鈴鹿高丸
なんのために。
いつも問い続ける。
なんのために?
そう問われたら、答えられるだろうか。
答えられるだろうか。
雪明りの中。
自答する。
わからない、と。
それでも。
そうせずには、いられない。
この手の内に、少しでも、多くのものを。
そう求めずにはいられない。
* * *
月が移り。
寒さはまだまだ相も変わらず。
湖の部族の、冬を迎える儀式も終わり。
いよいよ本格的に、冬を耐え忍ぶ季節がきたと言えた。
外出する者はあまりおらず。
狩などもほとんどおこなわれない。
貯めこんだ食料をもってして、やがて訪れる春をおとなしく待つ。
それが島での冬の暮らし方だった。
だけれど。
今――いくつかの家では、外出のための準備に慌しかった。
まず、族長、オント・ナ・ウスタ。
そして、現在湖の部族に仮住まいを置いている、『湖の一族』の世話役、ケセラ・ア・ロウン。
どちらの家でも、主の外出が迫っているのだった。
外出――こんな冬の最中にどこへ行くと言うのか。
それは。
島に流れ着き住み始めた、島外の者たちの村へ。
その存在にお互いが気づき、少しずつ、交流が始まり。
紆余曲折、色々なことがありながらも――今月、相手の村にて、代表者同士の正式な会談・会議が行われることになったのだった。
決められた日時まで、さほどの日も残されていない。
慌しくなるのも当然だった。
そんな中。
マユラ・ナ・スウラは、出発してしまう前にと、ケセラに面会を求めてきていた。
祭具捜索の合間を縫っての会談出席。ケセラからすれば、普通ならば子供の相手をしているときなどではない。
しかしそれでも、ケセラと、そしてその息子であり『契りの娘』の護衛役のまとめ、カケイ・ア・ロウンは面会に応じた。
マユラの態度がいたって真摯だったのも、もちろんあるが――それだけではなく。普段の生活にそれほど支障があるわけではないが、まだ包帯が痛々しい姿……その怪我の原因が一族の者にあるのだから、負い目もあるのだろう。
マユラのその怪我は、仮面の者の一人に傷つけられたものだったが――倒した後、その仮面を剥いでみると……それは、そのとき行動をともにしていたカケイ曰く、山の一族の者だったのだ。
それはともかく。
マユラは奥に通され、カケイ、ケセラの二人を前にして物怖じもせず正面に座った。
この辺りが、マユラの長所だろう。子供らしくない堂々っぷり。だからこそ危ういところもあるのが、周りの人間の少し心配するところでもあるが。
「お忙しいところ、ごめんなさい。でも、どうしても確認したいことがあって」
しっかりと目を見て、そして口を開く。
「ケセラ様。儀式……特に、祭具について何かまだ、私たちに隠されていることはないのでしょうか。わたくしは、仮面の集団は儀式を行わせないことが目的なのだと思ってました。それならば、一つはこちらに返ってきたとはいえ、二つの祭具を手に入れた時点で彼らの目的は達成されているはず。それなのに、わたくし達は仮面の集団に襲われました。カケイさんとラルバさん、彼らの目的がどっちだったのかは分かりませんが……」
襲われた身であるマユラからすれば、もっともな疑問だった。
「儀式は……祭具が三種そろわなければ意味がない。そうでなければ、儀式を最後まで行うことはできない」
改めて、ケセラが断定する。
ならば――。
「だとするなら、彼らの目的はなんでしょう。祭具そのものに、相当な力があるのでしょうか? また、祭具をそろえれば誰でも神に干渉できるのでしょうか」
マユラがさらに問いを重ねる。相手の目的が分かれば、対処もまた違ってくるのだから。
「祭具そのものは……確かに、力を持っている。所持する者の力を高めてはくれる。だが、それだけだ。ここまで躍起になることはないはず。儀式を乗っ取り、ア・クシャスを鎮めるのではなく、その力を得ようとでも思ってるのかもしれない」
今度はカケイが答えた。
さらにその話をさえぎるようにして、ケセラが強く語り始める。
「馬鹿なことを……人の身でア・クシャスを御することなど無理に決まっておる。そもそも、『契りの娘』がいなければ儀式を行うことはできないはずだ」
その口調は、信じている、というものではなく。ただ断定する、そういった調子だった。
「そう……ですか。でもおそらく、仮面の集団は、再びカケイさんやケセラ様、そして黒神石を狙ってくるはずです。そして、あの集団には、きっと山の一族だけじゃなくて、湖の部族や他の部族の協力者がいるはずです。誰が敵か分からない現状では、黒神石はカケイさんに委ねておくのが上策だと思います。もし万が一、ケセラ様が会議に向かう途中で襲われ奪われた場合、相手を追う手がかりが得られない場合もありますから……それと、カケイさんと、そしてラルバさんを一緒に行動させるべきかと。あの方の怪我も回復してきていますし、かなり強かったですから」
推論から始まり、方策を次々と述べていく。もうすっかり、二人は聞き手に回っていた。
「そして、出かけないときは……」
言いながら、持ってきていた壷を二人の前に差し出す。
たぷん、とかすかな音がする。
中は液体で満たされているようだった。
「普段、出かけないときは、この壷の中に石を入れておくといいです」
マユラは、その壷の説明を始める。中は強烈な匂いの薬草をすりつぶした液体で満たしてあるという。不透明な液体で外からは見えないし、相手もこんなところに入れているとは気づかないだろうと。そして万が一奪われても、この容易に消えない匂いが犯人特定の手がかりになるはずだと。
ふむ、とケセラがその壷を受け取り、その匂いに顔をしかめる。確かに――そういえば先ほどから、嫌な匂いがするとは思っていたのだった。
「……ふむ。提案はありがたく聞いておこう。壷も、貸してもらうことにする。どうあっても――この石を再び奪われることがあってはいけないからの」
一言、二言カケイと言葉を交わし相談した後、ケセラはそう答えた。
こうして、マユラの提案はほぼ丸ごと受け入れられることになったのだった。
「ちょっと、いいかなあ、ええっと……アイリちゃん、だっけ?」
その頃、別の場所――集落のはずれで。
テセラ・ナ・ウィルトは、声をかけられ振り返ったアイリに対して、ちょいちょい、と手招きをしていた。
不信な――というより不思議な顔をしつつ近寄ってくるアイリを先導するように、自宅へと誘う。お茶でもどうかと、誘いながら。
お互い、今までにそれほど面識があるわけではない。しかし、歳の頃は同じくらい――聞いてみると、アイリのが二つほど上のようだったが――で、今の誘いに乗ってきてくれたことといい、比較的話しやすそうではあった。まあ、ついてきてくれたのは、今やテセラが集落内ではオントに次いで顔の知られる人間だったから、ということもあっただろうが。
部屋に通し、お茶を淹れる。
「……で、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
ひとしきり雑談した後、切り出す。
だいたいそんなことだと思った、とアイリは苦笑した。しかし、その苦笑には否定の響きはない。それを確認して、テセラは言葉を続ける。
