アトラ・ハシス

第六回リアクション

『研究所にて』

川岸満里亜


 結果的に儀式に立ち会ったシャオ・フェイティンから、村長レイニ・アルザラに報告があり、その報告書は、レイニの手から、魔法学者――ホラロ・エラリデン、オリン・ギフトの両名に渡された。
「私達の推論はそこそこ当たっていたということですかねぇ〜」
 ホラロは興味深げに報告書を眺める。
「力を制御するために意思か……魔力制御装置の仕組みと同じようなものなのでは?」
 それならば、犠牲が出かねない方法ではなく、もっと安全で確実な方法があるはずだ、とオリンは考える。
「しかし、管理している方々との関係が悪化してしまいましたからねぇ。それこそ制圧しないかぎり、こちらが干渉することはできないでしょう。一応レイニさんに、社一帯の領土獲得と魔力の吹き溜まりの管理権の取得に動いてくれと話しておきましょうかー」
「却下! って言われるだろうな……」
 ホラロが執務室から追い返される姿が目に浮かび、思わず笑みがこぼれる。既に毎度のことだ。
「さて、山も無事残ったことですし、またリィムさんに探索に出てもらい、大きな鉱石を発掘してもらいませんと!」
 ホラロの元に残った鉱石はほんの僅かな欠片だけだった。これでも、微量の魔法薬くらいは作れるが、魔法具となると、この程度では試作もできない。しかし、自ら探索に行く気は全くないらしい。ひとえに、面倒だから! という理由だろう。
「それまでは、魔法薬の研究に勤しみましょうかねぇ〜。オリンさん、惚れ薬の作り方、教えてくださいよ〜。使ったんでしょ、あの子に〜」
「惚れ薬? 調合法はわからなくもないが、使ったことはないぞ?」
「いやいやいやいや、隠さなくてもいいんですよぉ。学園卒業したての若い子と結婚するんでしょ? 惚れ薬で落としたんでしょ? 給食に混ぜて〜」
 アリンとの婚約はホラロにまで知られているらしい。
 オリンは苦笑する。お前と一緒にするな、と言いたい!
「材料と作り方教えてくださいよー。魔法薬は一般の薬の効果を魔力で飛躍的に高めるものですから、元となる薬の調合法が分らないと作れないんですよ〜」
「誰に使う気だ。学園の生徒達に手を出そうというのなら……」
「いえいえ、いくら私でも、成長期の子供に魔法薬なんて飲ませたりしませんよー。ちょっと言う事を聞かせたい女性がいましてね。子供に手を出すなとかー、生活に役立つ魔法具製造じゃないと手伝いませんとかー、そういう身勝手な我侭を言う娘に手を焼いているんですよ〜」
 その娘が誰であるかは、オリンにも容易に見当がつく。
「若返りの薬を開発するんじゃなかったのか?」
「それももちろん、進めますー! いやあ、オリンさんが手伝ってくれるのなら、案外早く完成するかもしれませんねぇ〜」
 洪水対策の為、研究機材が急いで取り揃えられていた。
 既に、大まかな必需品はそろっている。
 ホラロやオリンの知識を文書にまとめつつ、研究を進めていくだけだ。
 若返りの薬の開発に関しては、興味本位からか、オリンも協力を申し出ていた。
「そしたら、リィムさんには、ずっと若いままでいてもらいましょうかねー。子供を毎年産んでもらわないと〜」
 にたにたと気持ち悪い笑みを浮かべるホラロ。
「毎年はキツイだろう」
 オリンは素で返す。
「強力な惚れ薬を使って、言い包めますよぅ〜」
「あ〜……ちょっと、お二人さん」
 ホラロとオリンの有益な論議に口を挟む者がいた。
「私がいること、忘れてません?」
 にっこりと笑ったその女性は、リィム・フェスタス本人だった。
 正式に助手なったわけではないが、こうして勉強に通っているのだ。
「忘れてませんよ。わざとリィムさんの前で言ってるんですからー」
「ははははは……」
 リィムは力なく笑う。さすがに素敵な根性だ。
 もう慣れた。慣れたけれ〜ど、惚れ薬を飲まされるわけにはいかないッ。
「オリンさん」
 再びにっこりと笑う。
 ホラロには言っても無駄だと分っているので、こちらの理知的な男性を攻略せねばならない。
「惚れ薬なんて、作りませんよね。そのような開発に協力していることを知ったら、可愛い奥さんがとても悲しむと思います」
 さも悲しげな瞳で訴えてみる。
 オリンの作業の手が止まる。しばらく沈黙。
「……さて、病室の巡回の時間だ。今日はこれで〜」
「あああ、オリンさん〜っ」
 オリン・ギフトは手早く片付けをすると、荷物をまとめ、さっさと帰ってしまった。
「惚れ薬の作り方、明日は教えてくださいねぇぇ〜!」
 ホラロの声がむなしく響き渡る。
「愛されてますねー。アリンさん」
 少し羨ましげに、オリンが消えたドアを見つめる、リィム。
「私も愛してますよ、リィムさん(のまだ見ぬ子供を)」
「はいはい、触らないでくださいね」
 肩に触れたホラロの手の甲をぎゅぅぅっとつねって、リィムは席に着く。
「さ、ホラロ先生。次の講義をお願いします」
 魔力増幅装置の使用法等、まだまだ聞きたいことは沢山ある。
 扱い方が分れば、この男と付き合うのも、そう苦痛ではない。
「えーとなんの講義でしたっけ、正しい子供の産み分け方、でしたっけ?」
 ……かなりウザくはあるが。

※このリアクションは以下のPCに発行されています。
オリン・ギフト
リィム・フェスタス