アトラ・ハシス

第二回リアクション

『魔力制御装置』

川岸満里亜

 今月、オリン・ギフトは新たに3人の人物の住民登録……カルテの作成を命じられた。うち一人は新生児。
 一人は、先日訪れた、シャオ・フェイティン。そして、最後の一人が、このホラロ・エラリデンである。
 ホラロは、洪水前に偶然この島に上陸し、助かったという。文化の遅れた先住民を卑下していた彼だが、我々大陸の難民達とは上手くやれそうだということで、村に下りて来、登録を望んだとのことなのだが……。
「あなた、この村で唯一の医者なんですってねぇ。魔法学にも詳しいとか?」
 カルテを書きながら、オリンは彼の言葉に「そうだ」と答える。
「ふむ。でしたら、私もあなたの仕事を、お手伝いしましょうか」
「医療知識があるのか?」
 その申し出はありがたい。学園の仕事と、医業と、オリンは多忙を極めていた。
「いえいえ、医学の知識はありませんが、少々魔法学に通じてまして。魔法で治療を手伝って差し上げようかとねぇ」
 少々……いや、彼が、魔法学会で有名だったホラロ・エラリデンであるなら、少々というレベルではないはずだ。
「しかし、困ったことに、私は今、魔法が使えないのです」
「魔法が使えない?」
 ホラロは、自分の胸の辺りを指す。
「この辺りに、魔力制御装置が埋め込まれていましてねぇ。自分では取り外せず、困ってるんですよ」
「魔力制御装置!?」
「おや、その反応はご存知のようですね。一般的には知られていない装置のはずですが」
 先進国の上層部で使われていたという装置だ。魔法を増幅したり、制御したりできるという。その仕組みは極秘。これが体内に埋め込まれ、魔力が制御されているというのは……つまり、重犯罪者だろう。
「いえいえ、大した犯罪なんて犯していませんよ。ちょっと某国の機密データを盗んだだけでしてね」
「…………」
「そしたら、有らぬ罪状つきつけられて、魔力を奪われてしまったというところです」
 機密データ。魔法工学に携わっていた者として、興味が湧かないわけではないが……。
「まあ、そういうわけでして。ここでは、その知識を生かすこともできませんし、私が何を知っていようが、どうでもいいことでしょ? ですから、この装置、あなたに外していただきたいのです。意識を保ちながら、自分で外すのは、ちょっと無理ですからねぇ」
 手術で外せというのだ。
 魔法学会の人物であるのなら、その魔力は確かなものだろう。
「私の地の力があれば、致命傷の患者でも、容易く救えると思うんですけどねぇ。救える命が増えますよ。食料生産にも貢献できます」
 信じて良いものか、オリンは迷う。
 ホラロは、そんなオリンの様子を見ながら、最後の一言を言った。
「先住民と戦闘になった場合にも、必ず私の知識と魔力が必要になりますよ。……この魔力制御装置もね」


※このリアクションは以下のPCに発行されています。
オリン・ギフト