「シャナちゃん……だっけ。『契りの娘』の。彼女に男の兄弟……じゃなくてもいいけど、彼女によく似た子って知ってる? え? なんでそんなこと聞くのかって? いや、まあ女のカン? ……じゃなくて。前に外から来た人たちが襲われたらしいんだけど、その人の顔がシャナちゃんに似てるらしくってね。それで、ちょーっと気になったから聞いてみただけなんだけど」
一方的にまくし立てる。相手に考える余裕を与えないようにしながら。ほんの少しの反応も見逃さないようにする。
「あ……え、っと……そんなわけないじゃない。『契りの娘』は、必ず女の子で産まれるんだから。双子の兄弟だとか、ありえないし」
いつもはどこか突き放した、冷たく感じるような口調のアイリだったが、唐突な話題の転換と勢いに押されたのか、砕けた話しぶりになっている。
いや。
重要なのは、そこではなかった。
「……双子?」
テセラが、耳ざとく突っ込む。テセラは双子とまでは言っていない。
「……」
「……あー。ま、いいか。ん……これは一族の中でもかなり際どい話なんで、ほんとに他言無用で。私もまだ子供だったんで直接現場にいたわけじゃないんだけど……次代の『契りの娘』が産まれると決まっている年の、そして、その候補に数えられる家系の血筋……でも、産まれてきたのは女子だけじゃなかったのよ。確かに、産まれた子供たちには『契りの娘』である徴もあったけれど。生まれたのは男女の双子だった」
仕方ない、と、ゆっくりと語り始めるアイリ。
「あってはならない事よ。男の子ってのももちろんそうだけど、『契り』の徴を持つ者が同時に二人、ってのもね。その事態を前にケセラ様とか、当時の大人たちがどうしたかっていうと……その赤ん坊のうち、男の子のほうを……殺したわけ」
殺す……さらっと出た単語に、思わずテセラは息を呑む。
「だから、シャナには兄、弟がいたわ。でも……いた、なのよ」
言葉を切る。
話はこれでおしまい、とばかりに残っているお茶を飲み干す。
再び、沈黙が流れた。
「ごめんね、忙しいとこ邪魔しちゃって♪ まあ、また今度一緒にお茶しましょう。もちろん今聞いたことは秘密にしておくし、ね」
そう言い繕うのが精一杯のテセラだった。
「いいえ、お茶、美味しかったわ。でも……もう、今度はないかもしれないわね。儀式もあるし……」
一転して、どこか陰のある、哀しげな顔。
その表情の理由を問いただす前に、彼女は出て行った。
テセラはしばし、その場に立ち尽くして。
大きく息をつく。
ちょっとの変化や動揺があれば、それを見逃さないようにしようとは思っていた。
だが、得られたものはもっと――大きな情報だった。
死んでいる――だが、アイリはその現場にはいなかった。
実は、生きていた……そんな可能性もあるかもしれない。
そう思うテセラだった。
* * *
オントやケセラが出発準備を始めたころ。
代表会議などとは別に、集落を島外の者が訪れようとしていた。
その数は、二人。
一人は、少しずつ馴染みの顔となってきている――島外の者たちの交易担当である、橘花梨。だがもう一人は見慣れない顔である。
歳の頃なら、15、6。花梨よりもさらに少し年下に見える。スレンダーな体格に、特徴的な青みがかった銀の長髪が揺れる。
その少女は、名を、リリア・アデレイトといった。
「これが……この島の人たちの集落……すっごーい、やっぱり全然違うっ」
さっきまで道中のきつさにへたりこみかけていたのだが……着いたとたんに元気を取り戻したようだった。元々、元気がとりえである。着いた、という達成感と見知らぬものへの好奇心で疲れも吹っ飛んだのか。
とはいえ、それは一時的な興奮状態。
先ほどまでの疲れぶりといったら、荷物持ちをさせられて、今にも倒れそうなばかりだったのだから。花梨にあまりはしゃぎすぎるなと言われて、素直におとなしくなる。気力は回復していても、体力は限界に近いはず。倒れられても困るのだから。
花梨の交易関連のお仕事――まあ、主に荷物運び、整理なのだが――を手伝い。
ほっ、と一息ついていると。
「あんたら、島の人間じゃないよな?」
唐突に、声がかかった。
女性の――だが、低い、迫力のある声。
驚いて、思わず腰を抜かすようにへたり込んでしまう。
見上げると。
にっかり、という言葉がぴったり来るような顔で、大柄な島の女性がこっちを見下ろしていた。
「ああ、ごめんごめん。驚かすつもりはなかったんだ。何もしやしないよ。交易担当の人間が来てるって聞いて、さっきから探してたんだ。二人でな。あたしはアルマ。アルマ・ナ・ラグアってんだ。それで、こっちは……って、隠れてんなって」
押し出されるように、アルマの背後から少女が、おずおずと顔を見せる。栗色の、リリアと同じような長い髪。歳の頃も、同じくらいに見えた。
「ふぇ、フェネア・ナ・エウルです……」
消え入りそうなほどの声だったが、何とか聞き取ることができた。
「アタイたち、あんたらの暮らしぶりとか、そういうのに興味があってさ。どうだい、今日はうちに来ないかい」
一応、花梨用に宿泊場所は用意されている。しかし、リリアとしても、島の人間と話がしたくて花梨についてきたのだ。花梨にも異存はなく、断る理由ももちろんなかった。
そして、アルマの家へ四人で向かう途中。リリアは二人に、自分の目的を告げる。
それは、布。服……そして、染料。衣服、特に染めに関する技術だった。染めなくてももちろん着ることはできる。でもできれば染めたい。それも、綺麗に。
すると。自分やフェネアはあまり詳しくないが、そういったことを趣味にしている子がいるから連れてこようかとアルマが言ってくれた。
これも大歓迎の提案だった。
アルマは、二人を家に通した後、フェネアを置いて出て行った。その人を呼びにいってくれたのだろう。
部屋には三人が残る。
「……ええっと」
なんとなく、しばらく誰も口を開かず。
ようやく、フェネアが再びしゃべり始めた。引っ込み思案なところもあって、どうしても緊張してしまうのだった。
「わたしは、歌が好きなんです……そちらでは、どんな歌があるんでしょうか。島の……いえ、ほとんど湖の部族に伝わる歌しか聴いたことがないんです、わたし」
会話の始め方を良く知らないフェネアらしい、唐突な、けれども誠実さの伝わる質問だった。
「……そうねえ。いろんな歌があるけれど……学校で習ったりすることもあるわ」
リリアがその様子を微笑ましげに見ながら、返事をする。相手はどちらかと言えば自分とは正反対とも言えるようだったが、だからといって嫌悪感は感じなかった。
学校、って言うのはなんでしょうか、と質問するフェネアに、丁寧に説明を加えた。
「学校、かぁ……私……行ってみたい、です」
学校というものを聞いて、彼女は興味を持ったようだった。
その後も、穏やかな会話が続く。
「すまんすまん、遅くなった。連れてきたぞ!」
と、そうしている間にアルマが戻ってきた。
傍らには、少女が。フェネアやリリアよりもさらに背も低い、本当にまだ、女の子、といった子だった。こちらを見て、ちょこん、と頭を下げる。
「まだまだ子供だけど、染めものや裁縫なら得意ってのを聞いたことあってな。つれてきた。メルフェニだ」
「よろしくです。メルフェニ・ミ・エレトトです」
礼儀正しい子のようだった。勝気なリリア、引っ込み思案なフェネアはともまた対照的だった。
「染め物のことについて、って聞いてきましたけれど」
その言葉に、フェネアが反応し、さっそく話題がそれらのことに移る。
花梨とアルマが宴会気味に騒ぎ。
残りの三人は、お互いの生活のことに話の花が咲く。
