川岸満里亜
湖の部族との代表会談終了後、セルジオ・ラーゲルレーヴは村長執務室に呼ばれた。
そこには、随分と親しくなったミコナ・ケイジの姿もあり、彼女と今日の出来事など、他愛ない話をした。昔からの友達のように、二人の会話は弾んだ。
ミコナは今日、もてなしの食事の手伝いなど、非常に忙しく走り回っていたらしい。
でも、彼女の専らの話題は、兄のことであった。
兄が戻ってくるという話を、先に村長より知らされたらしい。
その顔は上気しており、見たことも無いほど、輝いていた。
しかし……彼女のその輝いた笑顔が見られたのは、村長レイニ・アルザラから衝撃的な話を聞かされるまでの、僅かな間だった。
島が危機に瀕していること。
先住民の儀式が、島を救ってくれるであろうこと。
もし、儀式が失敗した場合は、魔法の力で災厄を防がなければならないこと……。
それらは、俄かには信じがたい話であった。
だけれども、本当のことなのだろうと、受け入れることができた。
自分達は、あの洪水を体験しているから……。
そして、たとえ災厄が起きても、自分達には助かる手段があることに安心できた。
帰り道。
雪の舞い散る夜道を、ミコナと歩いた。
何も言わない彼女が、心配になって。
セルジオは、努めて明るく、声をかけた。
「大丈夫ですよ。今までずっとそうやって彼等は島を守ってきてくださったんですから。今回だけ、失敗するなんてことありませんよ。もしもの時だって、僕たちには回避する手段があるんですから!」
セルジオの言葉に、ミコナは少し、笑った。
ほんの少し笑顔を見せた後、語り始めたのだ。
「私……がやろうと思う。多分、今度は私の番」
何のことを言っているのだろうと、セルジオは首を傾げる。
「儀式関係なく、私が出来たらいいなって思うの。生贄となる人がいるなんて……おかしいわ。皆の為に死ぬために生まれてくるなんて、そんなこと、あるわけがない。人間なのに、人として生きられないなんて……。
洪水から助かった時に私思ったの。自分の番が来たら、きちんと自分の役目を全うしようって。皆が私達を助けてくれたように。私も逃げないで、皆の為に頑張ろうって。
生まれてきて、生きて、とても大切な人と過ごした時間があって。辛いこともあったけれど、いいことも、嬉しいことも沢山あった。今日集められた人達は、皆村に必要な人。出来ることを見つけたセルジオさんも。だけど私は……まだ、村の役には立てていないから。ただ、泣いていただけで、祈っていただけで、何も出来ていない、の。だから、これは私の役目なんだと思う。水魔法が一番適してるって話だし……」
もう一度、彼女は微笑んで。
少しだけ悲しげに微笑んで。
そして、セルジオに背を向けた。
さよなら、と。
「あ……」
彼女の心、全てを理解することはできなかった。
まだ、深くは彼女を知らないから。
だけども。
セルジオの脳裏に浮かぶ光景があった。
昔を、思い出す。
大切な親友といつもどおり別れた日のことを。
今では見ることもできない、親友の背を。
すうっと……
セルジオの目から、涙が落ちていた。
※このリアクションは以下のPCに発行されています。
セルジオ・ラーゲルレーヴ