アトラ・ハシス

後日談

『それから』

鈴鹿高丸

 それから、数週間。
 集落は、少しずつだが日常を取り戻しつつあった。
 倒壊した家屋の復旧は少しずつではあるが進み、春を迎えて、いつもどおりの狩を中心とした生活も始まりつつあった。
 それでも。
 去年の春とは――一昨年の春とは。
 大きく、あまりにも大きく――違う。
 洪水によって島の大半が沈み。
 島の外からやってきた難民の村ができていて。
 族長のオントは死に。
 今まで接触がほとんどなかった山の一族との交流が、わだかまりを残しながらも、少しずつ、始まっていた。
 全てが良い兆しばかりではなく、どちらかといえば、困難を湛えた茨の道ではあったが。
 それでも、春はやってこようとしている。
 その陽射しに負けぬように、明るく、道を拓いていこう。
 そう思っている者が多いのも、また事実ではあった。

 復興は族長を失ったものの、テセラ・ナ・ウィルトを中心に行われ――また、その作業には、山の一族の人間も手伝いに来るようになっていた。
 それは、元『契りの娘』――シャナの指示だった。彼女はこれまでの一族のあり方を変え――積極的に他の部族とも交わっていく道を選んだようだった。
 呪術的にだけでなく、山の一族は肉体的にも秀でた者が多い。復興作業の大きな力ではあった。あったのだが――集落内での一族の評判は悪かった。
 無理もない。オントに協力していた一部とはいえ、仮面の集団の多くは山の一族の人間だった。それらは全て先の儀式の際に死んでいたか、捕らえられてはいたが――一族に対する集落の人間のイメージは、仮面の集団と重なる。また、儀式そのものの存在が異常気象を呼んだという感も間にはあった。一族の人間を見ると、石を投げる人もいたほどだった。
 それらはテセラやアルマなど集落をまとめようと奔走している者や、メルフェニやカレン、マユラなど一族と触れ合ってきた者たちがどれだけ説明しようとも、なかなか溶かすことは難しい問題ではあった。
 また島外の難民の村との交流は、振り出し以下に戻ってしまっていた。ホームステイの計画は頓挫し、交易を除く相手への訪問は基本的にできないことになっていた。それは、集落の人間が山の一族に抱いている感情と似ているといえた。仮面の集団の中には湖の集落の人間もいた。その黒幕は集落の族長だった。そうなれば、島に住む人々全て、少なくとも湖の集落に住む人間の全てを警戒するのは、仕方ないことと言えた。
 さらには、いまだ集落側の新しい代表者が決まっていないことも相手側の態度を硬化させたままにしている一つの要因でもあった。
 声は、あがっている。
 何より、復興の中心として、人々に指示をし、時には仲裁に入り――族長を補佐していた以前以上に奮闘していた、テセラに。
 しかしテセラは、数週間経った今でも、族長という名を戴くことには首を振っていた。集落のために尽力することは厭わないが、堅苦しい肩書きは性に合わないということだった。
 しかし、先ほどもあがった難民村とのやり取りもある。代表がいないままでいるわけにもいかない。
 いつしか、族長を誰にするかと言う話題は、集落内の挨拶かのようにいたるところで論じられていた。
 テセラ以外にも数は少なかったが、他の者をあげる人々もいた。
 その竹を割ったような性格と、交易を通じて難民村との交流も深いアルマ・ナ・ラグア。湖の集落でない部族の人間の中には、ラトイ・オ・アーリを推す者もおり、またマユラ・ナ・スウラはどうかと本気で言う者もいた。
 そうやって数日が過ぎ。
 誰からともなく、その意見は出始めた。
 誰が一番支持されているのか、決めればいいではないかと。
 より多くの者に支持された人間に、族長になってもらおうと。
 そして――集落の――おそらく、島で初めての、選挙が近く、行われることになった。
 春を迎えようとする集落は、やがて、その話題に染まっていくのだった。