特に、最初は固かったメルフェニも、好きな事についての話ということでいつの間にか夢中になって、三人の中で一番熱心に語り始めていた。これからの冬の季節でも作ることのできる染料について、そして自作した染料について。
やがて、自分で作った染め物を取りに戻り。
「貴重なのであまり分量無いですけど、わたしが作ったのです。これでよければ少しさし上げます」
と、リリアにそれを渡す。感謝の言葉を一杯に、笑顔を顔に一杯に、ありがとうと何度も言いながら、リリアは受け取った。
そして、最後には、色々話を聞けたお礼にと。
フェネアが、得意の歌を披露して。
島の民でなくとも、どこか郷愁をそそるその歌を、皆でゆっくりと聴いて。
充実した夜は過ぎていった。
* * *
そして数日後。
代表会談へ向かう一行は、既に集落を出て、相手の村への道中にあった。
そのメンバーは。
まず会議に出席する、湖の部族族長、オント・ナ・ウスタ。山の一族の儀式世話役、ケセラ・ア・ロウン。この二人。
さらにそこに、護衛の者が最低限。仰々しく引き連れていくわけにもいかないので、三名だけだった。ケセラの選んだ、アイリ直属の一族の者が二人。そしてもう一人はと言えば――。
「休憩取らないで大丈夫か? ケセラばあ様」
少し気にかけるように、前を歩くケセラに声をかける背の高い男――それは、アガタ・ナ・ベッラだった。
交易担当としての仕事を兼ねてではあるが――ぜひとも、とこの一行の護衛も買ってでていたのだった。
「心配するより前に、ちゃんと着いて来い。それほど時間の余裕はないのだぞ」
アガタの声とは逆に、急かすように促してさらに歩を進めるケセラ。
今でさえ老婆とは思えない健脚ぶりであるのに、さらに歩く速度を上げる。アガタも気を抜いて歩いてなどいられない状況だった。下は雪が積もり足場も悪い。その中でのこの行軍速度は驚異ですらあった。
ただ黙々と進む一行。
「なあ、ばあ様」
再びアガタが口を開く。何も返ってこない。無理矢理それを肯定だと解釈して、話を続ける。
「……以前、聞いたことなんだが。儀式について、だが」
数か月前に聞いたこと。だが、返答にはまだ納得してはいなかった。儀式、というシステムについて。そして、その必然性について。
「くどい。儀式は必要なのだ。シャナも、生贄になる覚悟はできているはず。『仮面』らが何を狙っていようと、なんとしても儀式は行わねばならない。行わねば……島はおそらく」
そこから先は言わずとも分かるだろう、とばかりに言葉が止まる。
感じられるのは、妄執。そして、恐怖。
「それほどに……ア・クシャスとは、なんなんだ?」
返答は、ない。
雰囲気を察してか、オントも口を開かない。護衛の残り二人に至っては、喋ることを禁じられているように、まだ一言すら発している様を見ていない。
「二十年前だ。前回の儀式のときも、わしは世話役だった。そのとき初めて、ア・クシャスに触れた」
唐突に。先ほどまでのやりとりから間があって。
彼女にしては珍しく、ぽつり、ぽつりといった風に。
「儀式が進み、ア・クシャスが……『契りの娘』の前に現われて。あれは……言葉では表現しようも無いほどの……ただそこにいるだけで、わしの魂そのものが呑み込まるかと、そう思うほどの、圧倒的な力……」
今始めて周囲の寒さに気づいたように、一瞬身を震わせる。
「……やはり、それほどのものに捧げられるということは、『契りの娘』は無事では」
アガタが、合いの手を入れるように、すかさず聞く。
「もちろん、無事戻ってこれるはずもない。いくら『契り』の力が大きくとも、その魂と全ての呪の力を吸い取られ……死にはしない。だが、意識もなく動くこともなく……ただ息をするだけの塊になる。その命を絶ってやるのも、世話役の仕事……」
思い出したくないことを、思い出させてしまったようだった。
「この洪水から島を護っているのは、ア・クシャスに違いない。島を護るために、儀式は必要なのだ」
自らに言い聞かせるようにケセラは呟き、また押し黙った。
やがて、苦労というほどのこともなく。
道中の中ほどまでも過ぎたところ。
雪と木々との間に、見慣れぬ影が見えてきた。
近づくと、それは建物のようだった。
明らかに、島の民が作るような建築物ではない。
さらに近づく。
建物の前には、さらに――人影があった。
こちらは、誰もが見覚えがある人物だった。
これまで、こちら側との交渉で何度も集落を訪れていた人物。
それは、タウラス・ルワールだった。
さらに背後に、護衛なのか、二人の男を従えている。片方は見覚えがある。前にタウラスがこちら側の集落にもついてきていた男だ。もう一人――長髪の、目つきの鋭い男は見覚えないところだったが、いかにも手練れのようだ。こちらも護衛であろう。
「この寒い中、ご足労わざわざありがとうございます。ついこの間、ここに休憩所も兼ねた保養所を作りましたので、この紹介ついでにとお迎えにあがりました」
そう言って、一礼する。
少し休憩されてはいかがですか、とタウラスが提案し。
ケセラはなおも急ごうと主張したものの、少しの間そこで休憩することになった。
招き入れながら、タウラスは保養所がどんなものかということを説明する。それも、島の民には分かりにくい概念ではあったが。
また、この建物は今後のお互いの行き来についても、事前許可が取れれば休憩場所として使っても良いという話だった。
ひとしきり、雑談などもあって。
その中で、ふいにタウラスが言った。
「そういえば、ちょっと変わったものを持ってきたのです。大陸の技術、というものを見ていただこうかと」
立ち上がり、懐から小さな石のようなものを取り出す。
「これは……魔力の制御装置です。これを使えば、魔法――いえ、こちらでは、呪術と言うんでしたね。が、使えなくなるのです。私はもともとほとんど魔法も使えないので、そうですね」
無造作に歩を進め、ケセラに近づく。一族の護衛二人が色めきたつ。だがタウラスは何をするでもなく。失礼、と言いつつ、ケセラの肩に触れた。
「どう……ですか?」
周囲の顔が、全員、疑問形になる。どうですか、と言われても特に何も――。
「む……う……」
と、ケセラのうめき声があがった。
「使えないでしょう?」
どうやら、言っていることは間違いないようだった。タウラスがその手を離す。そのとたん、タウラスの袖が軽く切り裂かれる。
「何が狙いだ……!?」
その誰何の声に、護衛二人も身構えた。
「ちょ、ちょっと待った、落ち着くんだケセラ様。そっちもそっちだ、ちょっと軽率なんじゃないか、今のは」
オントが慌てて間に入る。
危害を加えるつもりはない、と慌ててタウラスが何度も説明をして、その場はなんとか収まる。
しかし、この一件の所為で。
残りの道中の間ずっと、タウラスはケセラからの剣呑な視線にさらされることになったのだった。一人のときを狙って聞こうと思っていた、仮面の男の似顔絵のことも結局、聞けずじまいになってしまった。
* * *
オントとケセラ、そしてアガタらが出発したその日とは前後して、少し前。
かと言って、集落が落ち着いたかというと、そんなことはなかった。
「そうですか……でも、また来ます!」
ぺこり、と大きくお辞儀をして、ドアを閉める。
「めげずに……次、いこう」
言い聞かせるように呟くと、さらに別の家へ向かって歩き出す。
