アトラ・ハシス

第四回リアクション

『忠告』

川岸満里亜

 湖の集落から戻った橘・花梨は、報告と、同行してきた先住民の女性アルマ・ナ・ラグアの入村許可を得ようと、村長レイニ・アルザラの執務室を訪れた。
 花梨はアルマの事を、湖の集落で仲良くなった人物であり、狩りや食料採取の知識を教えてくれることを条件に同行を許可したのだと、説明をする。
「公式な訪問じゃないのよね?」
「ん、公式とか非公式とか関係なく、友人が遊びにきたって感じやな〜」
「それなら、帰ってもらいなさい」
 レイニの冷たい言葉に、唖然とする花梨。
「え? え、ちょっとまってや。護衛もしてくれたんやで? 今までだって、先住民が村ん中おったことあったし、なんで彼女はダメなん?」
「公式ではない訪問では、カタラさんだけ。彼はその行いから村人に受け入れられていたし、無害だと一見してわかったから、黙認していたのよ。今の先方との関係的に、友人感覚で来られては困るわ。それを許していたら、秩序が保てなくなる」
 大陸にいた頃も、入国許可というものが必要だったでしょ。とレイニは言う。
 村同士の関係だというのに、そういう堅苦しいモノが必要なんかなーと花梨は思い、食い下がる。
「でもな、ほら、向うの知識を教えてくれるってゆうてるし、こっちの為になると思うんや」
「花梨」
 レイニは静かに語った。
「あなたは村の交易担当者でしょ。そして、商売のプロよね? 考えてみて。確かに向うの知識を非公式に得ることは、こちらの為になるわ。ただ、それは向うの知識を秘密裏に盗むことにもなってしまう。もし、それをこちら側の民がやってしまったのなら? こちら側が出せるものは、殆どが技術。それを、個人的な友情や自分だけの利益の為に、先方に提供してしまったら。交易は成り立たなくなっていくわ。
 一般人が勝手に知識を交換しあうのなら、ともかく。交易のトップに立つ、あなたがそれをしてしまうのは……どうなのかしら? こちらは知識を提供し、対価を求め。向うの知識は対価なしで得てしまっていいの? 向うの交易代表に失礼じゃない? 確かにそれも阿漕な商売のやり方ではあるけれど……」
「ん……でもなあ……そんなに堅苦しく考えんでも、もっとざっくばらんに和気藹々とできへんもんかなぁ」
 そして、今回だけ。と花梨はレイニに頼み込む。次からは、向うの族長の許可を得てから来てもらうから、と。
 レイニは少し考え……真剣な面持ちで、花梨に言った。
「皆が皆、あなたのような気持ちでいれば、そういう関係を築いていけるのだけれど……。忠告しておくわ。今、この村は狙われているといっても過言ではない状態なの。誰とまでは言わないけれど……先住民のとある人物が、この村を乗っ取ろうとしている……とでも言っておくわ」
「の、乗っ取る!?」
 声が大きい! と、レイニは花梨の口をふさぐ。
「いい? 決して目立ってはダメ。今まで通り、友好的に。偉そうにしないこと。へりくだって相手と接していて。それだけ守っていれば、あなたが消されることはないから」
「け、けさ、消さ……!?」
 予想外の言葉の数々に、花梨は目を白黒させる。
「それから、来月の交易は半ばまでにして。半ば以降はあなたも、交易に携わる人達も湖の集落へは行かないこと。公式にやってきた人物を追い帰すことはできないけれど……出来れば、誰も連れてこないでほしいわ。一見友好的で、信頼ができそうで……こちらに来たいという人ほど、裏の目的を持っている可能性が高いから」
 そして、今回限り、花梨の家に私的訪問の先住民……アルマ・ナ・ラグアを泊めることを黙認する。とレイニは言った。但し、村の案内や、他場所に連れて行くことは控えてくれと。
「わかってちょうだい、花梨。そして、無理はしないでね。いつも通りのあなたでいれば、大丈夫だから。あなたの明るさと行動力に、皆助けられているのよ。ありがとう……」
 レイニは労うように、花梨の頭を撫でた。
 花梨の頭は混乱していた。
 外へ出て、冷たい空気を思い切り吸い込んで。
 何度も何度も深呼吸をしてから、門へと向った。

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橘・花梨