川岸満里亜/鈴鹿高丸
「断罪の時だ、お前も……俺も……!」
死で、全ての罪が許されるわけではない。
死をもってしても許されぬ罪はある。
消えた命は幾多であろうか。
たった2つの命で償えるものではない。
もっと早くに。
いくらでも、方法はあったはずだ。
保守と革新。
何も疑わずに、ただ、生を紡ぐことはいとも容易い。
疑ってしまえば、疑心は止め処もなく溢れ、やがて欲望と混ざり、歯止めを無くす。
一族をそうさせてしまったのは、俺の罪だとするならば、お前はなんだ、オント。
一族ではない、お前は何故に――。
最早、遅い。
お前の弁明は、別世界で聞くことになるだろう。
お前は、きっと……。
隠して、生きてきた。
素顔を隠し、仮面を被り、生きてきた。
俺は……今まで気づくことができなかった。
あえて、気づこうとしなかったのかもしれない。
避けていたのかもしれない。
儀式という呪縛に翻弄させれながら。
ならば、ここで共に潰えるのは、運命か――。
「しっかりするウガ!」
もう、何も見えない。
だが、声の主は分かる。
カケイ・ア・ロウンは、何も映さない瞳を、声の方向へ向ける。
そこには、セイル・ラ・フォーリーがいるはずだ。
「守った、か?」
「あの子なら無事ウガ! この村の人々も無事ウガ!」
「そう、か……」
もう一つ、気配を感じる。
「身体がちぎれ……」
聞き覚えのない声だ。
「ここの人か」
「そうッス。俺っちは、化け物を倒そうとして……あんたに助けられた男ッス。しっかりするッス……」
アルファード・セドリックは、四肢の殆どを失い、臓器さえ見えるほどの深手を負ったカケイに……なんと言葉をかけたらいいのか、分からなかった。カケイの残された右手を握る。
「社へ……短刀を、届けてくれ。セイル、島の盾……となれ。全ての命を……。そして、一言だけ……伝えてくれないか……シャナに……俺の分まで、生きてくれと……幸せになってくれと……気持ちを、分かってやれなくて、すまないと……」
「分かったッス」
「任せるウガ!」
その声は果たしてカケイの耳に……脳に、届いたのだろうか。
その、無残な身体は目に映っているだけで、胃が……心が張り裂けそうになる。
セイルはカケイの見開かれた目を、閉じさせる。
「任せるウガ……」
もう一度、言葉を繰り返す。
「あんたの想い、必ず伝えるッス。この身体、朽ち果てようとも……」
アルファードは、焼け爛れた身体を奮い起こす。
手には、何も言わずにカケイから渡された指輪があった。不思議な力を感じる。身体に少しずつ体力が戻ってくるような。
「時間がない……ウガ。社に戻るウガ! 全ての命を守るウガ」
周囲を見回し、オントの左腕……短刀を見つけ出す。
アルファードは一歩一歩、そちらへ。
セイルは――服を脱ぎカケイの亡骸に被せた後、アルファードの後に続く。
オントの方は既に――その左腕以外、人としての原型をとどめている状態ではなかった。内部からの魔力の暴走と、外部からの魔力の衝撃に、身体が耐えられず、四散していた。
短刀と一体となっていたその左腕は、うつぶせに、地に伏せ――土をかきむしるように、何かを掴み取ろうとしているかのように見えた。
それが、皆に親しまれ、敬愛されていたはずの――オントの最期だった。
「こんなことが……あんたの望むことだったのかウガ……?」
セイルが、誰にとではなく、呟く。
「……きっと、何が望みなのか……分からなくなっていたんだろう……死ぬのが怖い、失うのが怖い……力が欲しい、永遠の命が欲しい……失ったものを取り戻したい……その気持ちは、誰にでもあるだろうが……だからと言って、理解できるものではないな……」
シャオが、それに答えるかのように語った。
今となっては、オントの心情は計り知れないが――シャオのその台詞は、アルファードとセイルの心の中に、妙に深く――棘が刺さったかのように――残るのだった。
※このリアクションは以下のPCに発行されています。
セイル・ラ・フォーリー
アルファード・セドリック