この寒い中、ルビイ・サ・フレスは次々と集落内の家を回っていた。条件は、子供のいる、生活がぎりぎりではない家。目的は――ホームステイ計画の、受け入れ先を見つけることだった。
「難民の人たちが数日の間一緒に過ごせる家を探してるんです。一度、あっちの村へ行った事があるんだけど、僕たちと同じような子供もたくさんいました。こっちへ来たら、僕たちの知らない食べ物とか遊び方とか、色々教えてもらえそうだし……友達になれると思うんです」
まずはその家の子供に話しかけて打ち解けた後、親にしっかりと説明する。とにかく、島の人間でなくても、同じ人間。怖いわけはない、と話す。受け入れたくとも、狭くて無理と言われたならば、増改築の手伝いもすると説得する。
しかし、状況は芳しくなかった。
子供たちは、かなりの割合で興味をしめしてくれた。しかし、そこからが問題だった。ホームステイを受け入れたところで、メリットがあるわけではない。増改築を請け負うとは言っても、冬のこの時期。しかもルビイが請け負うと言っても、いまいち説得力はない。
それでも、どれだけ断られても、ルビイはめげなかった。
族長のオントには、
「僕はここで下準備を進めますから。”ほーむすてい”……でしたっけ、実現してもらえるように、会談の皆さんにもお伝え下さい。ご無理言いますけど……お願いします!」
と、何度も念押しして、頼んである。これでこちら側がうまくいきませんでしたではオントの面目も立たないだろう。何より、自分で言いだしたこと。どうしても、実現したかった。
幸いにも、回る家はいくらでもある。時間も、まだある。そもそもたくさんの家を回ってアピールするだけでも、島外の人たちへの印象は違ってくるだろう。将来への布石になるに違いない。
そんな、根気も幸いしたのか。
一週間も過ぎようと言う頃には、何とか数世帯から約束を取り付けることができていた。
これでまた、ホームステイ計画は一歩進んだのだった。
一日、そうして家々を回ることがほとんどなルビイだったが――それだけで一日が過ぎているわけではない。もちろん、日常生活だってある。テセラの家を掃除したり、オントの家を掃除したり――家政婦のような生活ではあるが。
また、それ以外にも……どうしても慣れないことが、一つ。まだ怪我が完治していないマユラの治療手伝いだった。
「早く良くなってくださいね。そうじゃないと、毎回こういうのってちょっと……わ、悪いですし……っ!」
顔を背けながら、薬膏をつけた布を取り替えていく。背を向けているとは言え――マユラの肌は露になっている。
もう何度もしているはずのその作業なのだが……一向に慣れることができないでいる。顔が真っ赤だ。
マユラの方としても最初は意識していなかったのだが、こうも照れられると、自分まで妙に照れくさくなってしまう。
「はい、終わりました。どうですか、調子は」
そこで、さっと振り返るマユラ。
「ええ、もうかなり。ほんと、ありがとうございます、ルビイさん」
言いながら、顔を上げる。自然と、目線がぶつかる。
ちょうど、マユラの姉のリエラもでかけていて二人しかいなかった。
どちらとはなしに、赤面する。
「こんにちはー。いるかな?」
と。
ちょうど、計ったように。
診療所の扉が開いた。
「お見舞いにきたんだが……ああ、お邪魔だったかな?」
片手に、冬でも咲く花を持って。
現われたのは、ヴィーダ・ナ・パリドだった。
台詞を残して、そのまま扉を閉じてしまう。
「ちょ、ちょ、違いますよヴィーダさん」
慌ててルビイが出て行ってヴィーダを引き止める。
穏やかに笑って、そんな様子を見ているマユラ。
三者三様に、色々なものを抱えつつも。
この時ばかりは、平穏な日常を共有しているのだった。
一方、そんなマユラとルビイの両名と関わりも深い、人物。
――怪我は完治したものの、まだ診療所に住んでいる男――ラルバ・ケイジ(ちなみに、ルビイがマユラを手当てしていたときには、マユラの姉リエラと集落近辺を歩いていたらしい。祭具のことについて、少しでも何かないかと)とはいえば。
オントとケセラが向かった代表会議において、ようやく村に帰れるかどうかが決まるということで、気が気ではない様子だった。
「きっと、いい結果は出ますよ。大丈夫です」
マユラが励ます。ルビイも、それに合わせて大きく頷く。
ラルバからすれば、一方的に嫌疑をかけられて思うところがないわけではない。
けれど。
この二人や、マユラの姉、リエラ。
よくしてくれている人はいる。
そういった人間たちの恩まで切り捨てて勝手に出て行くこともまた、ラルバにはできそうもないのだった。
そんな様子が、そろそろ付き合いも長い二人にも手に取るように分かる。だが分かるのが、痛々しい。分かったからといって、ケセラに、オントに訴えるくらいしか手がないのだから。
それでも。マユラなりに考えていることがあった。
「一つ、お願いしていいでしょうか。族長が戻るまででいいんです。一族の社へ向かうと言っているカケイさん。彼が山に登っている間の護衛をお願いしたいんです」
ずっと、考えていたことだった。カケイがいくら強いといっても、相手の狙いがカケイや祭具にある以上、襲われる可能性は十分にある。また同じ山の一族が相手だとするなら、前回のようにカケイの裏をかいてくることもあるはず。そこで、ラルバがいれば――きっと、心強い。
だからといって、それは身勝手な願いである。だということも、十二分に分かっていた。
それでも。マユラが思いつく適任は他にいなかった。
「……だいぶ、世話になったしな。それにどうもなあ。妹思い出すから、弱いな、どうにも……分かった、引き受けよう」
仕方なく、という言い方だったが。
ルビイが見る限り、その顔に浮かぶ表情には、マユラも大切に思う気持ちが十分に感じ取れるのだった。
* * *
無事に、とは言えないが。
代表者会談はなんとか終わった。
行きと同じ面々が、帰り支度を始める。
帰りには、タウラスは村の入り口までの見送りということだった。
こちら側としても、ケセラが急かし、時間をおしての、相手の夕食の誘いを断っての帰還である。送れと言うのもおかしな話なので、特にそれがどうということはない。最初に保養所にまで迎えに来ていたことでさえ、イレギュラーな出来事だったのだから。
そうして再び、道中。
例によって、あまり会話はない。強行軍だから、さすがに全員の、特に会談にも出ていたオントやケセラにも疲れはあるに違いなかった。
やがて――行きにも立ち寄った、保養所へと到着する。
誰が言うでもなく、休憩をすることになった。
「さすがに……少し疲れますな。なんだったら、ここで一泊しますかね? 寒さは凌げそうな造りになっているようだし」
興味深そうに保養所の家の壁をさわりながら、オントが、ケセラに問いかける。
即座に、ケセラは頭を振った。もちろん、横に。
やりとりを見ていたアガタの予想通りだった。
今は、建物の外に一族の者二名が立ち、アガタは保養所の中にいた。確かに配置としてはこうなるわけだが、アガタは交易担当でもあるということで、中に入れてもらってるには違いなかった。寒さが入ってこないだけでも、外とは格段の違いだ。
「じゃ、一度どちらかと変わってこよう。もう少しは、休憩するんだろう?」
冷えた身体もましになってきたころ、アガタが言い、立ち上がった。
