アトラ・ハシス

第四回リアクション

『切り捨てる覚悟』

川岸満里亜

「確かに私は、先住民を卑下していますが、なにも死んでしまえばいいなんて思ってはいないんですよー」
 代表会談終了後、報告を受けたオリン・ギフトとホラロ・エラリデンは研究所で討論を交わしていた。
「私達と彼等が共存し、ここで快適な暮らしをするためには、私達が彼等を指揮し、まとめてあげる必要がある、といっているだけでして。今回の件に関してでも、彼等が如何に無能であるか、良くわかったでしょ? 彼等に任せておいたのでは、何れ島は沈みます。私達が島の魔力エネルギーを分析し、管理してさしあげないと〜」
 ホラロの言うことは一理あるのかもしれない。
 しかし、話し合いで解決できるのなら、話し合いで解決していくべきであり、今回はその期間が短すぎたのだ。あと1年、儀式まで時間があったのなら、対策を講じることができたかもしれない。
 目の前のケースの中に、返却された魔力制御装置がある。
 この装置を使えば、再び洪水の脅威に晒されても、この村だけは犠牲を出さず、護ることができそうなのだが……。
「私だって、救えるのなら、救いたいのですー。如何に下賎であっても、命は命。見殺しにするなんて嫌ですよ〜。しかし、そのためにこの村から犠牲が出せますか? 彼らの問題は彼等自身で解決すべきです。その方法がちゃんとあるんですからー。余計な手助けをして、我々も全滅なんて事態は、避けなければなりません」
 わかってはいる。
 しかし、どうにかならないものかと、オリンは頭を悩ませる。
「ああそうだ。蛮族の儀式ですが、私は見学には行きませんよ〜」
 さらりと口から飛び出したホラロの言葉に、オリンは眉根を寄せた。
「しかし、実際に見てみなければ、魔力の流れがつかめないのでは?」
「そうですけど、もし、儀式が失敗し、災厄が起こったりしたら私の身が危ないじゃないですか! ほら、私はこの村で魔力制御装置の使用指導をしなければなりませんからー。オリンさんが魔力制御装置を使うのなら、指導はいらないでしょうけれど……村周辺しか護らないんでしょ? そしたら、儀式を見学していた私は助からないじゃないですか〜。
 ですから、見学はオリンさんに任せます。オリンさんじゃなくても、魔力が高く、知識が並にある方でしたら、流れくらいつかめるでしょう」
 身勝手とも思えるが、確かに彼にもしものことがあれば、研究が遅れてしまうのは事実だ。
「資料も機器も何もありませんから。魔力制御装置の構造を調整することくらいは1月以内にできますけれど、その他の魔法具の作成なんて、そう簡単にはできませんねぇ。儀式に使うという呪具や、契りの娘とやらを引き渡してくれるのなら、研究することもできたでしょうけれど。それでも、代替具完成まで数ヶ月は必要でしょうし〜。やはり今からでは遅いですねぇ。儀式は来月ですよ? 到底間に合いません」
「では、魔力制御装置自体が持つ力を最大限に使い、術者の負担を極力減らすことは?」
「この魔力制御装置自体はそんなに力を持っていませんよ。これを最大限に使うということは、魔力を最大限に集めるということで、そうなると、術者の負担は計り知れないものとなるわけですー。命を賭して、島全体を護るので精一杯かと」
 魔力制御装置で、島を護りつつ、研究をする……。
 つまり、効果が切れる度に、魔法能力者が装置を使い、災厄を抑えるということだ。根本的な解消ができる魔法具が完成するまでの間、ずっと。使用者を代え、魔力制御装置を連続使用することは可能なのだが、同じ場所での連続使用は先の効果が打ち消されるだけで、意味を成さない。
 ゆえに、島全体を護るならば、そのたびに、犠牲が出るということになる。先住民の儀式と違い、この装置で護れる期間は、数ヶ月から数年……術者次第だ。
「島全体を護るということになると、今度は私達が定期的に彼等に生贄の提供を求めることになりますよー。魔法堪能者という生贄を〜」
 一人の命と引き換えに、多くの生命が生きながらえる。
 それは先住民の儀式と同じだ。
 では、一人を犠牲にせず、皆滅びるべきなのか……?

※このリアクションは以下のPCに発行されています。
オリン・ギフト