アトラ・ハシス

第二回リアクション

『尾行』

川岸満里亜

 マール・ティアウォーターとの尾行の他、シオン・ポウロウニアは独自でホラロ・エラリデンについて、調査をしていた。
 その結果、ホラロ・エラリデンという名前はそこそこ知られている名だということが分かった。大陸では魔法工学科学の第一人者であったらしい。しかし、それ以上の情報は入ってはこない。情報屋をやっていた自分が知らない人物なのだから、裏の世界で名を馳せていた人物でもなさそうだ。
 執務室での、説明はシオン達を子供扱いした簡単すぎる説明であり、シオンの好奇心を埋めることはできなかった。
 マールと別れてからが情報屋としての活動本番である。シオンは夜間、一人尾行を続けていた。

 ホラロは普段、夜間は役場棟の、割り当てられた部屋で過ごしている。
 外出することは殆どなく、何もつかめないまま、数日が過ぎる。
 そして、ある夜。
 ホラロはオリン・ギフトの診療室へと向かった。ドアの外からでは、殆ど会話が聞き取れない。シオンは慎重に診療室のドアを開け、足をしのばせ、待合室の長いすの下に身を潜ませる。

「……たら、私もあなたの仕事を、お手伝いしましょうか」
「医療知識があるのか?」
「いえいえ、医学の知識はありませんが、少々魔法学に通じてまして。魔法で治療を手伝って差し上げようかとねぇ」
 少々……いや、彼が、魔法学会で有名だったホラロ・エラリデンであるなら、少々というレベルではないはずだ。
「しかし、困ったことに、私は今、魔法が使えないのです」
「魔法が使えない?」
 レイニもそのような事を言っていた。ホラロは魔法を封じられている、と。
「この辺りに、魔力制御装置が埋め込まれていましてねぇ。自分では取り外せず、困ってるんですよ」
「魔力制御装置!?」
「おや、その反応はご存知のようですね。一般的には知られていない装置のはずですが。
 いえいえ、大した犯罪なんて犯していませんよ。ちょっと某国の機密データを盗んだだけでしてね。そしたら、有らぬ罪状つきつけられて、魔力を奪われてしまったというところです」
「…………」
「まあ、そういうわけでして。ここでは、知識を生かすこともできませんし、私が何を知っていようが、どうでもいいことでしょ? ですから、この装置、あなたに外していただきたいのです。意識を保ちながら、自分で外すのは、ちょっと無理ですからねぇ」
 オリンに手術で外せといっているのだろう。
「私の地の力があれば、致命傷の患者でも、容易く救えると思うんですけどねぇ。救える命が増えますよ。食料生産にも貢献できます。
 先住民と戦闘になった場合にも、必ず私の知識と魔力が必要になりますよ。……この魔力制御装置もね」
 ホラロが立ち上がる気配を感じ、シオンは長いすから這い出し、早々に退出する――

※このリアクションは以下のPCに発行されています。
シオン・ポウロウニア