外へと続く扉に手をかける。
寒風が吹き付けるのは分かっているから、ゆっくりと開く。
と。
その扉が、急に。
思い切り、押し開かれる。引こうとしていたアガタは、一瞬、壁と扉とに塞がれるような格好になる。
その隙、だった。
いくつもの人影が、雪混じりの風とともに飛び込んできた。
「逃げろっ!」
アガタが叫ぶが。
なんだかんだ言って、多少疲れてはいたのだろう。姿勢が、体勢が、即座に対応したように見えても、一瞬、遅れた。
入ってきた影は四つ。
うち一つが、オントに向かって何か暗器のようなものを投げつける。オントも体術の心得があるのだろう、なんとかこれをかわすけれど――その影の体当たりのようなものを食らい、呻き、倒れる。
そして残り三つの影が――ケセラへ。
アガタがようやくその場へ、間へ割り込もうとするが、そのうち一人とオントを倒した一人とが前を塞ぎ、短剣らしきものを振るってくる。やはり、その動きも素人ではない。避けるのが精一杯になる。
敵の向こうで大きな音がする。同時に影が一体、倒れる。ケセラの呪術だろうか。だが向こうにもまだ一人、いるはず――その前に、こいつらを何とかしないと。
もどかしいが、なんともできない。避けることに全身を集中するばかりで、何もできない。
と、そこへ――ケセラに襲い掛かっていた残り一人が呪術でか、吹っ飛ばされる。その身体は、アガタが戦っていたうちの一人に――砲弾になるかのように、ぶつかり、もつれ込み、倒れた。仮面をつけている。やはり――そして、まさか。仮面がはずれかけていた。
だが思考をめぐらす暇はない。
すかさず、その隙を狙い、もう一人に体当たりを食らわせた。
「外へっ!!」
ケセラが叫び、その老婆とは思えない俊敏な動きで、走り出す。アガタもほぼ同時に、扉を出た。
一瞬、オントが気になる。助けださねば――と、振り返りそうになった。
「何をしておる――」
ケセラがなおも叫ぶ。
その声に呼応するように。
建物の影から、さらに数名が、飛び出してきた。
一斉に、飛び道具が投げ放たれる。
狙いは、たがわず、二人のもとに。
避けられない――と。ケセラが、呪術を発動し、アガタの前に出る。
しかし、風の呪術は無数の暗器の全てを弾くことができず――
アガタの肩に、そして――ケセラの全身に突き刺さる。
低い、悲鳴が――上がる。
だが、同時に周囲の仮面の者たちは呪術によってか、吹き飛ばされていた。
咄嗟に、ケセラを抱え上げる。肩に痛みが走るが、気になどしてはいられない。
全力で。
とにかくその場から離れるために。
アガタは、走った。
とにかく、走った。
血がしたたってくるのが分かる。担ぎ上げたケセラの身体からだ。息遣いは聞こえる。
もうどれだけ走っただろうか。周囲に気配は感じないように思えた。
体力も限界に近づいていた。
今襲われたらどのみちもうかないはしない。
立ち止まる。
適当な木に、もたれかからせるようにして、ゆっくりとケセラを降ろす。
腕、足、腹――いくつもの暗器が刺さっている。抜くと、血が噴き出すだろう。今すぐ抜くわけにもいかない。
医術に詳しいわけではないが――正直。
助かりそうもないと、そう感じられた。
「……すまないな。やはり、我が一族の者が……関わっているのは間違いない……巻き込んで、しまったな……」
息も絶え絶えに、ケセラが口を開く。喋るな、と制するが、聞かない。
「見た……であろう? あれらの中に……護衛に選んだ者もおった……この件……おそらく……糸を引いているのは……アイリ……」
そう、仮面が外れて見えたのは……護衛の者の一人だった。間違いない。
そして確かに護衛は、アイリの直属の者だった。
「わし……が……死ねば……世話役は……アイリに……それだけは……止めて」
抱く老婆の身体から、熱が急激に引いていくのが分かる。命の炎が、消えかけようと。
「……これを……」
左手から指輪が抜かれ、アガタに渡される。血に塗れていた。
「我が……家系に……体術と、回復力を……わしには……もう、手遅れだが……集落へ……カケイに伝え……アイリを止め……儀式を……かならず……行う……頼む」
最期は、かろうじて聞こえた。
そして、身体から、力が抜けていった。
そっと、眼を閉じさせてやる。
物音が、聞こえた。何かが近づいてきている。指輪の力か。圧倒的というほどではないものの、知覚能力もあがっているようだった。
肩の傷も、多少痛みも和らいできた。
アガタは歩き始める。
一瞬だけ、眼を閉じ……雪に埋もれていくケセラに軽く、礼をするように、頷いて。
* * *
一方、同じ日を少し戻り。
会談へ向かう一行が出発した日の、夕方ごろ。
別の場所――湖の部族の集落から少し離れた、山道。
二人の男が、ア・クシャスの山の中を歩いていた。
「で、社に戻ってどうするんだ……?」
一方の男が、う一方の男に問いかける。
問いかけたのは、ラルバ・ケイジ。問いかけられたのは、カケイ・ア・ロウンだった。
「儀式の準備もある。ケセラ様が出かけている分、やっておかないといけないこともあるしな。それに――社に残っている一族の者を一人一人、問いただす。『仮面』かどうかな」
険しい表情。
しかし、言っていることは理にかなっているように見えて――そうでもない。
「ちょっと待て……どうやって、仮面のあの集団のメンバーかどうかを見極めるんだ?」
至極最もな質問をするラルバ。
「……私が、こいつを持って一人でいる。其方を合わせても二人だ。持っていることが分かれば、きっと行動を起こす。そいつを、あぶりだす」
厳しい顔の、その瞳がさらに剣呑な輝きを帯びる。ラルバとしてもこのカケイという男の強さは先日実感してはいる。実感してはいるが。
「多勢に無勢、遅れを取るってことは……」
「一族の人間が相手と分かっていれば、対処のしようもある。それに、呪術という点だけで言っても、ケセラ様、シャナ様、アイリ、そしてこの私……体術で言うならば私に匹敵するものは一族にはいない」
それは、驕り、というんじゃないだろうか。そう、ラルバは思う。第一、ラルバにとって全ての始まり――あの、仮面の男は、ラルバと同程度以上だった――カケイとも、引けを取らないと、思える。
「もう少しで社だ。礼を言わせてもらう。少し、休んでいくか?」
カケイから、そう声がかかり、さらに少し。
社、らしき影が、木々の間から見えてくる。
そのときだった。
「な、なんだっ!?」
ラルバが声を上げる。
慌てて、後方に飛び退る。
前後に並んでいた二人を分けるように。
何かが降りかかった。
「……水か。大丈夫だ、特に危険なものではないが……意味はわからんな」
水は今も、道の脇から噴き出している。雪も舞うこの季節に、いきなり水が噴き出す、しかもこのタイミングで。
明らかに、異常ではあった。だが、異常なだけ、ともいえる。
意図が読めない。
だが。
物陰に潜む者たちにとっては、その一瞬、それだけ、気が逸れてくれればよかった。
いきなり。
カケイの目の前に。
それは、現われた。
仮面。
すぐそこの茂みから飛び出してきた。そこまでは分かった。
分からないのは。
ラルバと、そして呪術的にも気配を読むことは達人と言っていいはずのカケイが。
すぐそこにいたはずのそれに、気づかなかったこと。
まるで、消えていたかのように。
自分と同等以上の、風の呪術による、隠身――
