筋肉質で、顔は野卑た感じすら。健康的な笑みを消してしまえば、山賊にも間違えられそうな風貌。渋さ満点。ナイスミドル。

◎カケイ・ア・ロウン
髪:黒・短い
瞳:黒
 背が高く、身体は筋肉質なのだが無駄な肉がないため、ひょろひょろとした感じ。
 掘りは深く、いつも厳しそうな課をしている。
 イメージとしては阿部寛。

◎ケセラ・ア・ロウン
髪:白髪・伸ばせば肩を越えるくらいの髪を後ろで縛っている
瞳:鳶色
 背は低いけれど、かくしゃくとして背筋は伸ばして。顔の皺はかなり深くて、それが故に厳しい表情しているように見えてしまう。実際、厳しい表情していることも多かった。
 イメージとしては……いいのが思いつかないですね。

◎ラトイ・オ・アーリ
髪:赤っぽい茶色
瞳:黒
 背は高いけれど、カケイやオントよりも多少低い。
 カケイほど細くも見えない筋肉質。
 爽やかな好青年タイプの外見だけれど、表情が相手を小馬鹿にしたようなものや、挑発的な笑みを浮かべていることが多くて台無しにしているタイプ。
 香取慎吾をもうちょっと悪くして老けさせたような…かな。

◎アイリ・ア・クー
髪:黒・腰までのロング
瞳:黒
 こちらもシャナと同じ美人だが、もっとお姉さんタイプで色気を感じさせる容貌。
 中谷美紀くらいな…感じ?

※マスターより
こんにちは、鈴鹿です。
後日談シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。
さて、これでリアクション形式は本当に最後になります。
長いようであっというまでした。
書いてるほうも大変でしたが、イベントを含めて全部で八回分、多種多様なアクション、ありがとうございました。
〜今後〜
投稿を募集いたしております。
イラストや文章を書くのはちょっと苦手という方も、PCの今の気持ちや、今後の日常を想像させる一言を、PCメッセージでいただけたら幸いです。
チャット会も17日夜に予定していますので、ご都合のつく方は是非ご参加ください。
今後は私は年内は普通にお仕事頑張ってみます。

年明け、何かするかも、しないかも。ちょっとまだ未定ですが、何かしてみたいとは思ってます。
それでは、またどこかで機会ありましたら。