川岸満里亜
子供達の姿は微笑ましかった。
沈みそうな気分を、輝く笑顔が浮かせてくれる。
自分……テセラ・ナ・ウィルト自身も、難民村の人々とそれぞれの生活についての話をしながら、天候の回復を――儀式が無事終了することを、願って待っていた。
「テセラさん!」
突然、大きな声で名を呼ばれて、反射で弾かれたように立ち上がり、振り向く。
声の主は、ラルバ・ケイジだった。湖の集落で長く軟禁されていた難民の青年――。
「ちょっと、こちらへ」
テセラの手をとって、ラルバは会議室の外へ、彼女を連れ出した。
湖の集落で、何が起きているのか……仮面の集団を統率しているのが誰なのか、テセラは大体のところを知っていた。
難民村がその人物により、狙われていることも。だからこそ、自分が子供達についてきたのだ。
何も起こらずに、この計画が滞りなく終わるように。
ラルバは、テセラに経緯と現在の事態について、語った。
巨大なエネルギーをもった生命体が社から村に近付いていると。
もしや……族長。
二人は同じ人物を脳裏に浮かべる。
儀式を乗っ取ろうとしていた人物。ア・クシャスの力でも手に入れたというのだろうか。
「確認に行きます」
その考えが正しければ、自分達の問題だ。こちらの村に被害を及ぼすわけにはいかない。
テセラとて、皆を纏める立場にある者。まだ、族長ほどの人望はないけれど、湖の集落の為に、皆をまとめ、精を尽くしてきた。
ラルバと共に、外へ出る。
役場棟を離れると、雨の勢いが強くなった。
食堂の脇を走りぬけ、門が見える位置に着く。
ラルバがテセラの手を引き、門付近の家影に隠れる。
「信じられない……なんて、力だ……」
魔力が殆どないテセラには感じられなかったが、ラルバは、痛いほど精神に衝撃を感じていた。
雨の音に混ざり、幾人もの足音が響く。
テセラは、見た。
数人の仮面の人物が、村を取り囲んでいく様子を。
その中心の人物の姿を……。
目は尋常でなくぎらつき、とこどころ膨れ上がるように、張り裂けんばかりに筋肉が膨らみ、血管が蛇のように浮き出ている――異形の生き物。
それは、族長と呼んでいた人物、だ。
信じられない光景に、固まっていたテセラと、族長の瞳が重なり合った。
――彼は笑ったような気がした。
「危ないッ!」
ラルバの叫び声が聞こえ、彼に力強く引き寄せられた瞬間。
眩しい光と共に、激しい爆音が鳴り響いた。身体に何かがぶつかる衝撃を受けかがら、抱えられたまま、地面に投げ出される。
動けずにいるテセラを抱き上げ、ラルバは建物の影に隠れた。
激しい雨が、一瞬上がった火を消し去った。
「大丈夫か?」
ラルバの問いに何も答えられなかった。
テセラを抱きかかえたまま、ラルバは慎重に身を隠しながら、役場棟の裏口へと着く。
「理性を失っているのか……。もともと、そういう人物だったのか……ッ」
テセラを下ろしたラルバは、呻くように呟いた。
儀式は失敗したのだろうか。
それなら、今、湖の集落はどうなっているというのだろう。人々は無事だろうか。
「族長、あなたは一体……」
雨の冷たさを感じないほどに、テセラの鼓動は高鳴り、身体は熱く……それなのに、震えていた。
※このリアクションは以下のPCに発行されています。
テセラ・ナ・ウィルト