カケイからすれば、想像もつかないその事実が、そして、先月負ったわき腹の怪我、それらが――その後の反応をほんの少しだけ遅らせる。
懐に、潜り込むように体当たりを食らって。
もつれ込み。
それを狙ったのか――黒神石が、転がり出る。
仮面は、それを拾う。
と、背を向け……そのまま、驚異的な速度で逃げ出した。
だがカケイも逃がすまいと、呪術を発動させる。
カマイタチが、その背を襲う。激しく切りつける。
血が、舞い散る――が、無視して仮面は走る。その詠唱と発動も、少し遅かったかもしれない。やはり、怪我が影響しているのだろうか。
時間にして、数分もあっただろうか。もっと短かったかもしれない。
その間、もちろんラルバもただ黙ってみていたわけではなかった。
最初の仮面に呼応するようにして。
カケイの助けに向かおうとしたラルバの前にももう一人が、飛び出してきた。
「こっちだ!」
と、叫びながら。
しかし。
その気配絶ちの見事さに反して、こちらの動きは素人もいいところだった。
立ちふさがるようにしたその影を気にせず突っ込むと、避けようかどうしようか慌てる様が見て取れた。
そのまま、吹っ飛ばそうとしたとき。
ラルバの優れた動体視力が、相手の顔を捉えた。
ぶつかる手前で、急停止する。
見覚えがあった。あまり、話したことは無いが――山の一族ではない。
湖の部族の――女だ。
確か、名は、ヴィーダ。
なぜ、こんなところに――カケイが仮面にしたのと同じく、その一瞬の硬直が、隙を生んだ。
石を奪い走り出した仮面が、ヴィーダを抱えてそのまま消え去る。
風の呪術を使っているのか――恐ろしい速さで。
慌ててカケイ、ラルバも追うが……再び、隠身を使われたのか。
日が沈んでも、二人は探し続ける。
しかし、その姿は、どうしても、見つけることができなかった。
これでは、社へ行くどころではない――二人は見つからない。
夜を徹し、次の日までも探し続けた二人だったが。
見つけられたのは、社への道を上がってきた、集落から来たという山の一族の者だった。
そして、彼は二人に告げる。
ケセラが、亡くなったと。すぐに戻ってくるようにと、アイリとオントが言っていると。
二人は急ぎ、集落へ戻るのだった。
* * *
次の日の朝。
会談へ向かった一団の。
その中で――オントだけが、集落へと戻った。
しかも、軽く怪我をして。
当然のごとく、騒ぎになった。
島外の者たちに何かされたのでは、と皆が色めき立った。
しかし、オントはそれを否定する。そうではない、と。
「……帰り道に、仮面の一団に襲われた。幸いにも俺は何とか逃げ出したが……ケセラ様とアガタは……すぐに捜索に、人をやってくれ」
テセラとアイリに、すぐに手配を促す。
二人は、それぞれ湖の部族内、山の一族内で人を募り、冬の中でも探索をすることができる体力のあるもの十数人がすぐに捜索に出た。
また、社へ向かってしまったというカケイを呼び戻すためにも人がやられる。
そして、夜を迎える前には。
探索に出ていた山の一族の一人が、ケセラの亡骸を見つけ、集落に運び込んでいた。
見つけたときには、既に――冷たくなり、雪に埋もれかけていたという。
発見できたのは、偶然としか言うほかないということだった。
アガタの方は、今だ見つかっていない。
さらには――戻ってきたカケイと、同行していたラルバから。
仮面の一人と、そしてなんと……ヴィーダ・ナ・パリドからの襲撃を受け、不意を突かれ黒神石を奪われたと、伝えられる。
マユラの考えた、臭いのついた液体も……カケイが持ち運ぶ前には洗浄してしまっていたので、効果はなかった。
集落は――重く、騒然となった。
とにもかくにもその夕方。
オントの家に、主だった者が集まった。
オント、アイリ、テセラ、そしてカケイ。
他にも――家の外にはかなりの人が集まっていた。カレン・ル・ジィネなども、祭具の行方が気になり見に来ている。
「……儀式の手順は、私が知っています。次代の世話役として、何かあったときのためにと、全て教えられてきました。そして……」
アイリが厳かに口を開き。
懐から、何かを取り出す。
ことん、と音がして、それは机の上に置かれた。
円盤状の、金属。
「さっきから、気づいてはいたが……それを――銀鏡を、どうしたんだ」
カケイの声が鋭くなる。
そこにいた他の二人から、動揺とも、驚きともつかぬ声があがる。
銀鏡――祭具の一つである。盗まれたはずのもの。
「私と、ケセラ様だけの秘密でした。元々祭具のうち、銀鏡は盗まれていなかったのです。当初から、内部犯行を私は疑っていました。そこでケセラ様に相談して、隠しておいたのです。呪力の発散を隠すようにして」
「……私にも、隠してか」
カケイの声が、いつもに増して低い。
いまだ、不信感が消えない……上に、押し殺してはいるものの、母親を失った悲しみと怒り、そういったものが滲み出ているのが、誰からも分かった。その場にいることができなかった、自責の念――そういったものもあるのだろう。
「まあまあ、内輪もめしてもしかたないじゃないですか。相手が違うかと。生贄ってのは私としてもあんまりいいものだとは思わないけど、彼らのやり方も好きになれないし。目的のためだからってあんなに人を傷つけるなんて絶対間違ってると思うもの。これ以上は誰も傷つけさせたくない……」
テセラが間に入り、思いのたけを語る。
そう、相手はこの場にいる人間ではない。残りの祭具――黒神石と紅玉の短刀――これらを取り戻さねばならないからだ。
だからと言って、具体的な手があるわけではない。
とりあえずは、山の一族の者も信頼はおけない。
シャナを護ること。そして相手の狙いがまだ銀鏡にあるのなら、これを取られぬようにすると同時に、奪いに来るその時こそがチャンスであること。
それらが確認され。
シャナにはカケイが。そして鏡にはアイリが。それぞれ信頼のおける手勢だけを連れて、集落の別の場所で守ることになった。固まって守っても良かったのだが――相手のこれまでの手勢の使い方からして、それほど人数がいるとは思えない。分散させられるのなら、させようという作戦だった。
* * *
同じ日の、その後。
襲撃に巻き込まれた上に怪我をして帰ってきたオントだったが、彼だけは儀式のことだけで手一杯になるわけにはいかなかった。
本来、主となるはずなのは会談の結果である。
オントの家では、ラルバと、付き添いとしてマユラ、ルビイが待っていた。
ラルバのことだけではない。他に忘れてはならない、ルビイはもう一つ、ホームステイのこともあった。
テセラを連れて、オントが戻る。
「お疲れ様です。ほんとうに……無事で良かったです……」
事情は聞いていたのだろう。半べそをかきながら、ルビイがオントのその分厚い胸に飛び込むように身体を預ける。
それをゆっくりと離すと、オントはルビイの頭を撫でた。
「大丈夫だ。幸いにも、大した怪我じゃない。相手のやつらの狙いは、俺じゃないようだしな」
「応急処置などはしてあるのでしょうけど……怪我、見せてください」
オントの言葉を途中でさえぎるようにして、マユラが近づく。おとなしく座り、怪我を見てもらうオント。
手当てをしながら、報告をすることになった。
「まず……ラルバ・ケイジ。改めて、今まですまなかった」
頭を下げる。
