鈴鹿高丸
「いくら大変だからとはいえ、なすべきことを忘れちゃならん」
そう言われた族長オントはぽりぽりと頭を掻いて苦笑する。相手は、湖の部族の中でも古参と言える老人である。
あくまで、湖の部族の族長はオント・ナ・ウスタその人である。だけれども、目上の者をそうそうないがしろにするわけにもいかない。
相手の老人が言うのは――儀式のことだった。
と言っても、今集落を騒がせている、二十年に一度の山の一族の儀式のことではない。
湖の部族にも、儀式はある。
――とは言っても、それほど堅苦しいほどのものではない。
それは、長い冬を過ごすにあたり、部族を司るナ・ウスタ湖が凍りつき、その恵みが途絶えることのないよう祈るもの――また春を迎えるまで質素な生活を営むことになる部族が唯一盛り上がる場でもあった。
本来なら今ごろ、儀式の準備で集落は皆が忙しくしているころ。
だが、今年は――大洪水により他部族の住民も増え、また山の一族の儀式について、消えた祭具の行方の捜索――さらには、島の外からの難民の存在が明らかになるなど、他事で慌しいことこのうえなく、今年は儀式を中止するとオントは皆に伝えていたのだった。
それについては、そのときはそれほどの反対意見は出ていなかったのだが……やはり、長らくおこなってきたものを今年だけやめるのは、と、高齢の者を中心とした一部の者が、日付も差し迫ってきたこの時期に言い出してきたのだった。
「とは言ってもなあ……いつもなら準備はもう始まってる。今年はまだ祭司も巫女も決めてないんだが」
そう、儀式には祭司と巫女が必要だった。いつもなら決まった年齢の男女の中から一人ずつ選ぶのだが、それもまだ決まってはいない。
「それなら、すぐにでも決めればよいだろう。この際他部族でもよければ、人がいないということもないじゃろ」
渋るオントに、畳み掛けるように老人が言い募り、同時に集まった数人がその輪を縮めるようにする。
「――儀式を止めることはなかろう。いくら我ら一族の儀式が島全体に関わる大事であろうと、だからといってこの部族の儀式をないがしろにしてはいかん」
声が響く。よく通る、だが耳障りではない――力を持った声が、双方の動きを止め、振り向かせる。
その先には、一人の老婆がいた。湖の一族を実質束ねている者――『契りの娘』の世話役――ケセラ・ア・ロウン、その人だった。
「今、なんと?」
オントが聞き返す。
「儀式は行えばよい、と言ったのだ。さすがに一族から人手を貸すわけにはいかんだろうが、その間はこちらからも無理は言わん」
素っ気なく言うと、そのまま立ち去る。
場が、静まり返る。
「……じゃあ、まあ、ちょっといつもの年より遅れるが……やりますかね、『清めの祭祀』を」
そうして、湖の部族の年に一度の儀式――『清めの祭祀』が、執り行われることになった。
その内容は以下の通り。
・清め
選ばれた祭司と巫女がそれぞれに、晴れた日の日の出とともに汲んだ水で身体を清める。
またこの後、別に選ばれた狩人たちを巫女が、工夫たちを祭司が、自ら湖より汲んだ水で清める。
・設え
清められた工夫が、湖の中心から見た今年の吉となる方向に儀式のための舞台をこしらえる。舞台は逆に反対の方角である凶方から、必要な分だけ木材を調達する。
また同じく狩人たちは、『祓え』で使われる獲物を調達する。獲物は雪ウサギや狐など。雪ウサギなど食べられるものは最後の『分け』での料理にも使われる。
・祓え
『設え』が終わり次第行われる。
まず巫女により奉納の舞が行われる。その後、祭司により狩人たちによって捕らえられた獲物が捧げられ、無事に冬が終わるよう祈祷が行われる。
・分け
『祓え』を終えた夜、贄に使われた獲物を使って料理が振舞われ、ささやかながらに宴が催される。捧げられ清められたものを口にすることで、人々も清められるという意味がある。宴は大騒ぎはしないものの朝まで続くこともある。
さっそく、次の日からその準備が始められることになる。
まずは、人を集めること。
巫女が一人。女性であることは決められているが、特にその他の条件はない。同じく、これは祭司も。ただしこちらは男性である。
そして、狩人。これは希望者がいればできる限りいても構わない。逆に冬の狩ということで慎重に、何人かごとで固まって行わなければならないだろう。工夫は体力・腕力に自信がある者が求められる。
また他にも――最後の『分け』での宴を準備する者も必要だ。用意される場所には入りきらないため、この日は各家で宴を行うところもあるが――もちろん、用意される場所の準備もある。主に、振舞われる料理を作る人員はいくらいても歓迎されるところだった。
オントは、全ての役割について広く希望を求めることを集落全体に伝えた。
本当はこれは湖の部族の儀式であり、部族外の者は客分として宴に加わることができるだけのはずだったが、オントは部族に関わりなく人を求めると発表する。
そこには、他部族と湖の部族との交流を進めようという目論見もあるようではあったが。
とにもかくにも。
儀式の準備が始まる。
●登場予定NPC
【オント・ナ・ウスタ】
いろいろと忙しいので、『分け』以外の儀式には参加しない予定。ただ祭司の立候補が誰もいなければ族長として祭司をするかもしれないとのこと。
【ラトイ・オ・アーリ】
警備の仕事があるが、工夫にもやる気を見せてもいる様子。
【シャナ・ア・クー】
巫女がしたいとケセラに訴えたようだが、あえなく却下。料理を作る手伝いをしたがっているようだが、少なくとも料理をしたことはないらしい。
【ケセラ・ア・ロウン】
基本的に参加はしない。『分け』の宴には多少顔を見せる様子。
【カケイ・ア・ロウン】
同じく、探索などを続ける予定らしい。宴に参加するかどうかも不明だが、狩の手伝いはひょっとしたらしてくれるかも?
【アイリ・ア・クー】
こちらも宴のみ参加予定。同じくひょっとしたら、宴の準備は手伝ってもらえるのかも?
【ラルバ・ケイジ】
難民村が心配で早く戻りたいため、あまり乗り気ではない。だがまあ、手伝ってもよいとは思っている。
●例えばこんなアクション
・巫女に立候補
・祭司に立候補
・狩をする。
・工夫をする。
・宴の準備を手伝う。
・宴で騒ぐ
・NPCや他PCにあれこれ……
☆アルファード・セドリックさん
今回のアクションはそれぞれ難民・原住民とも所属のシナリオにしかアクションがかけられないことになっています。しかしアルファードさんは現在湖の集落にて他部族扱いで滞在中のため、どちらのシナリオを選んでいただいても結構です。ただし、両方のシナリオに対してアクションをかけることはできませんのでご注意ください。
●マスターより
こんにちは、鈴鹿です。
儀式、というと堅苦しいイメージですが、気軽にアクションをかけてみてください。
宴の部分に絞ってアクションをかけるのもありかと思います。