<湖の集落、及び山の一族の社の状況>
◎湖の集落
 上記文内にあるとおり、儀式の影響からきていた異常気象により家屋の倒壊など物的被害はかなり出ています。ただし、早めの避難ができたことにより行方不明、死者は若干名に留まっています。
 数週間が経ち復興は進んでいますが、まだ住むところが戻っていない人はいる状態です。復興作業はまだまだ続きそうです。
 難民村との交流はアルマら一部の人間が物資の交換を中心とした交易を行っているのみです。代表者が決まってない以上、正式な働きかけということはできていません。
 季節は春が近づき、復興に並行して狩も始まりました。また、山の一族が他部族に対して交流をし始めるようになり、ア・クシャスの頂上方面へは入らなかった狩人たちも、ア・クシャス内での狩をも積極的に始めているようです。
 また代表者に関してですが、文中に在るとおり選挙という形が取られることになりました。立候補をするというものではありませんが、希望すれば全ての住民が、それぞれ一人の族長候補をあげることができるという形です。もっとも多く名が出た人が族長になる予定です。

◎山の一族の社
 一族は現在、シャナがとりまとめをしています。オントに付き従っていた一団は先んじての儀式にまつわる戦闘などで大半が死に、また捕らえられました。現在、一族の数は減り、老人、子供を合わせても三十人弱ほどです。
 また労働に向く若者については、シャナの意向で、湖の集落での復興作業に携わっています。さらにセゥについては、これまでの償いにと、難民村、集落の双方に通い、主に肉体労働を中心とした奉仕活動に勤めています。
 一族のほとんどは他部族との交流に関しても好意的に捕らえてはいますが、ごく一部の者は(集落などで責められたりすることなどもあり)これまでのように社で静かに暮らすべきだと不満を持っているようです。

<一言>
●シャナ・ア・クー
 一族の人間を取りまとめ、忙しい毎日を送っています。
 呪力の殆どを失ってしまいましたが、逆にそれで色々と吹っ切れたようです。
 彼女の指示で、山の一族の社及びア・クシャス山中への立ち入りについては特に障害はなくなりました。
 毎日一度、儀式の間に通い、ア・クシャスに語りかけているようです。応えはありませんが、そうすることに意味はある、と信じているようです。
「……忙しいけど、生きてる、って実感できる。ヴィーダやセゥもいてくれるし。……後は、いい恋でもしたいかなあ」

●セゥ
 これまでの行動の償いとして、主に難民村で奉仕活動、肉体労働をしています。また、湖の集落にも同じようにして通っていますが、合間合間には必ず社に帰ってくるようにしているようです。一族として生きていこうという現われなのか、シャナを支えるためか、それとも他の目的もあるのか……
「一生かかっても償いきれないかもしれないが……できる限りのことをしたいし、しなければならないだろう……自分の幸せなど二の次だ」

●ラトイ・オ・アーリ
 テセラが集落全体の取りまとめや大きな指示を出す、それを受けて、主に復興作業の現場指揮や集落周辺の見回り、揉め事の仲介をしています。警護という役割が本格的に板についてきたようです。難民、山の一族にはまだ敵対的な発言をしたりもしますが、以前よりは角が取れてきたような気もします。
「そもそも、山の一族がしっかりしていればこんなことにはならなかったんだ。精々働いてもらうさ。島外のやつらは……まあ、利用できるところは利用すればいいが、今集落は自分たちのことで精一杯だ。そうじゃないか?」

※マスターより
 こんにちは、鈴鹿です。
 時間的には、今回は最終回から数週間後になります。
 本文中にあるとおり、山の一族の社との行き来は自由になりましたが、難民村との交流は制限されている状態です。
 メインアクション欄には、シーン描写を望む行動について詳しくお書きください。文字制限はありませんが、1シーン限定でお願いします。例えば、友人PCと食事を楽しむのであれば、食事のシーンだけのアクションでお願いします。その友人との関係や、日常的に遊んだりしているというその後行動は、サブアクション欄にご記入お願いいたします。
 メインアクション欄に記入された行動に関しては、個別リアクションになる可能性もあります。
 また同時にアクションの最初に、族長に誰を推薦するか、名前をお書きください。望む人間がいない場合は書かなくても結構です。できれば推薦理由も書いていただけると幸いです。
 サブアクション欄には、その他行動を書いてください。こちらも文字制限はありません。また行動数による制限も今回はなしとします。
 メインアクション欄に記入された行動に関しては、個別リアクションになる可能性もあります。
 サブアクション欄の行動に関しては、殆どが通常リアでPCのその後行動として軽く表される程度になります。この行動により、数年後の村や島の状態が変わることでしょう。