「結果から言えば……もう、いつでも、好きなときに、あちらの村へ戻ってもらって構わない。これまで、本当に迷惑をかけた。向こうの代表者にも、散々に言われたよ。巻き込んだ上に、手伝いまでしてもらったことになるしな……本当に、悪かった」
もう一度、深く、頭を下げる。手当てをするマユラが、終わるまでは動かないで、とたしなめるが、それでも頭をあげない。
「……もう、いい。正直あんたや、亡くなったというあの老婆には言いたいこともある。だが……ここにいるマユラたちには世話になった。だから、これ以上は……言わん」
すまない、ありがとう、と、頭を下げたまま再びオントは言い、そして、村へ戻る際には数名の案内と荷物運びもつけ、また、精一杯の謝罪として食料など、もてるだけの、できるだけのものを渡すと約束した。戻る日付も、自分で決めてくれればいいと。
それについては、ラルバは即答しなかった。
だが、少しでも早くと思っているのは間違いないようだった。
「それと……これを預かってきた。妹さんからだそうだ」
最後に、オントはラルバに手紙を渡す。
それを受け取るラルバ。
表書きを見て、表情が変わる。顔には一刻も早く中を見たい様があふれ出ていた。
だが、それを我慢するかのように懐へしまうと、オントを見送る。後でゆっくりと読むのだろう。
次に。
「ほ、ホームステイは、どうなりました?」
しばらくどちらからも言葉が出ないのを見て、ルビイがたまりかねたように口を開いた。
「……あれな。一応、話はまとまった。希望者があれば、来月後半に5日前後滞在で、保護者としての大人と、数名の子供。それで、子供の定義は15歳未満ということになった。だが……どうも向こうからの希望者はあてにできないようだ。こっちは……仮面、のことやら儀式のこともあるからな……子供を出すには、親も不安がるだろう。ただその辺りが解決すれば、希望者も増えるだろう、と向こうの代表者も言っていたな」
すまなさそうに、言う。
ただ、進んでいることは間違いない。
ルビイも、自分の進行状況を報告する。同じく中々手を上げる人間は少ないが、それでもこちらは数世帯の受け入れ先の賛同は得られたと。後はこちら側から向かう人間を募るだけだと。
それら報告を聞いて、しばらく考え込んだ後。
「……そうだな。今後のこの件についてだが――俺も普段のことや、山の一族の儀式のことが相当慌しくなりそうだ。これについては、ルビイ、お前に任せたいと思う。ただ……向こうとやりとりする際に、ルビイでは年齢的に軽く見られることがあるだろう。そういうときは、テセラ、代わりに代表をお願いできるか。そろそろ、こっちの集落内の揉め事は少なくなっているだろうし、山の一族関連のことは俺が面倒を見る。実際のとりまとめはルビイに任せて、名前だけの代表としてテセラ、でもいい」
オントはルビイに語りつつ、テセラの方にも目を向ける。
引き受けるかどうかは、テセラに任せられた。
山の一族の儀式についてのこともあるが、こちらも、大事な段階に入ってきているようだった。
* * *
「お忙しいところすいません、アイリさん、お話しがあるのです」
オントが自宅でルビイ、マユラたちに会談の報告をしているころ。
世話役として儀式の準備を任されることになり、仮面の者対策も含め一気に忙しくなったアイリに声をかける者がいた。
幼い声だ。
見ると、小さな女の子。
と、その後ろに立つ、金髪碧眼の元気の良さそうな青年。
メルフェニ・ミ・エレレトと、アルファード・セドリックだった。アルファードは以前にあった仮面関連の事件の折に怪我をして以来、例外的にこちらの集落への出入りを許されていた。メルフェニとも、その事件の折に知り合っている。
そして今こうして声をかけたのも、その事件と深い関わりがあるのだった。
「うーん、知ってるだろうけど、今かなり忙しいんで、後にしてもらえないかな……」
困ったような顔をするアイリ。まあ、当然だろう。
「ちょっとだけで、いいんです……その、アイリさんの持ってる綺麗な石についてなんですけど」
なんとか少しでもと、メルフェニは食い下がった。珍しいことである。やはり、アルファードがついてくれて、一人ではないというのが大きいのだろうか。
「ん、これ……これは、山の一族の証、みたいなものかなあ。どうしたの?」
歩いていこうとしたアイリが、立ち止まる。
「少し小さいですけどそっくりな石、わたしも持ってるのです」
アイリの問いに答えて、懐から、先月拾った石を見せた。
表情が、変わった。
いや、変わった、というより――止まった。
「それを、どこで……いえ、ゆっくり話を聞くわ。家に来て」
促され、二人はアイリの後をついていく。
招かれた場所は、ケセラの元々住んでいたところだった。
部屋に通される。
「で、どこで拾ったのかしら」
逆に問いただすアイリ。
「仮面の人たちに襲われたとき……その近くで拾ったんです。たぶん、仮面の人たちがつけていたんじゃないかなって」
そう言うと、アイリは今度は苦虫を噛み潰したような顔をした。腕を組む。
「仕方ないわね……これはあまり公にはしてないのだけれど、『仮面』の一団の中には……私たち山の一族の、裏切り者がいたのよ。困ったことにね……それが、貴方たちを襲った人間の中にもいたのね。ごめんなさいね……」
深く頭を下げるアイリ。その上で、その石は渡してくれないかな? と聞いてくる。
メルフェニは頭を振った。
石を、胸の前で、両手で強く握り締める。
アイリを見上げる。
しばらく見詰め合ったあと。
深くため息をついたのは、アイリのほうだった。
「まあ、仕方ないわね、それは、あげるわ。大事にするのね」
そう、言う。
じゃあ、話は終わりね? とアイリが告げるが――。
「オレっちからも質問があるっス。この際だから、答えてくれないかっス」
アルファードが、割って入る。
もう一度、アイリはため息をつき、立ち上がろうとした腰を再び降ろした。
「あんた達山の一族は『ア・クシャス』を神と崇めてるみたいっスけど、本当に神なのか?生贄を捧げなくてはいけなくなった発端とかはあるんスか? 何も原因が無いのに昔から続いていると言うだけで1人の少女を捧げるのはどうかと思うっス」
いきなり、過激な発言だった。
やれやれ、といった表情だったアイリの顔が強張っていくのが分かる。
「今まで何人もの生贄を出して、部族内の軋みは無いのか? 悔しい、悲しいと思った家族が『仮面の集団』と化した、ってことも可能性としてはあるんじゃないっスか?」
それでも、分かってか分からずでか、アルファードはなおも続けた。
「神だというのなら、その証拠を見せて欲しいっス」
そこで、一息つく。言いたいことはだいたい言ったらしい。
「唐突で……一方的ね。『仮面』とのことで、巻き込んでしまったことは謝るわ。でも、基本的に儀式の意義については、私たち一族の中のこと。それに、私達が神と言おうが、貴方がそれを化け物と言おうが、ア・クシャスの存在は、力は何も変わらないわ。見方が違うだけね。私達にとって、ア・クシャスが畏敬の対象である、それも変わらないわね」
平静な論調だった。思うところ、感情はあるのかもしれないが、それは抑えているのだろう。
「それと。『契りの娘』は、一族の中でも決まった家系からしか産まれないわ。私も同じ家系だったんだけど、産まれたのが早かったから、選ばれなかった。選ばれた子供は、産まれたときから身体に『徴』を持っていて、呪術の潜在能力も段違いに高いのね。だから、家族が、ってのはまずないわね」
