アトラ・ハシス

第三回リアクション

『洞窟にて』

川岸満里亜

 ドン!
 激しい音と共に、ドアがぶち破られる。風魔法だ。
 同じ属性か、とシオンは身構える。自分と同等……それ以上の魔力のようだ。
 それでも普段の調子は崩さない。
「よう、外が恋しくなったのか? 大人しくしてねーと傷が開くぜ」
「……時間が迫っている……」
 シオンが聞く、初めてのまともな言葉だった。
 中性的な端麗な顔立ち……黒い瞳が揺らぐ。男は戸惑うようにシオンを見ていた。
「時間? おれ、お前の見張り頼まれてんだ。勝手に帰すわけ、いかねーんだよ。シャオ兄ちゃんが戻ってから、話しを聞かせてくれ。力になれるかもしれねぇぜ? ほら、身体の傷も癒えてねーんだし。もうすぐ医者が来るからよ!」
「…………」
 複雑な表情で、男はシオンを見下ろしていた。そして、
「急がねばならない」
 と、シオンの肩を押し、脇を通り抜ける。
 帰すわけにはいかないよな、やっぱ……。
 シオンは風を呼ぶ。洞窟の入り口から吹き付ける強風が男の行く手を阻む。
「っ……邪魔をするなら、容赦はしない」
 まるで、風が弾け飛んだかのようだった。
 シオンが起した風が、相殺される。そして、男の手が、風に煽られるシオンの細い首にかかった。
「くっ……」
 抵抗しようとした矢先、男の力が抜ける。
「世話になった。すまない……」
 突き飛ばすような風が、シオンを襲った。咄嗟に風を起し、受身を取る。
 男の姿は、洞窟の外へ向かい走っていた。
「な、名前は!」
 シオンはそう叫んでいた。
 男は一旦立ち止まり、振り返って言った。
「名は……無い」
 瞳が。
 その黒い瞳が揺らいでいた。
 そして、揺らぎを止めた瞳は、ただ一点を。
 鋭く空気を切り裂き、彼方を目指す。

※このリアクションは以下のPCに発行されています。
シオン・ポウロウニア