それを聞いてアルファードが再度口を開こうとするが、それをさえぎってアイリは続ける。
「来月の儀式、社まで来てみれば、貴方もきっとア・クシャスのその気配くらいは見えるわよ。たぶんね――それに、集落にいるから気づいてないかもしれないけれど、最近、また水位が上がってきてる。吹雪の日も多くなってきた。二十年前の記録では、地震が頻発したりもあったそうよ。儀式が近づくにつれ異常なことが増えていって。儀式が終わると、落ち着いたそうよ。ア・クシャスがこの島を洪水から護ってくれていて、そして、儀式が近づいているから、力が不安定になっているから水位もあがってる。説明には、なっていないかしら?」
話は、今度こそそこで打ち切られる。忙しいのでこれ以上の時間は割けないということで、家を追い出された。
後日、アルファードはどうしても気になり、海岸まで出てみた。
以前に海岸を見た記憶も曖昧だったので、はっきりとは言えないが――そんな覚えのアルファードが分かるほどに、確かに、水位は上がっているように見えたのだった。
* * *
一晩が――過ぎた。
朝を迎えて。
再び――事態は急転していた。
夜に、鏡を奪いに来たところを返り討ちにあい――二人の人間が拘束されたとの報が、集落中に流れる。
それは。
仮面をつけた男。
そして、ヴィーダ・ナ・パリドだった。
さらに。
奪われた黒神石と、そして紅玉の短刀が戻ったと報告される。
アイリと、その配下の者たちがいる中。
罠を仕掛け、鏡を狙ってきたものの。
あえなく、捕らえれたということだった。
そして仮面の男が短刀を所持しており、ヴィーダは捕らえられた後、最初は白を切ったものの、最後には黒神石の場所を吐いたということだった。
珍しく、晴れた朝。
集落の、アイリ、シャナが住んでいる――もともとケセラが住んでいた家の前に、二人が縛られた状態で座らされていた。
必然的に、人が次々と集まってくる。
二人とも縛られたまま、うつ伏せになって、身動きもしない。
撃退されたときにか、それとも石の在り処を吐かせるためだったのか、既に意識がない状態のようだった。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 意識がないからって、近づいては、危険……あっ」
と。
声がして。
扉が開いたままの家の中から、一人、飛び出してくる者がいた。
ヴィーダに駆け寄り、助け起こすようにする。
止める声を上げたのは、アイリだった。
そして、助け起こそうとしているのは――『契りの娘』シャナ、だった。
制止を振り切ったらしい。
「嘘よ! ヴィーダが、仮面の一団を束ねてたとか、裏で糸を引いてた、とか! ヴィーダはそんなことしない。例え私のためだったとしても、それで色んな人を傷つけるなんて……こんな、ひどい」
そして、縄をほどこうとする。
「止めさせなさいっ、怪我は、させないようにね」
アイリが一族の者たちに命令して、シャナをヴィーダから引き剥がす。
「離しなさいっ、私は、ヴィーダ、をっ!」
シャナが、途切れがちに、涙をにじませながら悲痛に叫んだ。
周囲を取り囲む人々は、雰囲気に呑まれているのか、ただ無言で、誰も口を出さない。
「シャナ様。もう、時間もあまりありません。これから、社へ向かっていただき、一週間後には儀式のための清めに入っていただかないと。ささ、支度を」
アイリに諭されるが、なおも叫び続ける。
ヴィーダの名を、呼び続ける。
両腕を押さえつけられるようにして、彼女は家の中へ戻されていった。
一方、もう一人は……
今の騒ぎで意識が戻ったのか、ゆっくりと……腕が使えないので、転がるようにして半身を起こす。
現われたその顔は――先ほど家の中に消えたばかりの、シャナだった。
いや、よく見ると、違う。少し精悍な顔つきで、確かに――男だった。
だが、殴られたのか、腫れ、汚れているものの――そっくりなのは、誰が見ても間違いない。
起き上がったのを見て、アイリが近づき、男を見下ろす。
「オン……、きさ、まッ!」
まだ視界がはっきりしないのか、アイリを見上げて、男は、そう言った。
その直後に。
アイリが、手にした棒のようなもので男をたたきつける。
男は再び意識を失ったのか、崩れ落ちた。
そして、アイリの手のものによってこちらも連れていかれる。
家の中に消えた後。
アイリが、周囲に説明した。
全ては、ヴィーダと、今の男の率いていた仮面の一団の仕業だったと。祭具は全て戻り、首謀者を失った仮面の者たちは、もう災いを起こすことはないだろう、と。
儀式はこれから一週間後、シャナが社の奥の間にて清めに入るところから始まり。
数週の間に渡り『契りの娘』シャナは、奥の間にて過ごす。
そして、来月の終わりごろに、本祀――ア・クシャスとの交わり、そして『契りの娘』がア・クシャスに捧げられ、終わるということだった。
儀式の際は社の中には入れないものの、社の周辺までは立ち入ることが誰にでも許されるという。二十年前も、社の周辺で祈りを捧げる島の民が多数集まったということだった。
* * *
そんなことがあって、さらに数日の後。
あまりに事件が急転直下の事態を迎え、そちらに気が回っていたが――もう一人、行方不明になっていた男、アガタ。
彼が、集落へ帰りついた。
しかし。
アガタは、集落へ到着直後に倒れ、意識を失う。
すぐに診療所へ運ばれたが、さらに数日の間、意識はもどらなかった。
べったりと肩に血を帯びていたが、本人のものではないようだった。
ひどい怪我はなかったが、あちこちに軽傷を負っている。ただ、意識がなくなったのは怪我のせいではないようだった。
極度の疲労――のようだった。
RAリスト(及び条件)
・a5-01:儀式を見に行く/儀式を邪魔する/その他、山の一族に関わる
・a5-02:島外の難民と交渉・応対をする。(湖の集落にて)
・a5-03:島外の難民と交渉・応対をする。(難民側村にて)
・a5-04:ホームステイに参加・準備等、関連した行動を起こす
・a5-05:その他集落内部で何かする。
・a5-06:その他集落外部で何かする。
※マスターより
こんにちは、鈴鹿です。
次回は、山場です。正念場です。
儀式は、次回の終盤、来月の終わり頃に本祀といわれる、本番――ア・クシャスの召喚と生贄の儀式が行われます。
祭具はそろいました。
次回冒頭では既にシャナは社の中で清めに入り、篭もっている状態です。
ヴィーダ、及びともに捕らえられたシャナにそっくりな元・仮面の男は、ケセラに元々貸し出された家にて拘束されています。
祭具を狙った、その真意を吐くまでは処刑等はないようで、儀式に入りアイリも忙しいため、そのままになるようです。
またホームステイに関してですが、本文中にあるとおり、まずは来月終わりに最初のホームステイが行われます。集落、相手の村ともに、現状で具体的な参加者はまだ決まっていない状態です。
その他、今回は特殊な状況下にて終わるPCが多くなっています。
次回行動に制限が加わる場合がありますので、個別リアクションがある場合はそのリアクションのマスターよりを、また、リアクション発行時のメールにも注意点等がありますので、しっかりとチェックした上で次回行動をお願いいたします。
それでは、次回もどうぞよろしくお願いいたします。